「焼肉よ」
そう言ったのはロングヘアーと口元の黒子が麗しい加古だった。
「急にどしたんすか、加古姐さん」
思わずそう訊ねると加古は「だから焼肉。今日の戦勝祝いに東さんが奢ってくれるんですって」と微笑んだ。
今日のランク戦での勝利を得て、我々東隊はA級に昇格した。
しかし、昇格したにしてはどうにも盛り上がりに欠けた。
加古は「遅かれ早かれ、私たちならA級に上がってたわ」と言い、二宮は「当然の結果だ」と言う。三輪は三輪で「後半での俺の詰めが甘かったです。もっと早く片付きました」と言う。東は苦笑していた。
「苗字はどうだ?何か言いたいことはあるか?」と東に促され、私が困った顔をしながらも「まあ、その、これからも頑張ります。あと、お腹が空きました」と答えたからだろうか。
トリオン体を解除し、私服に着替えた5人は東行きつけの焼肉屋まで来ていた。
煙の匂いが付かないように店員が上着を預かってくれるというサービスに加古は大いに喜んでいた。
「お店選びからして、東さんはほんっとよくわかってるわ」
どっかの唐変木とは違ってね、と後ろを歩く二宮をちらりと見る。
「なんだ加古、言いたいことがあるならはっきり言え」
「あら、なんでもないわよ?ね、名前?」
二宮と加古は見ている限り非常に仲が良い。
そういうと疑問に思われるかもしれないが、彼女たちは仲が良いからこそ相手の欠点をあげつらうし、目の前で悪口を言う。初めて見る人からすれば仲が悪く見えるかもしれないが、これが二人ならではもコミュニケーションなのだろう。本当に仲が悪かったらそもそも口を利いていない。二人はそういうタイプだ。
「ほら、二人ともそこまでにしておけ」
個室の席に座った東が4人を座るよう促す。
「今日は俺が奢る。金のことは気にするな」
肉食文化に馴染みが薄い、というと語弊があるが、戦国生まれ戦国育ちなところがあるので肉を食うということに慣れていない。
うーむ、嫌いなわけでも苦手なわけでもないのだが、にんともかんとも。
肉1、野菜5の割合で箸を進めていると、私の皿に突然こんもりと山ができるぐらい肉が乗っけられた。驚いて顔を上げるとトングを持った仏頂面の二宮と目が合う。
「全然食ってないだろう。子供が遠慮するな」
お気持ちはありがたいのだが、えと、あの、その、違う。
困惑しつつも「あ、どうも」と会釈を返すと、隣に座っていた加古がふふっと笑って私の皿の肉の半分以上を三輪の皿に移してくれる。
「ほーんと、二宮君ってばデリカシーがないんだから」
お年頃なのにねーと微笑む加古のそれも勘違いではあるのだが、正直とてもありがたい。
二宮は加古の言った言葉の意味がよく分かっていないのか首を傾げる。
「この店、冷麺とかもあるからな」と一連の流れを見ていた東は、笑いをこらえながらこちらにメニューを差し出してくれた。
「あなたモテないでしょ」と二宮の頬を摘まむ加古と、「こら、加古もあまりからかわない」と二人の頭を撫でる東をよそに、受け取ったメニューをパラパラめくる。
東が言っていた冷麺がこの店のおすすめメニューであるらしい。これにするかと店員を呼ぶと、加古とは反対側の隣にいた三輪がにゅっと手を伸ばして「これも注文してくれ」とビビンバを指さした。
店員にその二つを頼むと、三輪は私の皿から引っ越してきた肉をもっきゅもっきゅと頬張りながら「苗字も、そういうの気にするのか」と言った。
いや、それは勘違いなのだが、だからといって他にうまい言いようもなくて「あぁ」とか「うぅ」だとかそんな言葉にならない言葉が口から洩れた。
ああ、ちくしょう。
べつにそんなんじゃないのに、やけに微笑ましいものを見るような目線を向けてくる年上どもが、今だけはやけにわずらわしい!