零 あの星が無いとしても
泣くな 生き物だろう
生まれ生まれ始まりに暗く
死んで死んで死の終わりまた冥く
なお冥く
愛別離苦をつみ重ねながら
怨憎会苦の日々が流れていく
忘れないと決めたことさえ忘れ
百年前の光を観ている
聞こえた音は鳴りやんでいるんだよ
届く報せも色褪せているんだよ
解る前に命など尽きるだろう
君とベテルギウスはもう無いかもしれない
◇
「君はまるで真夜を照らす篝火のようだ」
そう彼が言った言葉の真意を、実のところ私はいまだに理解してはいない。
本質的なところで私は人の心が、他人の気持ちがわからなかったのだ。
現実が人に影響を与え、やがてそれが人の感情を形作る。
喜びという感情。
悲しみという感情。
怒りという感情。
生まれた感情によって引き出される人の言動。
感情と言動、そしてその繋がりや流れを理解することが、私には酷く難しいことだったのだ。他人の心も自分の心も、なにも、うまく、わからなかった。
愚鈍で冷血な人でなし。
私は初めからそういうふうにできていた。
きっと私の根源は冷たい。貴方のように美しい熱を持つ心など持っていない。貴方が束ねる祈りの中に私のものは必要ない。そんなものは初めから無い。
貴方は私のために祈らなくていい。
貴方は私のために生きなくていい。
貴方は私を愛さなくていい。
貴方は私を想わなくていい。
それだけの価値はないのだから。
もしも私に価値があるのだとしたら、それは貴方が「私に価値があると思った」という事実だけだ。
「……俺は君と共にいると心が安らぐのだ」
それでもあの日、貴方がそう言ったから。
そう言って私の肩にそっと、ほんの少しだけ体を寄せたから。
あの時の表情を、あの時の声を、あの時の温度をまだ覚えているから。
例えいつか貴方の表情を、貴方の声を、貴方の温度を忘れてしまうとしても。
その価値が失われることはないのだと、私は識っている。
(2020.10.27)
冒頭文は『ベテルギウスはもう無いかもしれない』より