THE STONE WORLD


I'll show you!

石化前、横須賀基地に駐留してる設定のスタンにナンパされて東京観光をする話。
※面食いヒロイン。
※東京、神奈川の地名などが何個か出てきます。あと在日米軍さんについて何か間違いがあったらすみません・・・。

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IN浅草

“Hey! Do you speak English?”

後ろから聞こえてきた英語に振り返ると、そこにはハリウッド男優がいた。サングラスを少し手でずらして、"Hello"と言いながら近づいてくるハリウッド男優。
いや、私はハリウッドにも俳優さんにも詳しくないので彼が本当にハリウッド男優さんなのかは知る由もないが、でも彼は見るからにハリウッド男優さんみたいなオーラを醸し出していて・・・一旦ストップ、混乱してきた。
ひとことで言うと、その外国人さんは私の語彙力では表現し切れないくらいとんでもないイケメンさんだった。しかも身長が高くてまつ毛が長くて唇がぷるぷる・・・。待って、こんな美人なイケメンがこの世に存在してていいの?世界バグった?

一秒経過。その場に立ち尽くし、彼の美貌に見とれながらぼそっと"A little…"と呟いたら、彼は外したサングラスを襟元に引っ掛けて怒涛の英語でまくし立ててきた。以下日本語表記。

「そう?そりゃよかった、俺東京のこの辺来んの初めてだからさ。アンタ近くでいい店知らね?連れてってよ」
「あー・・・、え?」

首を傾げたら、彼も同じく首を傾げた。

「この後なんか予定?」

予定はない。今日の用事はもう済ませてきたから。ふるふると首を振って否定する。

「じゃあ俺とデートしない?」

いや分からない、何言ってるの?
デート?デート・・・?心の中で彼の英語を復唱しながらもう一度首を傾げると、彼はぺこっと上半身を倒してめちゃくちゃ顔を近づけてきた。うわっ眩しい!

「英語分かんだろ?簡単な言葉使ったつもりなんだけど。今日の"date"じゃなくてお出かけの"date"な」
「そ、それは大丈夫です。分かってます」
「じゃあ何が分かんねぇの」

色々と分からないことが多すぎて・・・。
私は小さい頃から英会話教室に通っていたおかげで、一応英語の先生と英語で話せるくらいには英語力がある。それに家族旅行で海外に行った時に、ちょっとだけ活躍した経験もある。だから彼が話している言葉は分かるのだが・・・これはもしかしてナンパというやつですか?

「あなたと・・・私が・・・お出かけを?」
「さっきからそう言ってんじゃん」
「あなたと・・・私が・・・?」

ハリウッド男優のあなたと・・・一般大学生の私が・・・?戸惑いが止まらない。すると彼は桃色の唇の隙間から白い歯をチラ見せして、ニッと笑った。

「え?なに、俺じゃ不満?」

逆ですが?
さすが英語圏人・・・アメリカ英語っぽいからアメリカ人かな。彼は自分の顔面の程度をちゃんと分かっているようだ。
それにしてもあなた。とても私が隣を歩いていいような人じゃない、絶対。そんなことをしたら絵面がとんでもないことになりそう。

「不満とかそういうのじゃなくて・・・なんで私なんですか?」
「アンタ俺のタイプ」
「・・・・・・」ナンパの常套句か?
「つかもうなんでもいいじゃん、早くどっか行こうぜ?俺、小腹空いてんよ」

そう言うなり、彼は今までかろうじて保っていた距離を縮めて私の横に並び、するりと腰に手を回してきた。
えっえっ、距離感!こんな、まるで恋人がするみたいな・・・。慌てふためく私に彼はただ笑って"Let's go!"と歩き出してしまう。

「あ、あのっ・・・?」

足が置いていかれてたどたどしくなってしまうのを、彼は慣れたように抱き寄せて支えてくれた。体が密着してドキリと胸が高鳴ると同時に、ふわっと苦味のある匂いが漂ってくる。
な、なにこれ・・・私誘拐されちゃう?不安になる私に考える隙を与えさせず、彼はまた話しかけてきた。

「俺スタンリーな。アンタの名前教えて」
「あ、えっと、ナマエです・・・」
OK,ナマエ!まずはどこ行く?」
「えっ、待っ」

待って。私まだ着いていくなんて言ってない。どうしよう、どうしよう。とっさに日本語で呟きながら、この状況をどう切り抜けようか必死に頭を働かせる。
しかし彼はそんな私に「緊張してんの?」とにこやかに笑うだけ。挙句の果てには連絡先を知りたいとスマホを差し出して来るものだから、私はそんな爽やかな威圧感に負けてしまった。
たぶん何言っても流されちゃう。諦めてスマホを取り出し、彼主導となり連絡先を交換した。

「サンキュ。で、ナマエ?どこ行くの」
「どこって言われても・・・」

どうすればいいの?
こんな生粋の外国人さんとたった二人で話をするも初めてなのに・・・。どんなふうに案内するのが正解なのか分からない。
もちろんここ浅草は観光地で、私自身好きな場所だから何度も足を運んでいる。この周辺もある程度なら知っているけど・・・。

「悩むことねぇよ、アンタが連れてってくれんならどこでもいい。・・・あ、もしかしてナマエも観光客か?」
「あ、いや、家はここの近くで・・・まあ近くと行っても電車で一時間くらいはかかりますけど」
「へぇ?俺も一時間で来た」
「どこからですか?」
「ヨコスカ」
「横須賀!?ほぼお隣さんですよ!私横浜住みなので!」

横須賀かあ。偏見でしかないけど、外国人さんが住むにはなかなか不便なところじゃないか?神奈川県の端っこだし、家とか高そうなイメージあるし・・・これは偏見でしかないけど。
いや、彼はハリウッド男優なので(断定)海での撮影などをしに来ただけなのかもしれない。・・・さっきまでサングラスはしてたけど、変装とかしなくていいのかな。

「方向同じ?じゃ帰りもギリギリまで一緒いれんじゃん。迷うかもしんねぇから見送りよろしく」

なんかもう普通にデートやってる・・・。彼の腕は未だに私に巻きついてるし。
ええいままよ!こうなったらもうなりふり構わず東京観光やってやる!

「えっと、スタンリー?」
「ハァイナマエ。行先決まった?」
「お腹空いてるって言ってましたよね。もう浅草寺行きました?赤い門の奥にある」
「いや?来たばっかだから」
「それならお参りついでに人形焼食べましょう!美味しい名物お菓子です」
「なんか急にやる気出てね?」

あなたが無理やり誘ったんでしょうが!!
もういいの、せっかくなら楽しんでほしいもんね。人混みをかき分けて横断歩道を渡り、存在感のある大きな雷門をくぐり抜けた。

ずらーっと並ぶお店を両手に、長い石畳をまっすぐ進んでいく。今日は休日だということもあり人がたくさんだ。浅草にはよく来ると言ったが、浅草寺に向かうのは滅多にないのでなんとなく新鮮な気持ち。しかも今日は隣にイケメンがいる。なにこれ楽しい。
彼はお土産やさんや色々な食べ物を物珍しそうに顔を動かしながら歩いていた。外国人さんキョロキョロしちゃって可愛いな。とりあえずこれらのお店は素通りして、目的の場所へ向かう私たち。
大きな本堂を背後に構える二つ目の門を前にして、私はとあるお店の前で立ち止まった。これこそがこの辺に何個かある人形焼のお店の一つである。

「これは何?」
「ジャパニーズスイーツです。とても美味しいです」

人形焼は、親指と人差し指でつまめるサイズのあんこが入った焼き菓子。先導して一つを手に取り半分かじると、彼は同じように半分食べて、すぐに残りをぽいっと口の中に入れた。美味しそうにもぐもぐしている。
あんこは好き嫌いが出るかと思ったが、気に入ってくれたようだ。彼は"Good"と親指を立てて二個目に手を伸ばした。

すぐに二人で完食し、人の流れに合わせて浅草寺本堂へ向かった。隣を歩く彼を見上げると、横顔が既にできあがっている。
出演作品とか聞いてみようかな・・・。スタンリーって検索かければ出てくる?そもそも本当に俳優さんなのだろうか。当たり前のように話を進めてるけど、私。

「今日はどうして浅草に?」
「観光地じゃん?せっかくだから来てみようと思ってさ。久々の休日だし」
「日本でお仕事されてるんですか?」
「ああ、今はね。そのうちまたどっかの国行っちまうけど」

なるほど、撮影のために全世界を飛び回っているのか。ますます彼の俳優感が増していく。俳優感ってなんだ。

「ちなみに、どんなお仕事ですか?」
「ミリタリー」
「・・・・・・・・・えっ」

あ!だから横須賀か!そういうことか、すぐに気がついた。やっぱり彼はアメリカ人だったようだ。アメリカの軍人さん。

私は東京の下にある神奈川県出身で、横須賀の上にある横浜市在住。ニュースでたまに耳に入ってくるから、県内の米軍基地についてはなんとなく分かる。
でも彼らがどんなことをしているのかは、それこそ小中高の時に授業で習った程度のことしか知らなくて・・・ていうか軍人さんと会うのも話すのも初めてだ。

「なに驚いてんよ?」
「私、今までハリウッドの人かと思ってました・・・」
「えぇ?」

正直に告げると、彼はおかしそうに笑い声をあげた。恥ずかしい・・・。

「軍人さんって何してるんですか?」
「そりゃ色々だ」
「その、訓練とかしてるんですか?腹筋・腕立て何百回とか・・・!タイヤ引きずるやつとか・・・!」

さっきは彼が物珍しそうにしていたが、今度は私が目をキラキラさせる番だった。それを見るなり、彼は突然自分のジャケットのファスナーを下ろした。え、ファンサ?袖を掴んで右腕だけ脱ぐと、すっと肘を差し出される。

「特別だ、触ってみな」

おお、ファンサ!そのぴったり張り付いた薄手のニットの上からおそるおそる二の腕に触れると、彼が少し力を入れただけでそこに筋が通った。
き、筋肉・・・!思わず「わあ」と声をあげながら遠慮も忘れて両手でさわさわ撫でていると、またしても面白そうに笑われる。

「アンタ可愛いな。日本人って皆そんな反応してくれんの?」
「そういうわけでは・・・身近にムキムキの人がいないので驚いちゃって。じゃあもしかしてお腹も割れて・・・?」
「え?ああ、普通に」
「ええ!すごいですね!」

日頃から運動不足の私には到底マネできないそうにない。素直に感心する私に、彼は特別得意になるまでもなく「どーも」と笑った。

手を清め、線香の煙を浴びて、横に長い階段をあがって煌びやかな建物の中に入る。その辺のお寺や神社より大きな賽銭箱の前に立ち、日本式のお参りを教えてあげた。
せっかくだからと、おみくじを引いてから来た道を戻る。そんな時境内の端っこに喫煙所を発見した彼は、ライターを取り出して尋ねてきた。

「行ってきていい?見た感じ、あんた吸う人じゃねぇよな。すぐ済ますから」
「あ、はい分かりました」

確かにほんのり苦い匂いがするなあと思っていた。そっか、最近は歩きタバコとか厳しいからな。
コクリと頷いて彼を見送る私。ちょうど良いからお手洗いに行こう。後ろから彼に一声かけたら、そんなつもりはなかったのに「逃げんなよ」と釘を刺された。今更逃げたところでね。

お手洗いから帰ってきたら、彼はスマホを片手に近くの塀に寄りかかりながらタバコを吸っていた。なんだかすごい様になっていて、私は写真を撮りたくなった。
そそくさと喫煙所に近づいて、まるで街中で遭遇した芸能人に声をかけるように「写真撮っても良いですか・・・!」とスマホを掲げたら、彼は少し驚いたような顔で私に視線を寄越した。

「誰かと思えばアンタかよ。いいよ、それ貸しな」

やったー!と喜ぶ間もなく私の手からスマホを抜き取られ、またさっきみたいに抱き寄せられる。さらに頭と頭がすれすれまで近づいてきて、"Say cheese!"の掛け声とともにシャッター音が鳴った。
いえ、あの、私はですね、あなたの写真を撮りたかっただけで、一緒に写らなくてもよかったのですが・・・!しかしそんなことを声に出せるわけもなく、そのまま口の中に閉じ込めた。

「なに?思い出残したくなっちまった?」
「そ、そういうわけじゃないんです」
「遠慮すんなよ。ん、おまたせ」

彼がタバコを終えたので、私たちは次の場所へ向かうことに。

その後は押上まで徒歩で移動して、東京スカイツリーの下でアイスクリームを食べたりした。さすがにこの日は上の展望台までは登らなかったけど、下から見ても大迫力なので満足してもらえたようだ。
そうこうしているうちに太陽が沈みかけてきた。彼の最寄り駅はどこだろうか。そもそも軍人さんってどこで暮らしているのかな?乗り換えアプリを開きながら尋ねてみたら、すぐに教えてくれた。

「俺は基地内に住んでる。人によっては外に賃貸持ってたりするが」
「誰でもどこにでも住めるんですか?」
「いや?将校クラスになんねぇと」
「ちなみにスタンリーの階級は・・・?」
「ヒミツ」

秘密かあ。20歳って言われても割と遜色ない顔してるから、彼が偉いのか下っ端なのか全然分からない。調べると、横須賀基地の最寄りは汐入駅というところらしい。確認したら「そうそれ」と言われた。
そういえば私たちは帰る方向が同じだったな。押上駅から都営浅草線・三崎口行きに乗り込む。運良く乗り換えの要らない京急本線直通に乗れたので、たまたま空いた席に二人で座ってそのまま一時間近く電車に揺られていた。

「じゃあ私はここでおりますね。汐入駅はあと五つです」
「オーケー助かる。ナマエ、今日は楽しかったよ。また今度」

簡単な別れの挨拶をして、私は横浜駅で降りた。閉まるドアの向こう側で、さっそくサングラスをかけながら私に手を振ってくれる彼。
今になって客観的に見ると、彼の整った容姿がよく分かる。え?あの人めちゃくちゃかっこよくないか?私は今日あんなイケメンと一緒に東京観光したんだ・・・。貴重な体験だ。

乗り換え先の電車の中、今日何枚か撮らせてもらった写真を見返してみる。私は無意識に口元を手で押さえた。なにこれ、写真うつりが良すぎる!
今日は普通に楽しかった。色々な話を聞かせてくれたし。彼はまた今度と言っていたが私はてっきりその日限りだと思っていたので、この後連絡が来るなんて夢にも思わなかったけど。

"Thank you for today! Do you wanna go out with me again?"
(今日はありがとう!また会える?)
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な、なんて返信しよ・・・。



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