まもるべきソラ

※「永遠のゼロ」を観ながら書いた戦闘機擬人化という超ぶっ飛び設定
※艦○れやとう○ぶ用語が出てきます
※軍事情は捏造です



ー 陸上自衛隊特殊部隊、通称陸軍や海上自衛隊特殊部隊、通称海軍による謎の敵対勢力との戦闘が激化する中、制空権の重要性が改めて問題視された。今まで海軍の空母部隊が負っていたそれは徐々に海軍を圧迫し始め、20XX年、遂に航空自衛隊特殊部隊、通称空軍が設置されることになる。



システムとしてはこうだ。陸軍において審神者、海軍において提督と呼ばれる位置にくる「司令塔」なるもの達が他軍における刀剣男士、艦娘となる「機士」を率いて領空を侵す敵機を殲滅する。制空権確保により陸海軍が動きやすくなれば作戦の効率が上がるし、より高性能の機士を生み出すための資材設備も充実する。そしてさらに多くの敵機を撃墜する……旧空軍の存在しない国であるが故に陸海軍の支援が主になるが、そういう組織があるだけでも士気向上には有効だろう。上はそう判断したようだった。

こうやって口で言うのは簡単だが、現実はそう甘くはなかった。書類上は対等な存在だが、設置の遅れた空軍は常に格下と思われる。陸海軍に少しでも不利に働きそうな申請は悉く上層部に一蹴される。設備も未だ十分でない中でも無茶な要求が飛んでくるし、そもそも司令塔の適合者があまり発見されていない。陸海両軍が設置されて間もない頃、彼らが受けたそれと殆ど同じような扱いを受けていた。

斯く言う私もその一人だ。成田律、29歳。小さい頃から飛行機が好きで整備士を目指していたが突如政府から通知を受けあれよあれよと言う間に航空自衛隊特殊部隊、空軍に所属することになった。本人の意思だとかは全く無視して、ええ、気づいたら。抗議しようにも辞表は受理されないし既に高額のお金が振り込まれてしまっているし親は助けてくれないし。任命初日、基地と呼ばれる司令塔の為の拠点にて、あまりの不憫さに自棄酒をして早速初機士に迷惑をかけたのは今ではいい思い出だ。

今日の予定を脳内で確認しながら自室を出る。朝食は何が出るだろう。出撃先を決めなければ。合同演習の相手の確認。洗濯物は乾いているだろうか。昼食は誰と食べよう。新領空探索の催促。会議室の場所は。夕食担当誰だっけ。ああそうだ夜間飛行訓練もあったはず。様々な方向に飛んでいく思考の途中、ふと思い出した、とある機士。先日ようやく先行実装にこぎつけた旧海軍の彼は、全くと言っていいほど編入報告がない。資材の消費量が重すぎると何度か上に文句を言ったらしいが、歯牙にも掛けないという。その名に見合った価値を付けるためだあ?こっちは上層部の理不尽な要求の為少しでも多くの戦力を求めているというのに。国内トップクラスのステータスを誇った彼がいれば、敵機攻略もうんと容易くなる。何故理想だけを押し付けて、私達の求めるものを与えてはくれないのか。苛立ちに任せガツガツとヒールを鳴らしながら歩いていけば、一人の機士が壁に体を預けながら気だるそうにタバコを吸っていた。一瞬の憤りも、彼を見ただけで鎮まっていくのだから不思議だ。

「おはよう、"松田"」

気づいているだろうに、サングラスの奥に隠れた瞳は一点を見つめたまま動かない。視線の先、窓の外では、自軍の一機が蒼い空の下を軽やかに飛んでいた。不可思議な動きをするそれは、しかし決して故障などではなく、蒼いカンバスを白く彩っていく。

「相変わらず器用だね"萩原"は。おはようだってさ」

空の条件がいいのか、飛行機雲は形を崩すことなく機士…萩原のダイナミックな挨拶を届ける。松田は何も言わず、機体が着陸体勢に入るのをただ見つめていた。

松田、本来の名称はキ45改二式複座戦闘機「屠竜」。見事な天パと愛想のかけらもない仏頂面が友人を想起させ、編入初日ついうっかりその背中に「松田!」と声をかけてしまったのがこの呼び方の始まりだ。やってしまったと思ったが本人が特に気にする様子をみせなかったのでそのまま呼び続けている。萩原も似たような理由だ。本名はキ100五式戦闘機。その運動性能を彷彿とさせる爽やかな性格が、やはり彼を思い出させたのだ。かねてから愛称を欲していた彼は萩原と呼ぶのを快く承諾してくれた。他基地でも「爽やか君」の愛称で親しまれているらしい。

機体からでてきた萩原が松田と戯れ始めたのを横目に、広い飛行場を見渡す。今日は萩原しかいないようだ。

「萩原、スコッチは?」
「スコッチ?ああ、紫電か。見てないけど。ちょ、痛いいたい屠竜ギブ!ギブ!!」

叫ぶ声は本物なのに笑顔の所為でイマイチ痛みを感じている様子が伝わらない。咥えた煙草の灰を撒き散らすことなく器用に技をかける松田の無表情も相成り、何だかシュールだ。しかしまあ、スコッチがいないと分かれば探しに行かなくてはならない。今日の予定を完璧に把握しているのはフライトリーダーである彼しかいないのだから。…私が覚えろって?善処します。

食堂を覗いても、目当ての人物は見つからない。一番付き合いの長い初機士だからある程度の行動は読めていると思ったのだが、あまりの難航っぷりにだんだん悲しくなってきた。食堂に来たついでに一時捜索を中断し、もそもそと朝食を済ませる。時間としては少し早いが、また戻ってくるのも面倒だった。

「よう律、今日は早えな」

どかりと目の前の席に腰を下ろした男は自主練後らしく、手に持っていたコップの水を一気に飲み干した。ふうと一息つき、私の皿から漬物を掻っ攫っていく。

「ああ!最後に食べようと思ったのに!」
「やっぱ美味いな」

割と自由なこの男、正式名称を銀河という。が、私はやはりその外見的特徴から伊達と呼んでいる。正しい名前で呼べないわけではないのだが、どうしても呼び親しんだ名を口にしてしまうのだ。伊達と呼ばれることに慣れない最初の頃は苦笑いを返されたが、今では普通に返事をしてくれる。

「屠竜と五式に聞いた。紫電を探してんだろ?訓練場から此処に来るとき、工廠で見かけたぞ」

突然降ってきた情報に驚き、飲んでいた味噌汁が入ってはいけないところに入っていった。咽せる私に大丈夫かと問いかけ、でもあまり心配はしていないようで、伊達は更に続ける。

「あいつの実装聞いて喜んでたからなあ、紫電の奴」

工廠、即ち新たな機士を呼び出すための場。先行実装の始まった彼。工廠を動かせるのは司令塔かフライトリーダーのみ。…私の代わりに資材の管理を買って出たのは誰だ?

「ご馳走様でした伊達後は食べていいよ」
「おう」

ニヤリと笑った伊達に、最初からこれが狙いだったのではと悟ったが、今はそれよりも重要なことがある。朝食の乗った盆を押し付け、私は食堂を飛び出した。前言撤回、予定と状況の把握はきちんと自分でやります。あいつに、スコッチに任せたらその内資材が枯渇する。近い未来を想像し、あまりのリアリティに思わず思考を放棄してひたすら無心で走り続けた。


「律!」

工廠にたどり着く最後の曲がり角で、件の人物と鉢合わせた。スコッチ、本来の名は紫電。私の初機士であり、今はフライトリーダーも務めている。人懐こく溌剌としていて非常に接しやすいのだが、大雑把な性格が度々問題になっている。彼曰く"海軍直伝カレー"を振る舞われた時はあまりの劇物に台所出禁となった程だ。ただのカレーを作ったはずなのに何故あれ程のものがうまれたのかは今でも謎だ。因みにスコッチ呼びの由来は、自棄酒した時に飲んでいたからである。例に漏れず友人の名で呼ぼうともしたのだが、何故かスコッチ呼びを気に入られてしまい今に至る。

「スコッチ!あんた勝手に「そんなことより!」」

興奮を抑えきれないといった表情に、思わず口を閉ざしてしまった。被せてきた言葉の勢いそのまま何かを言おうとしたが結局言葉にはならず、とにかく来いと腕を引かれる。男の全力疾走に何とかついていけば、バンと乱暴に開け放たれた工廠の扉に反応して誰かが振り向いた。

蛍光灯の光を受けたミルクティー色の髪がふわりと揺れる。空と海とを切り取った蒼の中に、私が浮かんだ。私を見つめたまま、誇らしげに、愛おしげに、彼は微笑んだ。

「零式艦上戦闘機、通称零戦。ゼロでもレイでも、好きなように呼んでくれ。特技は左捻り込み。こんな見た目だが、生まれも育ちも日本だ。我らの祖国をまもるため、この力、存分に振るおう」

零戦という名や知り合いによく似た機士がいることから、何となく予想はしていた。けれど、流石にここまで似なくてもいいのではないだろうか。


私の初恋の相手、降谷零に。