星の音は、もう聞こえない
星のちらちらと燃えるのがよく見える、そんな夜だった。先を歩いていた第三陣のメンバーや学園長、それからグリムはとうの昔に角を曲がってしまって、もうこの小道にはいない。月明かりに照らされた小道に、リドル先輩と二人きり。私はリドル先輩をじいっと見つめ、先輩はそんな私を見つめ返していた。静かな夜だった。学園がゴーストに占領されているなんてことを忘れてしまうほどに、静かな夜だった。
エースたちが鏡舎へと向かう足音が少しずつ少しずつ小さくなり、ついには完全な静寂に包まれる。星の燃える音が聞こえてきそうなほどの静けさが広がっていた。それを先に破ったのは、少し強い口調のリドル先輩だった。
「……なんだい、人の顔をじっと見て」
強い口調だった。しかし、その表情に怒りの色は浮かんでいない。むしろ、ほんの少し、目を凝らせば分かるくらいなだけの不安の入り混じった表情だった。
「おかしなところがあるなら、早くお言い」
「あ、いえ……いつもと雰囲気が違うなって思って」
「……ああ、髪を耳にかけているからかな」
リドル先輩は、耳にかけられている自分の髪をなぞる。その髪はどうやらきっちりセットされているらしく、少しなぞったところで横髪が落ちてくるようなことはない。
月明かりに照らされた先輩の姿があまりにも美しくて。堰き止めていた心のダムから、つい、思いが溢れ出てしまう。
「……かっこいいです」
「なっ……」
二人して、目を見開く。一方はひた隠しにしていた思いが、無意識に溢れ出てしまったことに対して。そしてもう一方は……どうしてだろう。突然の言葉に驚いただけだろうけれど。
目を見開き、言葉をどこかへ忘れてきたかのように口をパクパクと動かしていた先輩の表情に、少しずつ、穏やかな笑みが広がっていく。しばらくして落ち着きを取り戻した頃には、少し照れたような、でもいつも通りしっかりと芯を持った先輩が立っていた。
「そうかな。キミにそう言われると、自信が湧いてくるね。立派な王子様になりきってミッションを成功に導いてみせるよ。」
なぜだか、リドル先輩はクスクスと笑う。それにつられて、私も小さく笑った。
「ふふ。リドル先輩のプロポーズがうまくいくことを願ってます」
その私の返答に、リドル先輩は少し考える素振りを見せた。
「……どうしてだろう」
「え?」
しかしその素振りも一瞬にして解かれ、リドル先輩はまたふわりと笑う。
「いや、なんでもない。それよりも、キミもこうすれば……」
リドル先輩は私の横髪を一房掬い、そしてそれをふわりと私の耳にかける。リドル先輩の手が冷えていたのか、それとも私の耳が熱を持っていたのか。耳をかすめた彼の指は、随分と心地良いものだった。
できることなら、その手を頬に添えて欲しいと思ってしまうほどに。
ぼうっとリドル先輩を見つめる私に、先輩は焦ったように付け足した。
「ち、違うんだ……その、髪を耳にかけると視界が開けてすっきりしたものだから……だから、その……」
見上げた瞳は熱を帯びている。
私たちはその静けさに、お互いが惹かれ合う音を、はっきりと耳にした。