温もりのクオリア



今にも降り出しそうな曇天。
脳天を撫でるような厚く暗い雲が空にゆっくりと溜まっていく。もうすぐに雨が降るだろう。


とある廃病院が今日の任務先だった。
十数年前に廃業になったその病院はその地域有数の心霊スポットとして名高く、遊び半分に訪れる者も多い。その中に数名行方不明者が出たことで呪霊の存在が明らかになった。窓が調査したところ、推定二級の呪霊と判明。七海と苗字が派遣された。

割れた窓ガラス、樹木に侵食された建物、立ち入り禁止の古びた看板、壁に描かれたグラフィティ、錆びたフェンス。なるほど、心霊スポットと噂されるもの理解できるほどの荒れた様子。
管理する者のいない建物の末路などそんなものだ。

呪霊が巣食う場所は大抵本能的に恐怖を感じるような悍ましさがあるが、そういうところへ行くのが仕事である二人にとっては慣れたものだった。
帳を張り、二の足を踏むこともなく病院の中へ入っていく。

周囲に警戒しながら、まずは一階を見回る。
この廃病院は三階建で、元は小児科と産婦人科があったらしい。一階はロビーや受付が中心で、二階に産婦人科、三階に小児科。
散乱したガラスを踏み歩きながら、七海は周囲を観察する。

そうでない者にはわからないが、それを視認できる彼にはこの建物全体にこびりついた濃厚な呪いを確認することができた。呪霊の影響はどこかのフロアだけというわけではないらしい。病院全体に広がる濃い残穢によって、逆に呪霊の居場所の探知が難しくなっていた。

「虱潰しに確認していくしかなさそうだな」
「そうだね」
二人が歩く音だけがひと気のない廊下に響く。周囲を警戒しながら一階フロアをぐるりと一周するが、何も現れない。一階の調査はそこで切り上げ、階段で二階へ向かう。かつては子供や妊婦の声で溢れていたであろうこの場所も今は心霊スポット、ただの恐怖の対象でしか無くなっていた。


階段を上がり、二階に辿り着く。階段から見て、向かって正面にはナースセンターが、左側には入院のための部屋が、右側には分娩室等の医療関係の部屋がある。

「右」
「右」
意見は一致した。二人は黙って右手に進んでいく。
呪術師なんて仕事をしていると、仕事として病院に出入りすることは多くなる。経験上、入院施設などよりも医療施設の方面のほうが呪霊は発生しやすいのだ。
医療行為は人を救うための行為でありながら、人の死や痛み、恐怖と密接に繋がっているためだろう。
まして、産婦人科。子を産むというある種輝かしい行いでありながら、実際に分娩室内で行われるのは泥臭く、血と苦痛に塗れた出産という行為だ。

右手の廊下奥にある分娩室へ向かって並んで歩く二人の足音に、異音が混じり出した。ブブブ……と小さな音が鼓膜を揺らす。それは例えるのなら蛍光灯の灯が消えかけているかのような音。けれど現在この建物には電気は通っていない。耳を澄ませながら、その音の源を探っていると、それが段々と大きくなっていくことに気がついた。

「来た」
そう苗字が呟くのと、それが現れたのはほとんど同時だった。
廊下の向こうの暗がりから輪郭を表したのは人の胴程度の大きさはありそうな巨大な蜂によく似た呪霊。
先ほど聞こえた異音はこの蜂の羽音だったらしい。そう広くない廊下にその音が反響し、増幅していく。一体だけではない。現れたのは全く同じ姿形をした呪霊が五体。

「苗字、後ろを頼む」
「うん」
それは前方からだけではなく、二人を挟み撃ちにするように背後からもにじり寄ってきていた。
苗字は七海の背中を守るように後ろを振り向き、やはり同じ姿をした呪霊を三体、目に写す。それらが鋭い針をこちらに向けて攻撃体勢を取った瞬間、

バチン

苗字の術式によってそのうちの一体が気化し、消滅する。
その音を合図に七海は前方の呪霊へ距離を詰め、その体を躊躇いなく叩き切る。その勢いのまま、次の呪霊へ鉈を振るった。素早くそれを避けようとした呪霊の動きさえ予測して、7:3、クリティカルヒット。容易く呪霊は掻き消える。残り三体。鉈を振るう。外す。クリティカルが入らない。二撃目で落とす。次、一撃で落とす。最後、照準がブレる。刃がズレる。呪霊の脚を落としただけ。返す刃で今度こそ当てる。クリティカル。

「チッ」
まだ精度が悪い。五体の呪霊を祓った七海は鉈にこびりついた呪霊の呪力を血払いして、苗字の方へ振り返る。視線を向けた先にいる彼女もまた当然のように怪我なく、後方から来た呪霊を祓い切っていた。

「なにか、おかしいね」
「ああ、祓った割に手応えが無さすぎる」
現れた呪霊は確かに祓った。だが、あまりにも手応えがなかった。霧を手で払うような手応えの無さ。

「本体は別にいると考えた方が良さそうだな」
「そうだね。さっきのは本体から分かれた働き蜂ってところかな」
女王蜂を倒さないとダメそうだね。
普段通りの声音で苗字が呟くのと、再び同じ姿形の働き蜂が群れを成して階段方面からやってくるのはほとんど同時だった。

「……働き蜂が無尽蔵だったら面倒だね」
「さっさと本体を見つけて叩きましょう」
「うん」
ブランク解消のためには数をこなす他ないと分かっているが、だからといってデスマーチを望んでいるわけではない。
前衛の七海と後衛の苗字で呪霊を片付けながら階段方面へ戻る。割れた窓ガラスの隙間から入り込む雨粒は段々と大きく、激しくなっていく。
呪霊はみな上階からやってくるようだった。その果てに本体がいるのだろう。呪霊を叩き切り、打ち祓い進む。


やってくる呪霊を辿って、やがて辿り着いたのは廃病院の屋上。

最上階から続く扉の先には、どこにでもあるような何の変哲もない屋上だった。剥き出しになったコンクリートが続く床、薄汚れた空調設備。かつては洗濯した清潔なシーツをここで乾かしていたのだろう、広々とした屋上は汚れ、崩れ、数多のガラクタが転がり、かつての景色は見る影もない。

落下防止の高い柵の向こう側は張られた帳のために、夜のように暗い。その夜闇のような帳さえ擦り抜けて降り注ぐ雨音を掻き消すような無数の虫の羽音。
100近い蜂の呪霊が侵入者たちへ向けて威嚇のために大きく羽音を鳴らしながら飛び回り、人の腕くらい容易く千切れそうな大顎をカチカチと鳴らした。そうやって広い屋上を飛び回っていた呪霊たちが、やがて一ヶ所に滞空して針を二人へ向ける。
威嚇行動はここまで。彼らはターゲットを決めたらしい。

「この虫をどうにかしないと本丸には行けなさそうだね」
「厄介だな」
無数の蜂の向こう側、屋上の端に、働き蜂に守られるように目的の本丸がいる。

それまで見てきた蜂よりもさらに巨大な、大型トラック程度の大きさはありそうな女王蜂が大顎を鳴らして確かにこちらを見ていた。
屋上に巣食う巨大な蜂の巣に呪霊本体の背中側が半分融合している。巣の融合した本丸である呪霊の上半身は蜂の姿だが、胴から腰にかけて警戒色の硬質な体がだんだんと人の体に近くなり、ふわりとスカートのように広がった腰から伸びる足はまるで人のもののようだった。広げられた脚の間からは、ぼとり、ぼとりと絶え間無く新しい働き蜂が産み落とされていく。

そこに出産という行為が内包する生命への尊さは無く、悍ましいまでのグロテスクさだけがあった。それは呪霊という負の感情から生まれた存在が、新たに負の感情の塊である呪霊を生み出すという虚しさにあるのかもしれない。
どうであれ、祓うほかに選択肢はない。

飛びかかってくる無数の蜂を来たものから祓う。祓う。祓う。大元である本丸へ早く距離を詰めたいが、それよりも先に飛びかかってくる働き蜂を祓うのですぐに手一杯になる。

耳障りな羽音。
風を切る鋭い針。
二人を打ちつける大粒の雨。

厚い層となった呪霊の群れに対応するだけで少しも前に進めない。無理に進めば背後を空けてしまい、前後の対応に追われることになる。

ましてこの働き蜂は倒したところで、新たに別の働き蜂を本丸である女王蜂が生み出すだけ。いたちごっこは本丸か、七海と苗字の呪力が尽きるまで続く。そしてこのままではその可能性が高いのは後者の方だ。

「苗字」
ならば、と七海は素早く仲間の名を呼んだ。
「うん」
その声に、呪霊を祓いながら苗字は応える。
七海は前を向いたままゆっくりと後ろに下がり、背後から後衛としてフォローをしていた苗字と肩を並べたところで、彼女に「道を開いてくれ」と素早く言った。

「3秒が限界」
「充分だ」
前を見据えたまま七海は答えた。

「私が祓う」
「うん、七海に任せる」
その言葉に、向けられた信頼に沸き上がりそうになる心を七海は抑えた。喜ぶのはその信頼に応えてからだ。

下がった二人を見て好機と思ったのか、勢いよく此方へ襲いかかってくる呪霊にさえ恐れることもなく、苗字は静かに両手で印を組んだ。

苗字の術式はごく単純だ。
掠取呪法。
対象から一定量の呪力を奪う。ただそれだけ。
奪った呪力が術師である苗字に還元されることはない。ただ奪うのみ。低級呪霊であれば一度の術式発動だけで消滅させることができ、格上であろうともエネルギーそのものである呪力を奪うことで弱体化させることが可能になる。

苗字は目を開き、術式を発動させた。
その瞬間、彼女の正面から直線上にいた数多の蜂の呪霊が音を立てて消滅する。
苗字が術式を発動させた範囲内のみ、あらゆる呪力が抉り取られたように奪われる。真っ黒な紙に白い絵の具を落としたように、その空間だけ呪霊が消滅し、何もかもが空になる。
それが彼女が開いた道だった。
少し待てばすぐに新たに生まれた呪霊によってこの道は塞がれるだろう。

「七海」

自分を呼ぶ声に背中を押されて、七海は走り出した。
開かれた道の中心を駆ける。右手の中には慣れた鉈の柄の感触があって、前へ前へと進む体は冷たい雨に濡れても軽かった。

……思えばずっと走っていた気がする。
術師を志した時も、その半ばで折れた時も、再びこの世界に戻った時も、ずっと、ずっと。
どんなに走っても絶望から逃げられなかった。
どんなに走っても理想には届かなかった。
抱いた嘆きはきっと消えないだろう。

それなら、絶望さえ引き連れて生きよう。
それでも、届かない手を伸ばし続けよう。
それだけが走り続けると決めた七海への罰であり、赦しだ。

苗字が作った空白の道。その先にいる本体。
約10メートルの距離は一拍で詰められた。
距離さえ詰めて仕舞えば、あとは呆気ない幕引だった。

動きもしない。攻撃もしない。
ただ呪霊を生み出す機能と化した本体など、今の七海でも当てられる。振り抜く腕。切り込む刃。死の線を辿るように、それは呪霊の体を7:3の位置で容易く断絶させる。

ズルリと二つに分かれた巨大な体が重力に従って落ち、地に辿り着く前に消滅した。生まれ落とされた呪霊は羽ばたくことなく地を這いずり消える。鼓膜を揺らし続けた羽音はひとつひとつ消えていき、やがて帳の中には雨音だけが残った。


打ちつける雨に濡れた髪が七海の額に張り付く。水を吸ったスーツは重く、微かな疲労が今になって体を覆う。
七海はゆっくりと振り返った。静かな廃墟の屋上、七海の視線の先には苗字がいた。彼女だけがそこにいた。

雨が線のよう降り注ぐ視界の中、苗字は七海に向かって何かを言った。
けれどそれは次第に強くなる雨と風の音に掻き消されて何も聞こえなかった。聞こえなかったから、七海は静かに彼女のそばに近づく。
苗字の声が届く場所まで、歩みを進めた。

「七海」
今度こそ、声は確かに届いた。

「ありがとう」
「ありがとう」
二人がそう言い合ったのは同時で、それに少しだけ七海は笑う。苗字が黙って差し出した両手を七海は当然のように両手で取った。

「七海」
「ああ」
「足折れたかも」
「……は?」
七海は慌てて苗字の手を自分の肩に掴ませると、そのまま彼女の足元に膝を着いてしゃがみ込んだ。

「右か?場所は?」
「いや、左の足首?多分だけど」
「靴を脱がす」
「いったん中に入ろうよ、七海濡れちゃうよ」
「もう濡れてる。いいから動くな」
「七海」
「動くな」
肩にかけられた手から伝わる体重さえあまりにも軽い。七海は苗字の靴を脱がすと、その左足を手に取る。確認してみれば、彼女の言った通り左の足首が薄いタイツの下で真っ赤に腫れ上がっていた。

七海はじろりと下から苗字を睨むように見た。
「……いつから」
「歩きづらいなって思ったのは、階段上がってる時?」
本丸に辿り着くより前ではないか。

「何故すぐに言わなかった」
「後でで良いかなって」
「良いわけがない。馬鹿か?いや、馬鹿だ」
「……七海、怒ってる?」
「怒っている」
「どうして?」
「貴女が自分を蔑ろにしたからだ」
七海は可能な限り優しく彼女の足を手に取って、患部に触れる。熱を持って膨れ上がった足首。見るだけで痛ましく思うけれど、それさえ彼女には遠い感覚なのだろう。

「苗字」
「うん」
「折れてはいない。捻挫だ」
「つまり、歩いて帰れるってこと?」
「そんなわけないだろう」
苗字は黙って、少し考えるような顔をした。
何を考えているのか、七海にはわからない。わからないから待った。

「七海」
「ああ」
「私、一人では帰れないみたいだから、」
もし、置いていってくれなどと言ったら七海は今度こそ本気で怒ろうと思った。
けれど、その必要はなかった。

「助けて、くれる?」
苗字は何の感情も無い顔のまま、自分の前に跪く七海の顔を真っ直ぐに見て、そう尋ねた。
ただ、それだけのこと。

「……あたりまえでしょう」
助け合うこと。寄り添い合うこと。
ただそれをするだけのことが二人にとっては星々の距離ほどに遠いものだった。
ここに辿り着くためにどれだけの距離があったのだろう。それだけのことができずにどれだけの時間が流れたのだろう。
けれど、その余りにも大きかった隔りさえ、今はもう過去のものだ。

たくさんの過ちがあった。たくさんの消失を経た。たくさんの傷を与えて、抱えて、長い道を走り続けてきた。その時その時で最善であれと願った選択を重ねたその果てに今、ようやくこの瞬間に辿り着く。

七海は苗字の手を取って、ゆっくりと立ち上がった。
「助ける。私は私の最善と最大限を持って、貴女を助ける」
だから、と七海は続けた。

「いつか私が困った時には、どうか私を助けて欲しい」
傷つけ合うことから逃れられないのならば、せめて同じだけ互いを救え合えたらいい。それさえ、きっと届かない理想だとしても。

釣り合うことのない傷跡と救済を重ねて、生きていけたのなら。

「うん」
苗字は確かにうなづいた。
うなづいて、目の前の彼の名を呼んだ。

「七海」
「ああ」
「……七海は、私を冷たいと思う?」
唐突にそう問われた彼は少しだけ驚いたように間を置いて、それからすぐに口元に笑みを作った。雨に濡れて冷たくなった彼女の掌をそっと握ったまま、目を細める。それはあるいは少しだけ世話のかかる友人を見るような、そんな瞳だった。

「……ええ、少し。でも、大丈夫」
「そう?」
「貴女が貴女であるだけのことだ。大したことじゃない」
「傷つけるかも」
「私も貴女を傷つけるかもしれない」
「苦しめるかもしれないよ」
「同じこと。私だって貴女を苦しめるかもしれない」
「七海」
「ああ」
「……一緒に苦しんでくれる?」

吐いた息だけが微かに熱を持つ冷たい雨の中、互いの体温を分け合うように手を握り続ける。

「ええ、一緒に苦しみましょう」

そう言った時、七海の視界の中で、苗字の瞳から涙が溢れたように見えた。それはもしかしたら涙ではなく、頬を伝った雨粒だったのかもしれない。流れていったそれは足元に広がる水溜りの中で、もう真偽は見つけられない。

握った手を、ぎゅうと強く握り返される。

それだけでよかった。
それだけを本当はずっと望んでいた。














それから数ヶ月後、七海は五条の推薦を受けて準一級に上がり、それから間も無く一級に昇進した。妥当な判断だと七海自身も納得の上での昇級だった。

苗字とのその後について、特筆するようなことは何も無い。
あの日を経て苗字が大きく変化するようなことは無かったけれど、七海の前で無理に喜怒哀楽の表情を浮かべることも無くなった。そんな程度だ。そんな程度のことを、ずっと望んでいた。




ある日、一級任務を終えて高専に戻った七海は報告後、通りかかった休憩室で聴き慣れた声がすることに気がついた。
少しそこに顔を出そうと思って休憩室に入った七海が彼らへ声をかけるより先に、七海に気がついた彼が嬉しそうに声をあげる。

「ン七海サン!」
パッと表情を明るくしてこちらへ手を振ってきたのは、猪野だった。

一級に上がってから受けたとある任務でサポートをしてもらって以降、何が琴線に触れたのか、彼は七海に懐き、事あるごとにこうやって笑顔で声をかけるようになった。悪い気はしない。少し調子のいいところもあるが、それさえ彼の愛嬌だと思えるくらいには七海も猪野のことを憎からず思っていた。

「ん、七海」
そんな彼が、苗字と休憩室のテーブルを囲んでなにやら楽しげにしていた。二人はテーブルの上に大量の菓子を広げている。

よく見るとそれは全てグミだった。
コンビニで見かけるようなものから、パッケージに外国語が記載された輸入品のものまで、テーブルが見えなくなるほど大量のグミがそこにあった。

「二人はなにを?」
七海が訝しげにそう尋ねると彼らは声を揃えて言った。

「グミパーティ」
「グミパーティっス」
「グミパーティ……?」
返答にさえ首を傾げる七海に、説明するように猪野が口を開いた。

「ほら、苗字サンって味覚があんまわかんないじゃないですか。でも食感はわかるらしいんで、じゃあグミはものによって噛み応えも違うから苗字サンも楽しめるよねーってことで、グミパーティっス!」
「……なるほど」
七海も知らないところで、苗字は案外後輩たちと仲良くやれているらしい。次々と包みを開けては口に放り込む二人に、表情を変えないまま七海は少し和む。


「七海も食べてみる?」
そう言って苗字が差し出してきたのは、見るからに人工着色料の赤色40号ですと言わんばかりの真っ赤なストロー状のグミだった。何処のものか尋ねなくともアメリカ産だとわかる。
若干顔を顰めながらも差し出されたグミをそのまま口で受け取る。ゴムチューブを噛んでいるかのような歯応えだった。

「どう?味はどんな感じ?」
「……甘いな。子供の頃に飲んだシロップみたいな感じだ。少し薬みたいな味がする」
「美味しいってこと?」
「クソ不味いってことだ」
「そうなんだ」
苗字は七海が口にしたグミと同じものをカミカミしながら「噛み応えはいい」とうなづきながら呟いた。

そんな二人を猪野は少しぽかんとした顔で見ていた。

「……七海サンって、苗字サンにはタメ口なんスね」
誰にでも敬語だと思ってました。
そう言った猪野の言葉に、七海と苗字は無言で顔を見合わせた。

「そうですね。まあ、同期ですし、それに、」
「それに?」
先を促す猪野に、七海と苗字は声を揃えて言った。



「友達なので」
「友達だから」