1 始まりの嵐

小学三年生のとき、私は雷に打たれた。

無論比喩である。本当に打たれていたらおそらく生きていない。
つまりそれは青天の霹靂だとかそういう、衝撃を受けたということを強調して言いたいだけなのだ。

とにかく小学三年生の歴史の授業のとき、私はすべてを思い出したのである。

すべてとはすべてである。
私が戦国の世に石田軍の武将として戦場を駆けまわっていたことであるとか、豊臣の臣下のひとりとして馬車馬のように働いていたこととか、島左近と賭け事をして奴を剥いてやったことだとか、大谷刑部と炎天下の蟻の巣に井戸水を注いでやったことだとか。

天下分け目の戦いで我が主君石田三成を守れなかったことだとか。

そういった前世の記憶のそのすべてを思い出したのであった。
きっかけは机の上に広げられた歴史の教科書であろう。

『関ヶ原のたたかいで石田三成をたおした徳川家康は天下を統一しました。』

たったこれだけの一行。
しかしそれだけで十分だったのだ。
子供の空想にしてはあまりにも現実染みていて血生臭い物語。
でもそれはきっと本当のことに違いない。バクバクとはち切れそうに揺れる心臓。私の第六感が言っている。
それに大して歴史好きでもなかった小学三年生の私なら知っているはずがないのだ。
教科書に載っているのはあくまでも石田三成と徳川家康程度。
島左近という石田の配下の武将がいたことも、大谷吉継が役職名の刑部という渾名で呼ばれていたことも、知っているはずもないのだ。

雷のようにやってきた脳内革命。
隣の席の女の子が、鼻と耳から血を流しているぼおっとしている私を見て悲鳴を上げるまで、私はこの嵐の中で立ち尽くすしかなかったのだった。

ちなみにこの事件の後、私はクラスメイトの男子どもから「耳血女」という渾名をつけてからかわれた。
腹が立ったので全員をぶちのめしたところ、翌日から「耳血ゴリラ」という渾名に変わった。
まあ、そうなるな。