「うそ……」
昇降口に着いた途端、思わずそう呟く。
さっきまで、そう、ほんの2時間前まで晴天だった空は、私の目の前で見事に土砂降りの雨に変わっていた。柄にもなく、図書館で勉強しようなんて思ったのがそもそもの間違いだったかもしれない。
しかも、いつもならロッカーに置き傘があるはずなのに、今日に限ってない。
(あーもー、なんで)
はぁ、と大きな溜め息をついて、とぼとぼと玄関から外に出る。軒下に立ってもう一度空を見上げるも、やはり降っている。しかも全く止む気配はなさそうだ。
ちなみに、総北高校から最寄り駅までは15分。電車に乗る前に確実にずぶ濡れコースだ。
(やっぱり、走って帰るしかないかぁ)
心の中でひとりごちて、私はスクールバックを頭に載せようとした。そのとき。
「みょうじ、今帰りか?」
「……!?」
背後から、聞き覚えのある低い声が聞こえて、勢いよく振り返る。
視線の先には、同じクラスの金城くんが立っていた。私の心臓が、どくん、と大きく跳ねる。
「金城くん……」
普段の私からは想像できないほど小さな声で、目の前の相手の名前を呟く。
「珍しいな。みょうじがこの時間まで学校にいるなんて」
「うん。図書館で勉強してて……金城くんは、えっと、部活?」
「いや。夏でオレは引退したからな。今日は進路のことで先生に呼ばれて」
「そ、そうだよね。私ってば、勘違いしちゃって恥ずかしい」
思わず、顔を覆ったのは話の流れだけではない。さっきからずっと、心臓は爆音ならしてるし、顔は間違いなく赤い。
「みょうじ、電車通学だったな?」
「えっ、うん。そうだけど?」
「駅まで入っていくか?」
「い、いいの……?」
徐にカーキ色の傘を開いた金城君が、私を手招きする。私は天にも昇る気持ちで、その大きな傘の下に入った。
駅までの道のりはあっという間で、あともう少し一緒に歩きたかったな、なんて心の中で呟きながら、金城くんにお礼を言って、改札越しに手を振る。
正直、片思いの人と相合い傘なんて願ってもないサプライズに、嬉しくて舞い上がり過ぎて、何を喋ったのかさえ覚えていない。
でも、見上げた先の金城くんとの身長差だとか、傘を持つ手のたくましさだとか、時々触れ合う肩同士の距離や傘の中で反響する低く甘い声といった感覚の記憶はしっかり残っていて、傘から出た後もあの低くて魅惑的な声が耳元で響いている気がして、おかげで、電車に乗ってからも頬が緩みっぱなしで、周りから絶対怪しい人だと思われた。
「とにかくさ、あんなに幸せでドキドキした時間なかったよぉ」
翌日、早速親友に金城くんとのことを話す。もちろん、頬は緩みっぱなし。何だか昨日からこの状態が普通になりつつある。やばい。
「ねぇ、金城、何か駅に用事でもあったの?」
「え?何も聞いてないけど、なんで?」
「だって、金城の家っって駅と反対方向でしょ?」
「え……嘘」
「それに雨が降ろうが雪が降ろうが、チャリで通ってるって有名な話よ?」
「ねぇ、それって、それって……あ、ああッ!」
「ちょっと、なまえ?あんた興奮しすぎだから!」
「どうしよう。私、もっと金城くんのこと好きになっちゃったかも」
頭を抱えて机に突っ伏したまま、蚊の鳴くような声で呟く。鏡を見なくてもわかるくらい、顔に熱が集まってるのを感じる。
本当になにこれ。昨日のことだけでもときめき過ぎて死にそうなのに、これ以上私をどうするつもりなの。
あーお願いだから、責任とって下さい。私のスパダリ金城真護様。
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