おやすみは、額にキス



「まだ寝ないのかい?」

 睨めっこしていた教科書に、薄い影が落ちる。ふわりと薔薇の香りが鼻をくすぐった。
 視線を教科書から目の前の人物に移せば、白くてとろりとしたシャツに身を包んだリドル先輩がこちらを見ていた。

「夜更かしとは感心しないね」
「なかなかキリのいいところまでたどり着かなくて……」
「ふうん。どこで躓いているんだい? 少し見せてごらん」

 そう、私の隣に腰をおろす。シャワーを浴びたばかりだからだろうか。リドル先輩の頬はほんのりと赤く色づいていて、まだ少し湿り気を残す髪の毛が色っぽい。
 教科書を覗くリドル先輩をぼうっと見つめていると、そこから視線を上げた彼と目があった。
 どこを見ているんだい。彼の少し強い声とは裏腹に、その瞳には柔らかく私が映し出されている。

「一度寝てみると、案外すんなり理解できることも多いものだよ」

 おもむろに教科書を閉じたリドル先輩は、私の頬に手を添えて、親指で瞼を撫でた。

「今のキミに必要なのは睡眠だ……頑張るのはいいことだけれど、度が過ぎれば身体に毒でしかない」
「でも、なんだか理解できないままにしておくのが気持ち悪くて……」
「……ボクもその気持ちは理解できるよ。でも、」

 リドル先輩の唇が、私の額に触れる。ちゅ、と音を立てて離れたそこから、じんわりと、熱が広がる。

「……どうだろう。少しはその気持ちを忘れられると思ったけれど」

 その伏せられた瞳にこもる熱に、心臓がひとつ、大きく打った。