02 コンテンション

「名前ちゃん!デートしましょう!」
女子会です!と八重歯を見せて笑う女の子が私の手を取ってブンブンと上下に振る。

「……トガちゃん、あのね、私たちってもう完全に指名手配犯なんだよ」
これまでの数々の大暴れによって、当然敵連合の面々は指名手配されている。
とはいえ正確には私だけはそうではない。お優しいヒーローたちは私が「なんらかの有用性が認められた為に敵連合に誘拐された幼女」である可能性を否定し切っていない。
……神野での一件で、私は"こちら側"なのだと示したつもりだったんだけどな。

「大丈夫だよ!こっそりするのは得意なのです!」
「うん、トガちゃんの個性は知ってるけど、さす、」
「じゃあいいよね!やったぁ!」
「んーーーー」
コミュニケーションって難しいな、と思いながら全身で嬉しさを表現するJKを眺めた。
ま、いっか。問題はどうやって弔くんから許可を取るかだけなんだけど、そこが難問だなあ。
「日曜日!約束だよ!」
そうやってにこにこ笑っていると、普通の女の子なんだねぇ、トガちゃんは。




そうしてやってきてしまった日曜日。
朝からよそ行きの服に着替え出した私を弔くんはベッドの上から胡乱げな目で見ていた。じーーーっと。じーーーーーーっと。
「弔くん、私今日ちょっと出かけてくるね」
「何処に?なんで?誰と?何時まで?」
やや食い気味に聞いてくる弔くん。
うーん、束縛激しい彼女かな?わかってはいたけど、そりゃあ聞かれるよねぇ。

「ちょっとした野暮用だよ、そんなに遅くはならないからね」
「……あやしいなァ」
弔くんの目が細められて瞳から光が消えた。ここで万が一にでも他の女の名前を出そうものなら修羅場になるのは未来視なんて個性が無くてもわかる。
おかしいな、男1人女2人の三角関係カッコワライなのに、取り合いになっているのが幼女だなんて。これがモテ期というやつか、殺意と悪意混じりの独占欲が無ければハーレムだって夢じゃなかったかもしれないのになあ。
「あ、あやしくないよ」
「……あやしい」
ベッドから立ち上がった弔くんがふらふらと左右に揺れながら私の元へやってきて、すとんと視線を合わせるためにしゃがみこむ。赤い瞳がじぃっと覗き込んでくる。
「名前ちゃんは俺に嘘なんかつかない」
断言された。わあ、厚い信頼。
伸ばされた手が私の肩を掴む。今はまだ中指が離されているが、返答次第ではその中指がピタッとなって、肩がボロっとなって、私がぐしゃっとなる予感。

「……ほんとは内緒にしておきたかったんだけど、」
そう口を開くと弔くんの瞳がギョロリと動く。ぐっと近づいた顔にキスしたら誤魔化されてくれたりしないだろうかと思わなくはないが、今は真摯に答えるのが正解な気がする。

「デートの下見をしに行くの」
「は?」
と、言った瞬間、肩に鋭い痛みが走った。彼の四指で力強く肩を掴まれたのだ。大きく開いた赤い瞳孔からはキリキリと人間味が失われていく。
「……誰とのデートだよ」
地を這うような低い声が響く。死と隣り合わせってこういう状況を言うんだろうなあと思いつつ、約束された勝利のカードを持ち合わせているゆえ内心は穏やかだ。
だから私は落ち着いて、たった一枚しか持っていない切り札を出した。

「弔くんとのだよ」
途端に彼はパチクリと瞬きをした。
するとさっきまでの人間味の薄れた瞳は消え、驚いた子供のような顔で私を見る。大きく開かれた赤い瞳には驚愕が映っていた。

「……えっ、あっ、へっ、?」
薄く開いた口からは困惑が断片的な音となって溢れる。可愛い。
「なっ。なに、なんで?」
「なんでって、デートするならちゃんと下見しないとだめだよね?」
「あっ、えっ、でも、だって名前ちゃん、女の子なのに」
「好きな子とのデートでちゃんとエスコートしてあげたいって思うのに性別は関係ないよ」
「…………!」
はくはくと口を開けたり閉じたりして、パニックになっている弔くんの頭を撫でる。

すると弔くんは突然パッと立ち上がると部屋の中を早足でぐるぐる歩き回り出した。がりがりと人差し指の爪を噛みながら、流れ込んできた情報を頑張って処理しようとしている。控えめに言っても可愛い。

時間にして大体2分くらいだろうか、ぐるぐるぐるぐるしていた弔くんはやがて突如ピタッとこちらに背を向けて立ち止まると、へなへなと崩れ落ちるようにしゃがみこんだ。
「……………………………、から」
「ん?」
小さな声が聞き取れなくて、聞き返す。本当に聞き取れなかっただけでギャルゲ主人公の真似とかでは決してない。
「…………き、聞かなかったことにする、から」
いってきていいよ、と小さな声。

……これ、もうトガちゃんとの約束ドタキャンして弔くんを延々とよしよしするだけの1日にしてもいいかなあ。などと破裂しそうな感情だけを抱えながら「ありがとう。お土産買って帰るからね」「………………うん」というやりとりを経て、私は家を出たのでした。

……うん、嘘はついてない。
今日の女子会は弔くんのとデートの下見をトガちゃんに付き合ってもらうというだけのことなのだ。今考えた。
大丈夫。トガちゃんと歩いているところを弔くんに見られたりさえしなければ大丈夫だ。大丈夫、大丈夫。……フラグとかじゃないよね?これ。