悪魔超人


 

魔性の女というべきなのか、バッファローマンはかつて日本のキン肉ハウスで見掛けた一人の女を見ては苦笑いを浮かべた、女は楽しそうに笑みを浮かべては自分を取り囲む人とは随分と見た目の離れた、世間から見れば恐れられるような悪魔超人たちを相手にまるで友達のような立ち振る舞いをしているのを眺めた

「…それで、こりゃあどうしたらいいんだか」

仲間に彼女が受け入れられていることはいい事だが一体全体何が起きてこんなことになり、何故彼女が人の身でありながら悪魔超人の根城である【魔界】にきているのだと考えるのだった。

◇◆◇

…時は少し前に遡る
悪魔超人に戻ったバッファローマンは魔界での生活も懐かしいものから日常的なものに変わった、悪魔将軍の先鋭部隊である七人の悪魔超人たちはいつまでも六人の騎士達にとっては甘い若造だといわんばかりに厳しく鍛え上げられる日々であるがそれもまた自分たちを強くするためのものである故心地よいものだった。

いつも通りのそんな日々を過ごすのだと考え、今日の鍛錬をと悪魔将軍の城の前にやってきたバッファローマンは思わずその山を見つめた、山というのはひとつの比喩でもあるが正直なところその存在が山であることは間違いではなかった
柔道着を着た山の超人であるザ・魔雲天の背中は丸くなり何かを見下ろしていた、そしてそれはその隣のアトランティスにカーメンマン…いや、バッファローマンのよく知る七人の悪魔超人全員が同じ行動をしていたのだ

「何をしてるんだお前たち」

そう言って声をかけたバッファローマンだがその中心にいる人物に思わず驚きを隠せずに目を丸くしてしまう、それは決してここにいるはずのない人物であるからだ

「あっ、バッファローマンさんこんにちは!」

まるで子供のように元気に手を上げて挨拶をした女はこの薄暗い魔界には不釣り合いな程に明るく、まるで太陽のように眩しく思わずその場で全員が片手を顔元にやってしまう程だった

「おまえは…」
「覚えてますか?以前スグルちゃんのお家で一緒にお昼食べた…」
「ナマエだろ?忘れるわけない」

そういえばまるで犬が褒められたように嬉しそうに満面の笑みを浮かべる彼女に胸が和らぐのは彼女の持ち前の雰囲気や空気感だろう
しかしながら魔界は悪魔超人達の根城であり、人間にはとても危険な場所である、それは悪魔超人という種族は世間への恨み辛みや葛藤や憎しみを抱く者が多いからだ、それがこんな一般的な人間の女が易々と入ってくるなど危険極まりない行為だと思わず注意の一言でも伝えようと思うもののそれを遮ったのはBHであった

「言いたいことは分かるがオレが連れてきたんだ、責めないでやってくれ」
「BH?お前が、どういうことなんだ」

その言葉にふとナマエの背負った荷物と足元と手を見てみればそこには溢れんばかりの食料品やら衣類やオマケに紙幣までチップのごとくねじ込まれていたのだった。
BH曰くたまたま正義超人の従兄弟と地上で遊んでいた際に妙な人だかりをみつけ、その中心にいたのがナマエなのだった、旅を趣味にする彼女は見知らぬ土地で早口にまくしたてられれば理解できない言語のため困惑した
そんな彼女を他所に取り囲んだ人々は彼女のカバンや手の中に物を渡しては拝み倒していたのだった

「どうしよ、どうしよう、スグルちゃあん」

成人女性が妙なことに巻き込まれていると見知らぬ振りをしようとしたもののBHの隣にいた従兄弟であり正義超人のペンタゴンは慌てて彼女の傍に駆け寄り手助けをしてやったのだ

「大丈夫か…い」
「ありがとうございます、とっても素敵な天使さん」
「おいおい、どうしたんだペンタ?……お嬢さん大丈夫だったか?」

そうしてこうして気付けばナマエと名乗った彼女は一人旅のさなかで手助けをした住民からお礼のフルーツを貰ったことを皮切りに周りの人間に囲まれてしまったのだという

「それがどうしてここに連れてきたんだ」
「ちょっとしたデートだ、なぁナマエ?」
「え?これデートだったんですか!」

恥ずかしい。と照れ臭そうにするナマエは全く冗談のように受け取るもののバッファローマンにはBHの深い深い顔の穴の底で本気なのだと感じては思わず背中に汗をかいてしまう

「それは分かったがこんなところに連れてきて万が一怪我でもしたら」
「だから私達がこうしてエスコートをしているんだ」
「エスコートというか邪魔だろう」

カーメンマンの一言に噛み付いたBHにすぐ様睨み返すもののバッファローマンはかつて自分がキン肉マンに対して幼馴染への過保護な態度を笑ってしまっていたことを反省した。

「ナマエは良い奴だよなオレ達みてえなやつを見てもビビらねぇし」
「だってアトランティスさんってすごくかっこいいですもん」

隣に立つアトランティスの言葉に興奮気味に返すナマエは世界各地を練り歩き歴史事も好きなためそうした興味も含まれているのだろうがアトランティスはそんなことを気にもせずに照れくさそうに頬を指で掻いた、それはまるで本気で照れたような態度である

「地上には沢山の山があるだろ、お前さんも何かのぼったりするのか?」
「去年エベレストに登りました、魔雲天さんは山に詳しいですか?詳しくお話聞きたいです」
「そりゃあ勿論」

バッファローマンからしても巨体を誇る魔雲天もあからさまにデレデレとした表情をしており思わず口を開いて眺めてしまう、かと思えば彼女の正面に立っていたステカセキングはふと彼女のリュックサックに掛けられているヘッドフォンを指差しては「それってスニーのやつだろ?いい音質だよなぁさてはナマエちゃん音楽が好きなのか?」と楽しそうに話しかける
しかしその姿は普段の人懐っこいイタズラな悪魔超人ではなく異性への興味を混じえたものにみえるのは気のせいだと思いたいもののヘッドフォンに触るふりをしてさりげなく肩を触ったことをバッファローマンは見逃さなかった

「ったくどいつもこいつも浮かれやがって」

そういった聞き馴染みの一番ある声にほっと胸を撫で下ろす、一番悪魔超人としてのプライドを高く持つスプリングマンはやはり今のこの状況をよくは思わないのだと、敵対視する眼差しはあまり良くはなくとも少なからず人間がここにいることに注意してくれる仲間がいるのだと安心したのもつかの間

「ナマエちゃんところで腹好かねぇか?魔界でしか食えないリンゴ食うか?」
「わぁ凄い!こういうの食べたかったんですスプリングマンさん大好き」
「へっへへ、まぁな」
「まぁな。じゃねぇだろ」

以前であればバッファローマンもナマエに浮かれることは出来た、二度目ではあるがやはり彼女の雰囲気は独特のものでそのペースに全員が巻き込まれ狂わされる、まさに彼女は魔性の女だと様々な女を見た事のあるバッファローマンは感じた
兎に角話をするにしても城の前で屯するのも良くはないだろうと思った途端のことであった

「貴様ら!何をしているんだ!」

その鋭い声に思わず七人の背中がしゃんとしてしまう、それ程までにその声は彼らに定着したものであり近付く足音に嫌でも誰か分かってしまうのだ
土を踏んでやってくる足音を聞いていれば足元に赤いシューズが見え、そして全員の視線の先には一人のワニのようなエリマキトカゲのような爬虫類の超人がいた

「すっすみません、少しお話をしていまして」
「あっこらナマエ」

流石の悪魔超人の教官を務めるスニゲーター相手にはダメだとバッファローマンは慌てて自分たちの陰に隠れて見えなかったはずが飛び出てきてしまった彼女を抑えようとするもののスニゲーターの普段の怒声は全く響くことは無い
それどころか彼は静まりこんだあとその場には冷たい風の音が鳴った

「くちゅんっ、すみません」

子犬のような小さなくしゃみに思わず全員の気が緩むもののザッ…と聞こえた足音にまた七人は背中を伸ばした、そして慌ててこの人間が無害であり今すぐ帰るところだということを説明する以前にスニゲーターの手は彼女に伸びた

「全く女が薄着だと魔界は寒いんだから風邪をひくぞ」
「ありがとうございます、私はナマエです」
「スニゲーターだ、寒いだろう?城に入りなさい」

やったー!という軽い声と共に悪魔将軍の城の中に入っていく彼女とスニゲーターに思わず残された七人は顔を見合せ、そしてそれぞれが顔を青白く染め上げる

「おっおい、流石にまずいんじゃないのか」

そういったバッファローマンの言葉など誰も聞かずに「あの人既婚者だろ」「いいところ取ろうとしてるな?」「ちくしょう続け!」と声を掛けあっては走って入っていくのを眺めバッファローマンは一人残され、どうすればいいのやらと思いつつもそんなことを抜きに傍に居なくてはならない。と慌てて追いかけた

◇◆◇

どうすればいいんだとバッファローマンは頭痛が痛いと思った、日本語としては間違っているだろうがもう彼の頭は現状全てのことに追いついていないのだ

「おぉナマエ、久しぶりでは無いか我が魔界に来たということはついに覚悟を決めたのか」
「こんにちはアシュラマンさん、名物のドラゴンステーキ食べに来たんです」
「あれは少々ナマエ殿には大きすぎるだろう、拙者が同伴して一緒に食そう…もちろん、あーんでな」
「ニンジャさんったら私子供じゃあないですよ」

まるで奇跡的なタイミングだといわんばかりに悪魔超人軍全員が揃っていたことにバッファローマンは苦い表情を浮かべた、以前顔合わせをしたことのあるアシュラマンとザ・ニンジャは早速彼女の両隣を陣取っては他よりも先に話をした、懐かしい二人に笑顔で対応をするナマエはいつの間にかスニゲーターから渡されていたらしい魔界観光パンフレットを片手に何処が行きたいのかを探していた

「この血の池ってところ気になるんですよね」
「ニヒヒそれならオレの家みたいなもんだ、どうだ?連れてって見せてやろうか、それともリングの上で見せてやることも出来るぜ」

パンフレットに記載された観光名所に興奮気味に話をする彼女に割って入ったのは当然ジャンクマンである、突如現れた両手が巨大なジャンクハンドとなった彼を見ては彼女は「すごーい、かっこいい手ですね」なんていうものだから照れ臭そうに笑うジャンクマンに思わずスニゲーターの次に七人の教官をしてくれてる鬼ともいえるあの男と同一人物なのかと思わず驚いてしまう。

「この間ペルーに行って砂漠を見てきたからどうせならそういう魔界ならではの場所に行きたいですよね」
「なんだ!ペルーに行ったのか?あそこはオレの地元だ、お嬢ちゃん見る目があるじゃねぇか」
「地元の方も魔界に住んでるんですね?グローバルなんだここ」

そんなツッコミ以上のものがあるだろうとサンシャインの言葉に小さく呟いた彼女の言葉を聞いたバッファローマンはもういっそ今の状況に髪の毛が抜けて禿げてしまいそうだと思った
念の為に言っておくと、そう思うだけで禿げてはいない。
そうして六騎士に囲まれる彼女とその後ろでもまだ彼女と話をしたい七人の仲間達が押し合いへし合いで話をしていることにバッファローマンはキン肉マンの苦労を痛感してしまう

『ナマエちゃんはモテるんだ』

それはもう老若男女・種族・出身関係なく。と深く言っていたことを思い出しては確かにとその言葉を咀嚼した、一体何故彼女が人に好かれるのかと思いながらもバッファローマンもその実彼女と今すぐ二人きりで話をして街に繰り出してドラゴンステーキをあーん♡しあえたならば今生に別れを告げられるだろう。と思っていた

気付けば話は激高していき、ついには相手も問わずに胸ぐらをつかみ合う勢いになるというのに当の事件の当事者はパンフレットを食い入るように見つめては「ここのパフェおいしそ〜」などと話しているのだ、案外食べることが好きなんだなかわいい女だよ。と思うものの慌てて頭を振ってこの事態を収束させねばと思った時である

カツン…カツン…と廊下から響く足音に全員の背中がスンッと伸びる、聞き間違えることの無いその足音はゆっくりと止まり、そして全員の視線が扉に向かうもののナマエは未だに「悪魔将軍の城ってどんな感じなんだろ〜」と呟いた

「ここがその城だ」
「え?」

ふとナマエは顔を上げれば自分よりも数十センチ以上も高い相手の顔を見つめた、磨きあげられた銀のマスクに美しい絹のような黄金色の髪、鋭く冷たい赤い瞳に思わずバッファローマンはこうなればお叱りを受ける!と慌てたもののそれは直ぐに消えてしまう

「悪魔将軍様って貴方なんですか!?すご〜い!スグルちゃんが言ってた通り大きくってかっこいいんですね!」

思わず全員の時が止まったようであった、先程まで彼女を奪い合っていた悪魔たちでさえ彼女が相当な事をしでかしていると理解しているからだ。
青ざめていく表情と空気など気にせずに彼女は「スグルちゃん」と連呼して幼馴染から聞いた話を嬉しそうに伝えた

「怖くてどうしようもなかったけど、本当は根が優しくてかっこよくてそりゃあバッファローマンさんとか強い超人を率いるだけの人物なんだって言ってました」
「…」
「どんな人なのかなって思って、テレビの試合見たらもう本当にすごくって…私あったら絶対にサイン貰いたいなぁって思ってたんです!」
「ナマエ!もっもうやめろ!将軍様これは…そのぉ…」

人間の女ですから、どうかご慈悲を…とバッファローマンは慌ててナマエの口を抑えて後ろに下げようとするものの、その強大な彼の手のひらがバッファローマンに静止を求めるように見せつけられた
動きを止めて何事かと思えば人々に恐れられる悪魔超人達でさえも震わせる声は人間の女に向けられた

「何処にサインが欲しいのだ」

キュポンッ…という音に目をやればそこにはどこからとも無く用意された油性ペンを手にした悪魔将軍が彼女にそれはとても優しくいうものだから全員の時が止まる

「じっじゃあ背中にお願いします」
「よかろう」

目を輝かせてファンサービスを受ける女に全員がどういう状況なのだと眺めつつも気付けば彼女を腕に抱き上げている悪魔将軍は彼らに告げる

「ナマエをこのまま悪魔超人軍に入れようと思う」

まさかこの人までトンチキ状態にされるとはとバッファローマンは鈍器で殴られたような衝撃を受けつつも他のモノたちは賛成していたが片手で抱き上げられていた彼女は申し訳なさそうに「すみません、私正義超人のファンクラブに入ってるんで…ブロマイドとかもらえるし」といったことに全員揃ってバッファローマンをみつめた

「なっなぜオレをみる」

今はもう悪魔超人に戻ったんだから無害だろうと彼は両手を前にやっては必死に自分は無害だとアピールをするものの仲間たちの目は鋭くなるばかりである

「そういえば今月はバッファローマンさんのポスターだったんですよ」

かっこいいんですよ。といって背中に背負ったリュックサックから取り出したそれは確かに以前正義超人に所属していた時に撮影した際どいポスターであり、なぜ今更それをグッズにしてファンに配布しているんだと超人委員会にクレームをつけてやろうかと叫ぶもののそれ以上に鋭い殺意が刺さる

「バッファローマンよ、やはりお前には一度制裁を加えねばならんな」
「「オレたちからも、な」」

こんな事ってあるのかよ!!と叫んだバッファローマンの声は魔界に響き渡る頃、ナマエはのんびりと悪魔超人達の生スパーリングを眺めては「悪魔ってすごぉい」と呟いた

「隣空いてるか?」
「どうぞどうぞ、リング上がらないんですか?」
「あぁそれよりも旅行が趣味らしいな」

ふとリングの傍のパイプ椅子に座り眺めるナマエの横に現れたのはそれまで静かにしていたプラネットマンであり、彼は親しげに彼女に話題を振れば彼女は嬉しそうに指折り行った国の先を数えては「もうほとんど行っちゃいましたね」と笑った

「なら宇宙はどうだ?オレがいつでもお前のことを連れてってやるぜ?」
「宇宙かぁ…いいなぁ、気になる惑星多いですし、その時はぜひ」

その言葉に歯を見せて笑みを浮かべた彼は取り敢えず連絡先の交換だけでも、とちゃっかりしつつリングの上で瀕死になる悪魔超人達を見ては頭を使わなきゃな。と内心思うのだった


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