3年のクラス替えで、初めて好きな人と同じクラスになれた。
(うそ。やったぁ……!)
思わず、心の中でガッツポーズする。
近くの席なら、さらにテンション上がっちゃうところだけど、そんなに上手くはいかない。でも、二列挟んで斜め後ろのこの席からは、彼の様子がよく見える。
好きな人の背中を、ずっと見ていられるなんて、なんて幸せなんだろう。高校生活最後の年に、素敵なサプライズを用意してくれた神様に感謝しないと。
居眠りして机に突っ伏した彼の背中を見つめながら、小さな幸せを噛み締めた。
私の好きな人――荒北靖友くんは、自転車競技部のレギュラーで、結構な有名人だ。
無愛想で近寄りがたいから、東堂くんや新開くんみたいに表立ってはモテないけど、実は密かに気になってる子多いと思う。
最近だと、テニス部の××さんとか、○組の△△さんが、密かに片思いしてるとか。
そうはいっても、具体的にアクション起こすのはハードル高いから、みんな見てるだけ。
かくいう私もそう。
でも、見てるだけで十分幸せ。
そう思ってたのに。
「荒北くん」
小さな鈴を転がしたみたいに可愛い声が、彼の名前を呼ぶのを、最近よく耳にする。
声の主は、伊東真緒ちゃん。
クラス委員長で、可愛いくて。荒北くんの真後ろの席に座ってる。
渋谷先生に頼まれて荒北くんの補習につきあってる、ってクラスの子が話してるのを聞いた。
それがきっかけで仲良くなったのかもしれない。
荒北くんとあんなに親しくなった女の子、私は知らない。
ちょっと、複雑……
「なァに?伊東チャン」
どうして、好きな人の好きな女の子って、すぐわかっちゃうんだろう。そんなのこれっぽっちも、気づきたくなんてないのに。
ねぇ、知ってる?
真緒ちゃんに呼ばれて振り返ったときの荒北くんの顔。
今まで見たことないほど優しい顔してるんだよ。
それは多分、本人さえも気づいてない、秘密。
私だけが知ってる秘密。
きっと、真緒ちゃんだって知らない。
荒北くんがあんな顔を見せるのは、真緒ちゃんにだけだってこと。
ずっと見てきたから、私にはわかるの。
私だけが知ってる荒北くんの顔。
勇気のなかった私に向けられることは決してないけど、最高に素敵だから、ずっと秘密のままでいて。
あの子になりたい、なんて思わないから、君のあの表情だけは、わたしのものだって思ってもいいかな?
ねぇ、荒北くん。
azulverde