13 再会

眠れないまま、もうすぐ朝焼けがやってくる。

依然として、苗字は目覚めない。
本部の医療班も迅も「命に別状はない」と言うが、それでも三輪は病室のベッドに横たわる苗字の傍を離れようとしなかった。東たちが少しは休むよう勧めるのに、何度空返事を返しただろう。それでも彼らは無理矢理二人を引き離そうとはしなかった。傍にいたい三輪の気持ちは痛いほど理解できる。
三輪と苗字を病室に残して、年上三人は廊下で待っていた。何かあればすぐに言うように、と残して。

背中の傷が悪化しないようにと、苗字は横向きに眠っている。
三輪と向かい合うようにしていながら、閉じられた目は開かない。決して目と目は合わない。
雨はとうに止んで、窓の外は少しずつ明らんでく。
「苗字」
お前が言いかけた、あの言葉の続きを聞きたい。

「……ぅぅう」
小さなうめき声と共に、じわり、苗字目が開かれる。
「ぁ、しゅうじ」
視界の中に三輪を見つけて、苗字はいつもみたいに笑った。
「……っ、苗字」
泣きそうな声で、怒った顔で、三輪は目の前の彼女の名前を呼んだ。

「起きるのが、遅い」
「はは、ごめん」
君にまた会えたことが何より嬉しい。

「ほんとーに心配したんだからー!」
目に涙を浮かべて、傷に障らない程度に加古が抱きしめてくる。
「ご、ご心配をおかけしました……」
「もう起き上がって大丈夫なのか」
そう訊ねるのは二宮だ。
「麻酔が効いてるらしくて、いまんとこ全然痛くないです」
「それでも安静にしろ」
「了解っす」

「しかし、本当に災難だったな」
穏やかな声ながら、少し顔をしかめて東が言う。
開発部から詳しい説明を受けた東曰く、トリガーの不具合だそうだ。
他の隊にもトリオン体に換装できない隊員やチップが起動できない隊員がいることがわかった。
「早急に全隊員のトリガーのメンテナンスが行われるらしい。そして、今後も定期的なメンテナンスを行うようにしていくそうだ」
それまでトリガーのメンテナンスは一度も行われてこなかった。それまで異常がなかったから見落としていたのだろう。これを機に危険対策が行われるというのだからまあ、よかったのではないだろうか。雨降って地固まる。禍を転じて福と為す。人生楽ありゃ苦もあるさってね。
それに苗字の目が覚めたと聞くなり、トリガーに関わる開発員が総出で病室にやってきて半泣きで謝ってくれたのだから、それ以上責め立てる気はまるでない。

目が覚めてすっかり元気に起き上がった私を見てすっかり安心して胸を撫で下ろしたのだろう。ぱあっと部屋の中の雰囲気が明るくなった。
それもあってか東が、私が気絶してから起きるまでの間に秀次がどれだけ心配していたかをとくとくと語ってくれる。が、私の隣のパイプ椅子に座っている秀次が真っ赤になってるからもうやめたげて欲しい。秀次は秀次で相手は隊長であるからやめろと言うことも出来ないしで、ただ小さく縮こまって、そのうち怒りの矛先を変え、なぜか真っ赤な顔で私を睨んでくる。やめてください東さん。わかったから、秀次が一睡もせずに私の傍を離れなかったのはわかったから。秀次がいい子なのは小3のときから知ってから!

早朝にしてはあまりにも騒がしすぎるこの病室。
やがて頃合いを見て東が私を除く隊員の退室を促した。先ほど二宮が言っていたように麻酔が効いているからこうしてケラケラ笑っていられるが、なんだかんだで重傷者である。
どれぐらい重傷なのかはまた後で医者が教えてくれるだろう。それまでは少しの間またみんなと別れて、早く体を治すためにも眠ろう。
退室していこうと立ち上がるみんなを見送ろうとした、そのとき。

東がドアノブに手をかける直前に、扉が開かれた。

開かれた扉の先にいたのは、

「……昨晩ぶりだね、名前ちゃん」

『糸を張った』迅悠一だった。