さて、そんな小学三年生の私がその後真っ先におこなったのが「前世の記憶持ち仲間探し」である。
私に記憶が戻ったのだ。
私以外の誰かにも雷鳴が轟いた可能性は決して否定できない。
ならば探そう前世仲間。
しかし小学三年生の行動範囲は限られている。
仕方なしにまずは校内をしらみつぶしにすることにした。
がちゃがちゃ喧しい一年生から、下級生には入りづらい雰囲気のある六年生のクラスまで、はたまた職員室や給食のおばちゃんたちまでひとりひとり確認してみた。
贅沢は言わない。この際豊臣軍でなくてもいい。敵対していた徳川や本多でもいいし、いっそのこと真田でも金吾でも毛利でも、あっ、ごめんやっぱ毛利はムリ。毛利だけは勘弁してください。個人的にアイツめっちゃ怖いから。
そんな謙虚な気持ちで探し求めて、そうしてようやく、一人だけ、もしかして、と思うような人物を発見したのである。
それが同じクラスの三輪秀次くんである。
何の確証があるわけでもない。ただ何となくピンと来ただけだ。
第六感。あるいは女のカンとでも言おうか。
ビビッときたのである。さながら本多の蜻蛉切に雷が落ちるように。いやはや、あれはもはやトラウマだからもう忘れたいレベルであるが。
ちなみにその三輪秀次くんというのは顔よし頭よし運動よしの男としてオールラウンダーな少年であった。私を「耳血ゴリラ」などと呼ぶ男子どもとはまるで違う、それどころかあの時血を流す私にさりげなくちり紙を差し出してくれる紳士であった。紳士は紳士でもどこぞの狐とは無論一切関係ない。
そんなすこしシャイであんちきしょうな彼が、一体誰に似ていると感じたかというと。
他でもない、我が君、石田三成だった。
何が三成様に似ていると感じたのだろうか。目つきの悪さ?前髪?
大人しくて、あと口元でそっと笑う感じは、秀吉様が亡くなる前の彼に似ているような気もする。
しかしこんな近くに三成様がいるだなんて、さすがにそんな都合がいいことあってたまるかと私は私自身を疑ったし、そんなわけないだろうと鼻で笑った。
が、やはり彼以外にピンとくる人物は一人として現れなかったのである。
いやいやいや、日ノ本だけで一億人、世界だと六十億人も人間がいるのに、こんな身近に探していた人がひょいといるわけがない。いるわけがないのだが、それでも確認せずにはいられなかった。
なんだかんだ言いつつも寂しかったのだ。
口を噤んで、何でもない顔で日々を過ごしながらも、ふと雑踏が途切れた瞬間に閃光のように思い出される記憶。
鮮明な血の色。重たい刀の感触。空を覆う暗雲。荒い息。遠く聞こえる法螺貝の音。
駆ける度に痛む足。目に飛び込む死骸、死骸、死骸、死骸、赤、赤、銀色!
繋がれた両手首。痛ましく微笑む太陽の焼けた顔。震えた声音。歪む唇。それから暗転。
この平穏な世界で再会したとして、それでなにかが始まるとは到底思えなかった。
ただ、私はひとりが寂しいと思ったし、もしも彼がひとりぼっちでいるのならそのままでいさせたくはないと、そうおもった。
「へ〜、三輪くんっておねえちゃんがいるんだ〜」
「ああ」
「やさしい?」
「ああ」
「きれい?」
「すごく」
「ところで三輪君、織田信長と豊臣秀吉と徳川家康だったら誰が好き?」
世間話からさりげなく話題を変えて本題に進める作戦である。
脳内の左近が「苗字先輩話題の変え方が雑」と目を剥いていた。
「な、なんだ、どうしたんだ急に」
目の前の三輪くんも非常に困惑している。
しまった。結論を急ぐばかりに色々とすっ飛ばし過ぎてしまったらしい。
脳内の半兵衛様が「う〜ん、まあ、軍師には向いてないかな」と困った顔をした。それ前世でもあなた様に言われました。
しかし侮るなかれ!
この質問を問われたのが本当に三成様なら間髪入れずに「秀吉様」と答えるはずだ。
それ以外の選択肢なんてあり得ない。ましてや憎き徳川の名なぞ出すはずもない!
さあ、どう出る?どう答える?三輪秀次!いや、三成様!
「誰もたいして好きじゃないが、強いていうなら織田信長」
……あ、ハイ、うん。そっか。
こうして私は前世の記憶仲間探しを断念し、その日はなんとも言いようのない感情を抱えて家路についたのであった。
その日の夜は、又兵衛とともに黒田を庭に作った3メートルほどの落とし穴に嵌める夢を見た。
「なぜじゃああああ!」という黒田の叫び声が、どうしてだか私の心の叫びと見事に一致したのだった。