ヒロインの顔の傷(石化の跡)を気にする恋人千空ちゃん。めちゃ可愛い。
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千空はことあるごとに私の顔を見つめてくる。うーん、ことあるごとは言い過ぎだ。一日のうち、何回かは必ず私の顔を見つめてくる。
私はその度に首を傾げたり、笑いかけたり、逆に見つめ返してみたり・・・さりげなく反応しているのだけれど、彼はすぐに目線を逸らして別のところへ行ってしまう。
何か言いたいことがあるのだろうか。そう思って本人に聞いてみても、素知らぬ顔をして「いや別に」と言うばかり。無意識なのかもしれない。
・・・いや、もしや私の方こそ幻覚を見ているのだろうか?千空に見られているという幻覚を。そんな馬鹿な。自分が自意識過剰すぎて引いちゃう。
そんなこんなで小さな引っ掛かりを抱えていた私だったが、千空とのふとした会話でその疑問は解決することになった。
「ナマエ。癖になってるな、それ」
夜。太平洋を横断するペルセウス号の甲板に出て、遠ざかっていく景色を一人で眺めていた時。背後から千空に話しかけられて、びくっと肩を震わせる。
「・・・うわあ、千空!びっくりして落ちちゃうかと思った」
「落ちるな」
私の大げさな発言にそのまま過ぎるツッコミをいれてから、千空は海に背を向けてすぐ隣に寄りかかった。・・・海を見に来たんじゃないのか。もしかして、私とお話しに来てくれたの?そんなの嬉しいじゃないか、ぐへへ。
心の中でバカみたいに喜ぶ私。だって嬉しいものは嬉しいの。声には出さないから、ちょっとくらい許してね。
「寝なくていいのか?」
「千空こそ」
「俺はいいんだ。もうちっとだけやっておきてぇことがあってな」
「毎日言ってるじゃん。それで毎日寝不足なの」
「今日やった方が明日楽なんだよ。当たり前のことだろが」
それはそうだけど。・・・という私のセリフまでを含めてワンセットである。このやりとりを、これまでに何度繰り返したか分からない。
海の上でアメリカを目指している今、当たり前だけど以前より仕事の量は減っている。それでも千空はみんなのリーダーだから忙しいことに変わりはない。つまり、ゆっくりお話しようと思うとなかなか時間が合わないのだ。
だからこそ、千空がこうして私を見つけて話しかけてくれるのは嬉しい。たとえばほら、ちょっとしたあいさつだけでも私は嬉しくなってしまうから。その度に彼への想いを再確認できる。千空、好きだよ。
「それで、癖ってなんのこと?」
「それだ」
「・・・どれ?」
「ナマエ、いつも目の下のそれ触ってんだろ」
千空に指をさされ、頬に当てていた手を離した。手すりに肘をついて、そこに顔を乗せていただけなのに・・・確かに言われてみれば、私はよく自分の頬を触ってしまっている気がする。
千空が『それ』と示したのは、私の右目の下に伸びた一筋の傷。私が石化していた時の名残だ。
「自分ではあんまり意識してなかったんだけど・・・そんなに触ってた?」
「朝から晩まで三分おきにな」
「それは言い過ぎじゃない?」
「いや、マジ」
千空がそこまで言い切るということは、本当に『マジ』なのかもしれない。ていうか千空、どうしてそんな正確な数字が出てくるの?そんなに頻繁に私のこと見てるの?そんなの恥ずかしいじゃないか。
もしかして、最近感じていた視線はこれのせいだったりするのだろうか。私が頬を触っているから、千空の目を引き止めてしまうのか。
「千空、気になる?気になるならやめるけど」
「いや、気になるっつーか・・・」
「つーか?」
「テメーが気にしてんじゃねえのか?」
千空の発言に、思いっきり首を傾げた。
「・・・何を気にしてるの?」
「だから、その傷を」
「え?いやいやぜんぜん!気にしてないよ。無意識だったもん。触ってるのも千空に言われるまで気づかなかった」
「本当か?」
「本当だってば」
だってこれは、千空が私を助けてくれた証じゃないか。私は千空に助けられたから、こうして今ここにいるんだ。その時に出来た跡なんか、気にするどころか大好きだ。大好きだから触ってしまって何が悪い!
・・・と、真正面から言うのは恥ずかしすぎるので、少し違う方向から話してみる。
「私のこれと、千空のそれ、お揃いくさくない?まあ、私は右目の方しかないけどさ」
「まあ言われてみりゃ・・・目の上にあるか目の下にあるかの違いだな」
「ほら、よくカップルとかがさ、遊園地でお揃いの飾りつけたりするでしょ?それと一緒!」
「・・・一緒かあ?」
千空は私の傷に手を伸ばした。それから反対の手で自分の傷に触れ、同時に感触を確かめる。
彼はなんだか疑うような目をして首を傾げている。そんなに見つめられると、ちょっと恥ずかしいんだけど。
「どっちかといやゲンのと似てねーか?テメーのそれは」
「そうかな?でも、ゲンさんのはもっと下まで長いじゃん。左目だし」
「ん〜まあな。・・・お揃いかァ?」
いつまでも眉間にシワを寄せて首を傾げる千空。私はそんな彼の顔を、下から覗き込んで問いかけた。
「・・・お揃い、嫌?千空、あの時もお揃いしてくれなかったもんね」
ちょっと昔の話をします。
高校入学前の期間に、大樹くんや杠ちゃんたち仲良し四人組で遊園地に行った時の話。たまたま目についたストラップが可愛くて、千空に同じのを買おうと提案したら、当たり前のように断られたのを実は今でも根に持っている。
千空は少し考えてから、すぐに「あれのことか」と思い出してくれた。
「同じの欲しかったのに」
「・・・それは、わりーことしたわ。普通に断ったつもりだったんだが」
「断られたのがいやだったの!まあ明らかに可愛い!って感じのストラップだったから、気持ちは分からないでもないけど!」
「ナマエ、わり、許してくれ」
「・・・ゆるす」
頬を膨らませて軽く睨みつけながらそう言うと、千空は笑いながら片手で頬を潰した。
そう、そんなことがあったから!この世界でようやく千空とお揃いができて、私は結構嬉しいんだけど。ぽつりとそう呟くと、千空は途端に黙ってしまった。それから腕を組んで私を見下ろす。
「気にしてねーのか」
「さっきからそう言ってるじゃん」
「ほんとに気にしてねーんだな?」
「千空なんかしつこい」
ずばっと本音を言ってみる。すると、千空は目玉をぐる〜と一周させて、私の目を見た。それから口角を少しあげる。
「気にしてねぇなら、良かった」
そんなことを言いながら、私の頭に手を伸ばしてぽんぽんぽんぽん軽い力で叩いてきた。私はボールじゃない。
でも千空、本当に気にかけてくれていたんだ。私のこんな小さな顔の傷を。そんな顔で喜んでくれるなんて、嬉しいような恥ずかしいような。
「千空、ありがと」
人差し指で頬をかきながら短くお礼を言うと、千空はその手首をぱしっと掴んできた。そして、身を屈ませて私の頬の傷に軽いキスを落とす。
「ぶえっ!?」
「あ?」
驚きのあまり、自分のほっぺたに手を当てて千空から遠ざかる私。
「なななななにするの!」
「なんだその驚き方は。なんか俺が殴ったみてぇじゃねえか」
「だって・・・!」
急いできょろきょろ周りを見るが、私と千空以外に人はいない。それが分かると安心して胸を撫で下ろした。
「千空あのね。いきなりそういうことされると、私びっくりしちゃうから・・・」
「じゃあ前もって宣言すればいいのか?」
「えっと、それは」
「ナマエ、今からキスすんぞ」
「えっ!?」
驚く私に構わず、千空は頭の裏に手を回して唇にキスをした。今度はさっきより少し長めで、最後に下唇をぺろっと舐めて離れていく。私を見下ろし、目を細めて不敵に笑う千空。
なにそのしてやったりみたいな顔ー!私はまた同じような反応をして、千空の胸を押した。
「だ、だ、だから、千空!いきなりなにするの・・・!」
「何って、キスだ」
「そんな恥ずかしいこと言わないで!」
「3700年も恋人やってる反応とは思えねえな」
「その3700年、私はずっと石の中で眠ってたんですー!しかも千空より2年も長く!」
人類が石化した日。あの日は私が千空への告白を成功させた記念日でもある。
こんなことを言うと、少しどころじゃなくてだいぶ不謹慎かもしれないけれど。あの日のことを思い出すと、少なくとも私は幸せになれるのだ。もちろん、千空が石化を解いてくれた日のことも。
「オイナマエ。こんな調子だと、この先なんもできねーぞ」
「この先って?」
「恋人同士がこの先することといやあ、一つしかねぇだろ」
「一つしか?」
千空は指を立てて自信満々に言った。
「愛し合う」
「あッ、・・・ば、バカ!なんでそんなの真顔で言えるの!?」
「だって事実じゃねえか」
先に二年分成長してしまった彼は、私よりも随分と大人に見える。まあ、それ以前に千空は幼い頃から大きな夢を持つ、とっても大きな男の子だった。
私は千空の言動、思考の全てが好きだ。それは千空という人を表すものだから。その千空が、数千年ごしに私を助けてくれた。その時にできた傷が、嫌いなわけないじゃないか。
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リクエストありがとうございましたあ!
思ったより素敵な雰囲気に書けてうれしいです。でへへ。