※真波→委員長描写あります。
旧体育館裏の階段の上に寝転び、靖友はぼんやりと空を見上げる。
(あーマジでイラつく)
何もすることがないと、いやが上にも思い出すのは、昨日の真緒とのこと。
(つか、無理ってなんだ。無理って)
昨日から訳もわからずいきなり避けられて、思い余って詰め寄った靖友に真緒が放った一言が心に突き刺さっている。抜けない棘のように。
正直、今まで真緒との関係は悪くないと思っていた。
口はばったい物言いをすれば、友達以上、恋人未満と思うほどには。
しかし、それは靖友の思い違いだったのかもしれない。
昨日、明らかに、真緒は靖友に怯えていた。理由などわかるはずもないが。
「あーもーわっかんねぇ!」
「なにが、わっかんないんですか?」
まさか独り言に返事が返ってくるとは思わず、靖友は吃驚して飛び起きる。
気づけば、すぐ隣に真波が、相変わらずのゆるい表情を浮かべて座っていた。
「真ァ波?おま、なんでこんなとこにいんだよ」
「最近見つけたんですけど、いい場所ですよね、ここ」
昼寝にぴったりだし、と、ずれた返事が返ってくる。
「バァカ、此処はオレが見つけたオレの場所なんだよ。勝手に入ってくんな!」
「で、なにがわっかんねーんですか?」
「……お前、本っ当、人の話聞かねえのな」
「えー気になるじゃないですか。教えてくださいよ」
「るっせ、バァカ。早くどっか行けよ」
しっ、しっ、とまるで動物でも追い払うみたいに、靖友が真波を促す。
靖友の嫌気が伝わったのか、真波は案外すんなりとその場から立ち去って行った。
靖友はその身軽な背中を黙って見送る。いつもの靖友ならば、すぐにもう一度その場に寝っ転がっていただろう。しかし、今日の靖友は普段の靖友ではなかった。気づけば、遠ざかっていく真波の背中に、声をかけていた。
「真ァ波。お前、好きな子とかいんの?」
「荒北さん?どっか具合悪いの?」
振り返ると同時に、鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔で、真波が靖友に尋ねる。
「どこも悪くねぇよ、バァカ。いいから答えろ、ボケナス」
バツの悪さを誤魔化すように、いつも以上に靖友が悪態をつく。
「うーん、いるといえばいるし、いないといえばいない」
「どっちだよ!」
「うん。よくわかんないや。オレにも。ただ……」
「ンだよ?」
「好きとかはよくわかんないけど、ずっと隣にいてほしい子、ならいるかな。なーんて、独り言ですけど」
少しはぐらかすような言い方をした真波が緊張感のない笑顔を浮かべる。
「ふーん……」
「で、荒北さんは?」
「言わねぇよ!バァカ」
「ずるいなぁ。人に聞いといて」
「るっせ!」
「あ。やべ、オレもう行かなきゃ。委員長に怒られる」
遠くで鳴る予鈴を聞きながら、そう言って真波が立ち上がる。
階段をかけ降りていく真波の背中を見送ると、靖友は今度こそ、再びその場に寝転んだ。
「荒北さん!」
階段の下から、今度は真波が荒北の背中に呼びかける。
「頑張ってください」
面倒くさそうに起き上がった靖友に真波が笑顔でそう言うと、今度こそ駆け出して行った。
「はッ!オレは頑張れって言われんのが嫌いなんだよ、ボケナス」
真波の駆けていった方に向かって、靖友がいつも通りの悪態をつくが、気分は悪くなかった。
いつの間にか、さっきまでの訳のわからない苛立ちが少しだけおさまっていることに気づいて、靖友は小さく口の端を上げた。
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