14 矛盾

個性を制御することが私の課題だと知れたのはなんとも複雑だが先生のおかげであった。

個性で人の夢の中に入るたびにその人の人生の記憶すべてが頭の中に流れ込み、現実で耳や鼻から血を流しまくっていたら、そのうち弔くんからの善意で死ぬ。「死因 鼻うがいによる溺死」ではあまりにも虚しすぎる。いや、ある意味弔くんからの愛で死んだと思えば良いことかもしれない。どうか先生に伝えてくれ。私は愛のために死んだのだと。

などといった世迷言は置いておいて。

先生とのやりとりで私の個性は「他人の夢の中に入り込むことができる」能力だとわかった。
他人の夢に入り、少なくとも相手と対話が出来、相手の記憶を観ることができるらしい。が、その反面、相手の記憶が流れ込み過ぎると肉体にダメージが来る。
今のところわかっているのはその程度だろうか。

情報収集に使える個性だ。
……逆に言えばその程度にしか使えないザコ個性。
とはいえ敵連合の一員として弔くんを支えていくためにはどうにかしてこの個性を生かしていかなければならないし、使い慣れなくてはならない。
夢に入るたびに他人に記憶を見せていては情報漏洩もいいところだ。
……話は変わるけど敵連合ってネーミング、ものすごく安っぽいな。

閑話休題。

自分の存在を知られずに他人の情報だけ盗む。
まずはこの域に至らなくてはならない。

と、思っていたのだが。




「なんか、普通にできちゃったな……」
「出来たのですか。それは良かったですね」
「ですね……」
結論から言えば、「自分の存在を知られずに他人の情報を得る」という課題は案外あっさり出来てしまった。

個性を使っていろいろ試してみたいと黒霧さんに相談したところ、敵連合に集まったチンピラを自由に使っていいとのことで、彼らの夢の中に入らせてもらったのだ。

そうするうちにわかったことがいくつか。
まず第1の条件として、私が夢に入るには、相手と一度でも接触することが必須だった。相手と私がお互いにお互いの存在を認識し合うこと。それが必須だった。私だけが一方的に知っている相手の夢の中には入り込めないというわけだ。

その次にわかったことは、自分の存在を知られずに相手の夢の中に入ることは簡単だと言うこと。
夢の中には深度がある。
夢の浅瀬に足を踏み入れる程度ならば、相手に存在を知られることはない。代わりに大した量の記憶は見れない。せいぜいその日一日の記憶程度だ。それくらいなら肉体への影響もない。
逆にいえば、深くへ潜るほどに得られる情報は多くなるが、私という異物の存在に気がつかれるし、肉体へのダメージも出て来る。そして少しでも気をぬくと私の記憶も相手へ流れていってしまう。
リスクを取ればリターンも大きい。逆も然り、というわけだ。

それから最後に。
相手が決して見られたくない記憶を見ることは難しい。壁を作られたら、そこには入り込めないのだ。

……逆説的に言えば、見られてもいい、むしろ見せてやろうと思えばいくらでも私の中へ記憶が流れ込んで来るのだ。
先生はきっとわかっててわざと私へ記憶を流し込んだに違いない。こんな形であの人の性格の悪さを再認することになってしまった。ほんとあの人キライ。ヤダ。


「名前は、」
と、唐突に黒霧さんは口を開いた。
「私の夢にも入ったのですか?」
「黒霧さんにですか?入ってないですよ」
死角からノーブレーキで追突されたような形で見てしまった先生は別として、黒霧さんと弔くんの夢の中には入り込んでいない。
「だって、無断で入り込んだらプライバシーの侵害でしょう?」
「プライバシー……」
黒霧さんは−−−彼の外見ゆえに少しわかりづらいが−−−驚いたような、困惑したような雰囲気をした。それから少し表情を緩めて、
「名前」
「はい?」
「貴女は…………、」
と、何かいいかけて、それからすぐに
「……いえ、個性を使っていると眠っていても精神が休まらないのでしょう?」
と、頭を撫でられた。彼の黒い靄で覆われた中にある実体の掌が私の髪を梳いてくれる。優しく撫でられる、その感覚がなんだか気恥ずかしい。
「疲れが見えます。今夜は個性を使わずに寝てください。少しは休むべきですよ」
「…………うん、……はい」
どうしよう。優しくされて、ちょっとキュンときてしまった。

「……黒霧さん、私が大きくなったら愛人になってください」
「2番手ですか。それは残念ですね」
「わ、私には心に決めた弔くんが……」