「ゥゥウウオオオオオオオァアァアアアアアア!!!!!!!」
落星のような叫び声、と刑部さんは評したし、左近は「隣でそれされるとくっそうるせえんスけど」と両手で耳を塞いだ。
敵と対峙するとき、大抵私は咆哮を上げる。
威嚇みたいなものである。
こちらの気合も入るし、初見の相手は大抵ビビるらしい。
元々のはじまりは刑部さんである。
左近が石田軍に入ったときに、刑部さんは私と左近に言ったのである。
「とにかく目立て」と。
一番槍の我々が目立てば目立つほど刑部さんや三成様が動きやすいと彼は言った。いうなれば囮である。
左近は良い。あいつはただでさえ目立つ髪色に、戦闘スタイルも独特だ。
反面私は地味な黒髪であったし、目立つところといっても多少人よりでかい剣を抱えている程度だった。
ならば、と思いついたのがこの咆哮である。
剣と剣が交じり合う音よりも、火縄銃の音よりも、砲撃の音よりも、幾千万の武士どもの叫び声よりも、それらを超越するほどの咆哮を。
ちなみに「目立つために大きな声を出します」と報告したところ刑部さんは腹を抱えて大笑いした。
「ヒッヒヒ、ヒャヒャヒャ!ぬ、ぬしはほんに、我を飽きさせぬなっ、ヒヒ!」
戦場での効果はてきめんだった。
◇ ◇ ◇
「苗字は今まで通り、開幕直後に吼えてくれ」
「苗字了解」
それは今世でもうまく作用した。
防御ゼロの攻撃特化な私はもちろんバックワームなんて高尚なものは持ち合わせていない。だからこそそれはもう思いっきり目立つことにした。
私が目立ち、暴れに暴れれば、バックワームでレーダーに察知されないスナイパーの東やシューターの二宮と加古はより対応されづらくなる。
勿論その分私への攻撃は集中するが、一対多数の戦闘は前世でも何度もあったし、そんな私のフォローとして三輪がいてくれる。
なにより死に程遠い戦闘であるということが、私の躊躇いを消し去ってくれた。
前世であれば、怪我をすれば治療が必要で、時にはその次の戦に参加できないこともあった。そうすれば軍師は参加できない者を計算に入れない戦術を考え出さねばならず、とにかく面倒極まりなかった。なにより怪我をすると痛いし、感染病とかの心配もしないといけないし、見舞いにやってくる連中の相手をしないといけないし、床に伏せている間三成様の世話役が減って刑部さんの負担が増えるし。とにかく悪いこと尽くめだ。
しかしトリオン体であればそんな心配は無用。
足が飛ぼうが、腕が無くなろうが、生身の体には危険がない。血も出ないから衛生面も問題ないし、死を覚悟するような特攻だって気軽に行える。
だから私は前世の頃より躊躇いなく敵に突っ込んでいくし、時には味方に私ごと敵を攻撃してもらうこともある。
「ィィィィィイイアアアアアアアアアアアアオオオオオオ!!!!!!」
目の前の敵が一瞬硬直する。
その一瞬が命取りだ。刀状のレイガストを右肩に背負うように構え、まっすぐに距離を詰める。
目の前の敵が慌てて弧月を構えるがもう遅い。
スラスターで加速したレイガストで弧月ごと相手の体を袈裟切りで両断する。
無機質な声でベイルアウトが宣告されるが、敵の伏兵からの攻撃を想定して、立ち止まらず遮蔽物まで走りぬく。
予測通り、右後方より敵のスナイパーが私に向かって乱射するがそれも数秒。味方の敵(かたき)と気負いすぎたのだろう。すぐに位置がばれて二宮か加古かにベイルアウトさせられる。
すると遠くでまた誰かがベイルアウトする軌道が見えた。
通信からの声を聴くとどうやら三輪と東の連携プレーが上手くいったらしい。
こちらへの人的被害はゼロで此度のランク戦を終えた。
「おつかれさま、名前」
「加古姐さんもおつかれ」
怪我一つなくこちらまでやってきてくれた加古と両手でハイタッチを交わす。
「スナイパー、どっちがやりました?」
「二宮君よ。私は東さんと三輪君方面に近かったから」
遅れてやってきた二宮に駆け寄り「あざっす」とハイタッチをねだると、彼は面倒臭そうな顔をしながらも隊服のポケットからしぶしぶ片手を出してくれた。
「それじゃ、もどりましょうか」
その一声で私たちは訓練室から出て、作戦室に戻る。
そして先に戻っていた東と三輪と合流する。
「三人ともおつかれ」と迎えてくれた東の特に深い意味もなく上げられていた手にハイタッチする。東は一瞬驚きながらも「元気だなあ」と笑う。
二宮に「さっきからなにがしたいんだ」と言われるが深い意味なんてなにもない。なんとなく流れでハイタッチしまくっているだけなのだから。
次のターゲットはもちろん三輪だ。作戦室のソファに座っていた三輪はこれまでの流れを理解していないから、きょとんとした顔をしている。
「みーわ」
ほい、と三輪に向かってハイタッチの構えで掌を差し出す。
無論流れを知らない三輪は首を傾げて「?なんだ?」と私を見たり、助けを求めるように東たちのほうを見たりときょろきょろしている。
「どうした?苗字」
「…………」
「苗字、なんだこの手は?」
「…………」
「苗字?」
「…………」
頑なに応答のない私に流石に困り顔の三輪。
何を思ったか差し出された私の手に、おずおずと三輪自身の手をそっと重ねた。
ハイタッチの音が「パチン!」であるならこれは「ぴとっ」という感じである。
イメージ画像で言うとETの人差し指と人差し指をくっつける有名なあのシーンのような。
まあ、三輪にしてみれば未知との遭遇だったのだろう。
耐えきれなくなった加古が噴き出すまで、私と三輪の掌はくっついたままだった。