「あっ……あかん、謙也、あかんってぇ……」
「んん、大丈夫やって、もうちょいやから」
「そのもうちょいがあかんねんって……」
「なあ、もうちょい奥に押し入れてええ?」
「奥いけれへんて!」
「大丈夫やって!」
「あかんゆーとるやろアホ!倒れるわ!」
ガッシャーンとやかましい音を立ててジェンガは崩れた。もちろん倒したのは謙也だ。
スピードスピード言って、慎重さが足りないから謙也はすぐにジェンガを倒す。だからこういう繊細さが必要な遊びは下手くそなのだ。
「言うたやん、あかんて」
「いけると思ったんやけどな〜、スピードが足りひんかったか?」
「スピード関係あらへんわ」
ほんまアホやな、とローテーブルからバラバラと落ちていったジェンガを1つ1つ集める。
こういうのはちゃんと確認して全部集めないと、後で立ち上がった時に拾い残してしまったジェンガを踏んで激痛に転げ回ってしまうものだ。大阪人的にはまあ美味しい展開ではあるが、そういう体を張ったネタは全部謙也に譲りたい。
「せやけど久しぶりにするジェンガめっちゃ楽しいな!もっかいやろや!」
「ええよ」
下手くそなくせにニコニコと新しくジェンガを積み上げ始める謙也。
どうせまた勝つのは私だろうが、謙也が楽しそうならまあいいか、とぼちぼち積み上げる作業を手伝うことにした。
…………って、いや、なんでやねん。
思わず頭の中でツッコミを入れる。
今の情報を整理しよう。
現在時刻21時30分。
場所は謙也の家の謙也の部屋。
いま謙也の家にいるのは謙也と私と、謙也のペットのイグアナだけ。
実質、私と謙也の2人きりなのだ。
そもそもの始まりは昨日の帰り道、謙也に「明日の夜、親2人とも出掛けておらんのやけど泊まりに来おへん?次の日土曜やし暇やろ?」と誘われたこと。
「……えっ」
「弟もな、友達んち泊まるらしくてな、つまり俺んち貸切っちゅー話や」
「……………」
「ん?なんか用事あるん?」
「なっ、無いわ!アホ!行くわボケオラァ!」
「何急にキレてんねん」
それが昨日のこと。
なるほどな、理解したぜ謙也!つまりはそういうことやな!そういうことでええんやな!…………と、私はそう思って気合いをいれて来たのだが。
「おっしゃ!ジェンガできたで!次名前が先攻な!」
「………おん」
なんでウチら仲良くジェンガしてんのやろな。
「おっ!やるやん名前、ええとこ取るなぁ!」
「せやな……」
「おっしゃ!負けてられへんわ!行くでー!」
「せやな……」
「うおっ!ここめっちゃぐらつくわ!」
「せやな……」
…………なんや可哀想や、気合い入れて着てきた私の勝負下着が。
いや普通付き合ってる彼氏に家に誰もいないから泊まらん?って聞かれたら期待するやん……いやや、なんか急に自分だけが先走ったみたいで恥ずかしゅうなってきた……。
「名前、めっちゃジェンガ強ない?」
ちゅーか、なんでこいつは当然のようにジェンガ楽しんでんねん。
彼女が夜に自分の部屋におんねんぞ。ちょっとは緊張しろやアホ。
「……謙也がアホほど弱いだけや」
「誰がアホや!」
アンタに決まっとるやろ。
ちょっとガッカリして、ちょっと呆れて、それからまあ謙也だししゃーないか、と結論づけた。
まあ別に無理に新しいステップに進む必要もないのだ。
今だって謙也と遊んでるのは普通にすごく楽しい。だから今は今を楽しむのが1番な気がしてきた。うんうん、確かにそうだ。人間、開き直ったモン勝ちや。
「……っしゃおら謙也ー!かかってこいやー!」
「なんや、急に気合い入るやん……」
「アンタはなに急にテンション下げてんねん、あげーや」
「おん」
バシバシ背中を叩くと「いった!アホ!ゴリラか!」とつっこまれる。
「こんな美少女捕まえてゴリラとはよー言えたな!」
「どこに美少女がおんねん!連れてこいや!」
デリカシーがなくて、やかましくて、ちょっと抜けてて、たまにかっこよくて、実は結構優しい。そういうところを好きになったのだ。
好きだから許せるのか、許せるから好きだってことなのかはわからないけど、惚れた方の負けだ。両手を上げて降参するしか無い。
好きだから仕方ない。
ちなみにジェンガは全戦私が勝った。
私が強いっちゅーか、謙也があまりにも弱すぎる。
◇
「で、もう眠いんやけど私どこで寝たらええの?布団とかあんの?」
「俺のベッドで寝ればええやん」
「えっ」
「えっ」
「えっ、謙也は何処で寝んの」
「えっ、俺も同じベッドでやけど」
「えっ」
「えっ」
じゃんけんで勝ったから私が壁側で寝ることになった。…………えっ?
「ほな電気消すでー」
「……おー」
カチッとスイッチの音と共に電気が消えて、一気に部屋が暗くなる。
謙也が隣に寝転んだ途端にベッドのスプリングが軋む音。それから、謙也がすぐ近くで「はあーー」と大きく息をつくその吐息に思わず肩が跳ねる。
ま、まさか同じベッドで寝ることになるとは思ってなかった。あ、いや、家に来た当初は思ってたけど、怒涛のジェンガタイムで諦め切ってたから、まさかこんなことになるなんて予測できなかった。
謙也んちのベッドは確かに2人寝ても余裕がある程度には広いけど、やっぱり近い。当然近い。ちょっと寝返り打ったらすぐ肩とか腕とかぶつかりそうやし。ど、ど、ど、どうしよ、心臓の音バクバク言ってる。音めっちゃデカい。謙也に聞こえてんとちゃう!?あかん……寝れそうにないわ……!
頭の中がぐるぐるしてる。こんなのとてもじゃないけど寝れない。隣で謙也がちょっと動くだけでビクビクしてしまう。
つか、なに謙也は普通に寝てんねん。隣に可愛い彼女おんねんぞ!ちったぁ手ぇ出さんかい!
「なあ、名前。もう寝たかー?」
などと思っていたら、まだ寝てなかった謙也に急に話しかけられた。ビクーッ!と体が硬直する。
「……ま、まだやけど……」
思わず返事をしてしまった。
寝たふりしといたほうがよかったのかもしれないと思ってももう遅い。天井を見ていた謙也がコロンと私の方へ顔を向けた。
やめーや、ほんまこっち見んといて。暗いってわかってるけど、顔見られたって顔赤いのなんかわからないだろうけど恥ずかしくてかなわない。
「なあ名前。なんや、こういうのドキドキせぇへん?」
……な、んで、そんな、急に。
さっきまでアホみたいにジェンガしとったくせに。いつもはギャーギャーやかましいくせに、こんな時ばかり落ち着いた穏やかな声を出さないでほしい。
思わず自分の胸のあたりでぎゅっと拳を握る。
ああ、やっぱり私、この男の子のことが好きなんやなって、そんなことを再確認する。
「…………う、うん。せやね」
「せやろー!めっちゃ修学旅行の夜みたいっちゅー話や!寝んのもったいないわー!な!恋バナせーへん!?恋バナ!」
「…………………………あ゛?」
「なあなあ!名前は好きな子おるんー?なーんてな!ワハハ!」
…………ほんまこいつアホちゃう?
頭ん中でプッツーーンと何かが切れる音がした。
「……そんなんアンタに決まっとろーが!こんアホ!!しばき倒したろかほんまこのクソボケが!!」
謙也をベッドから蹴り落として寝た。
惚れた方の負けとか言うとる場合とちゃうぞほんまこれ。
謙也の分の毛布も私の方へ引き寄せて自分のものにしてやる。ほんま信じられへんこの男。私のこと本当に女やと思ってんのやろか。
「な、なに急にキレとんねん……」
ベッドから落とされた謙也はぼーぜんとした顔でこっちを見る。ほんっっっまにアホや!人の気も知らんでこのアホ謙也!!
「アンタな!かっ、彼女が隣におんねんぞ!ちょっとは、ちょっとくらいは手ぇ出すとかせんかい!」
毛布にくるまったまま謙也に向かって怒鳴った。
もう部屋の暗さにもすっかり目が慣れて、ぽかーんとした謙也のマヌケヅラもよく見える。その顔すら無駄にかっこいいのが腹立つ。
「えっ、名前……」
「なんやねんゴラァ」
思わず低い声で威圧すると、小さく「うわっ怖っ」と謙也の声。やかましいわ。
「なぁ、名前」
「…………なんや」
「それって、手ぇ出してええってこと?」
「………………」
「なあ」
「うっさいアホ、おやすみ」
「あっ、ちょっ!待ちぃやって!」
「うるさっ、今日もうジェンガし過ぎて眠いわ」
「絶対嘘やん!な、話しよや!」
「いやや」
「なあ、なあ!手ぇ出してええって、どんくらいまでならアリなん!?」
「…………誰も手ぇ出してええなんて言うてへんし」
「名前ーーー!!」
「やかましいわ!!!」
ああ、本当に厄介なことに夜はまだまだ長いのだ。
(2018.3.17)
誕生日祝いにベッターに上げてたものを加筆修正
謙也くんお誕生日おめでとう!