「あ。やべ。傘、部室だわ」
昼休みに旧体育館に連れ立って行く途中、正面玄関で荒北が舌打ちする。
「入ってく?」
私のでよければ、と、真緒が赤いチェックの傘の下から荒北を見上げる。
「……っ」
一瞬の逡巡の後、荒北が何かを言いかけたが、言葉になることはなく。代わりに、荒北の大きな手が真緒から無言で傘を奪い取り、そのままスタスタ歩き始めた。
「ありがとう」
真緒は一瞬何が起きたのかわからなかったが、すぐにそれが荒北の優しさだと気づく。
「……べつにィ」
つか、もっとこっちこねーと濡れんよ、と荒北がぶっきらぼうに言う。無愛想な男子高校生が赤いチェック傘という不似合いな組み合わせで。
「……ふふっ」
その何ともいえないおかしさに堪えきれず、真緒が吹き出す。
「はァ?何笑ってんだヨ」
「ご、ごめん……でも」
「あァ?」
「荒北くんその傘似合わなすぎ……!」
だめ、我慢できなくて、と真緒が小刻みに肩を震わせている。
「てめ、濡らすぞ!」
「冷たっ、嘘です!ごめんなさい!」
荒北が持っていた傘をぐい、と自分の方へ引き寄せると、途端に雨ざらしになった真緒が慌てて傘の中に戻ってくる。
「もー私の傘なのに」
本当に濡らすなんて、と真緒が冗談ぽく荒北を睨む。
「るっせ。バァカ」
相変わらずの悪態をつきながらも、口の端を上げて笑う荒北は気分上々に見えた。
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