「きゃあッ!」
可愛らしい悲鳴と共に、背中に今まで感じなかった熱を感知して、靖友は思わず生唾をのんだ。
ぎゅっ、と背中に回されたか細い腕が。
男のそれとは明らかに違う、密着した身体の柔さが。
雄弁にその存在を語っており、なおかつ、全身の血が沸騰したみたいに熱くなっているのは、健全な男子高校生としてはむしろ自然なことだと声を大にして言いたい、と靖友は思った。
「ごめんッ……」
(バカ、その状態でしゃべんな!余計にムラムラきちまうだろーが)
背中にダイレクトに伝わる真緒の甘ったるい声に、勝手に沸き上がる煩悩を打ち消すように靖友はがむしゃらにペダルを回した。
さっきから、みっともないほど激しく、自分の心臓が爆音で鳴り響いている。
きっと、真緒には聞こえてしまっているだろうが、同じくらい早く脈打つ自分とは違う音を背中に感じて、少しほっとした。

(やっべェ……)
背中に熱を乗っけたまま、無言でペダルをこぎながら、靖友の頭の中は真緒のことでいっぱいだった。意識しないようにすればするほど、気持ちは勝手に昂って、ざわざわと落ち着かない。

「――きたくん、」
まるで、追い討ちをかけるように、細く柔い声が、靖友の背中に向かって囁く。
何かを言いたげな、投げかけられたそのひと言に、思わず振り向いて返事しそうになってやめた。恐らく、相当情けない顔をしてる気がしたから。
(あーもーくそ可愛すぎて、どうにかなっちまうマジで)
いつの間にか預けられた頭の重みさえ、わけもなく愛しい。
それが、単なる異性に対する感情ではない、特別な気持ちからきていることを、靖友は薄々気づいていた。
だからといって、すぐに何かが変わるわけでもないが。

(はッ!ローレライに骨抜きにされちまったかァ?)
自嘲気味に心の中で呟きながら、それを振り払うかのごとく、靖友はさらにペダルを回す。
背中に寄り添う、自分のじゃない温度を心地よく感じながら、真緒に気づかれないよう、靖友は小さく笑った。



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