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――夢を見ている。


心底大切そうに少女の身体を腕に抱く女性と、愛おしそうに少女の頭を撫でる男性。彼等は少女の名前を何度も呼び、自分達は貴方の両親なのだと柔らかに微笑んだ。
その光景はどこまでも慈愛に満ち溢れており、少女はとても家族愛に恵まれた家庭に生まれたのだと他人事のように思っていた。

「この子は君によく似ているね。ほら、目元とか」
「そうかしら?貴方にそっくりだと思うのだけれど」

いや君に似ているよ、こんなに可愛いんだから。
違うわ、貴方によく似た優しい目をしているもの。
何度も繰り返される受け答えに含まれているのは、無限に尽きることのない幸福と愛情。少女はそれを感じ取っているのか、とても幸せそうに笑顔を浮かべる。
すると彼等は顔を見合わせた後、やっぱり私達の子供は可愛いわね、僕達の子供だから可愛くて当然だよ、と口元をだらしなく緩めて幸せそうに笑った。

「なんかもう可愛すぎて心配だなあ」
「そこまで心配する必要ないわ、大袈裟ね」
「いやだって何があってもおかしくない世の中だよ?」
「大丈夫よ、心配しすぎだって言ってるじゃない」

ふわり、と。
花が咲いたようにも見える柔らかな微笑を浮かべる女性。
女性によく似た翡翠色の双眸をぱちぱちと瞬かせた後、少女はその小さな手でしっかりと女性の洋服を掴んだ。
どうやら眠たいらしい。大きな欠伸をしたかと思えば、ぐりぐりと女性に顔を押し付けた。

「あらあら、随分とマイペースな子ね。貴方そっくり」
「そうかなあ。あ、待って。寝顔可愛い写真撮りたい」
「本当、マイペースよね」
「いやいや僕はそこまでマイペースじゃないぞぅ」

飽きることなく延々と続けられる受け答えを他人事のように見つめ続けること数分。
どんな些細なことでも幸せなのだと。
少女はその幸せの中心にいるのだと。
柔らかな微笑を浮かべて少女に呼び掛ける彼等を少しだけ羨ましく思ったことは確かで、私もああいう家族愛に溢れた家庭にいたのか――と柄にもなく思った。

「ライム」

愛おしそうに私の名前を呼び、少女の白くて柔らかそうな頬を優しく撫でる手付き。
私がどれだけ願っても声は出ないし、その幸せな家庭に手を伸ばしても届かない。ただ映像として、私は少女を見ていた。