「ああ本当に自分に腹が立つよ……。もっと早くにヴィランを見つけていればあの子にあんな酷い怪我をさせずにすんだろうに……」
「気持ちはわかるがあまり気に病まないでくれ、オールマイト。君がいたからあの子は助かったんだ。ヴィランを捕まえられたのは君のおかげなんだよ」
「塚内くん……」
「不幸中の幸いというべきか、命に別状は無いよ。背中の傷もすぐに良くなるそうだ」
……傷跡は残ってしまうだろうが、という言葉を塚内は喉の奥にしまい込んだ。眼前で救った命にさえ、もっとああしていればと悔やむ優しい人なのだ。幼子に大きな傷が残ったと知れば、より深く悔やむに違いない。ただでさえより多くを救おうとする彼だ。できるだけ負担はかけたくない。
「……ただ、ひとつだけ問題があってね」
「問題?」
塚内はオールマイトによって保護されたあの幼い女の子のことを思い返した。オールマイトの腕のに抱かれ、傷の痛みに耐えながらもどこか困惑したような顔をしていたあの少女。痛みも呻きも恐怖も言葉も何一つ、あのぐっと引き締められた口元からは生まれてはこなかった。
「あの子の身元がわからないんだ」
気がつくと私は病院のベッドうつ伏せのままで眠っていた。起き上がろうと体を動かした途端、背中に走る鋭い痛み。その痛みが私に、あの恐ろしい事象が現実であることを教えてくれた。
私を殺そうとして来た男を一撃で殴り飛ばし、助けてくれたアメコミのヒーローみたいな男の人は私を優しく抱き上げ、もう怖いものはないよと子供に語りかけるようにそう言った。
……そう、私はあっさりとその人に抱き上げられたのである。確かに助けてくれたその人はとても体格が良くて2メートルくらいあるんじゃないだろうかと思うほど背が高かったが、それでも私は成人女性である。そこそこの身長とそこそこの体重、なのにあっさりと抱き上げて、「怖かったろうによく頑張ったね、少女よ」と言ったのだった。
少女?
一体誰が?
私が?
まさか!
20代半ばの女を捕まえて少女はないだろう。けれど彼は確かにそう言って、私を抱き上げたまま誰かに−−恐らく警察なのだろう−−電話をかけた。
「こちらオールマイト。例のヴィランを確保した。5、6歳くらいの女の子が1人襲われて怪我をしている。救急車も呼んでくれ」と。
今この場には助けてくれた彼と私しかいない。彼は男で、見るからに成人男性だ。つまり消去法で私が5、6歳の少女ということになる。……は?
訳がわからないまま私はやってきた救急車に乗せれて病院へ。
そうしてようやく私はそれを見た。
運ばれた時にちらりと見えた鏡には、私がいるはずの位置に幼い女の子が、そう、子供の時の私によく似た女の子がいた。
何が起こっていたのか、結局のところ何もわからない。ただ私はいつの間にか子供になっていた。それは確かな事実だった。
……おかしいな、怪しい組織の取引を見つけたわけでも、変な薬を飲まされたわけでもないのに。
回想終了。
痛みに耐えかねた私は起き上がることを諦めた。べとりとベッドに伏せたまま、私は、夢みたいだ、と思った。
だってこんなこと夢以外にあり得ない。
腕が刃物の人間に襲われて、それをワンパンで倒す男がいて、私は子供になっていて。そんなめちゃくちゃな出来事、夢だと断ずる他ない。背中の痛みは酷くリアルだけど、きっとそれも含めて夢なんだろう。
夢の中で「ああ、これは夢なんだ」って気がついた経験はこれが初めてだ。これがよく聞く明晰夢ってやつなのだろうか。