運命の王子
宇宙旅行というものがこんなにも簡単になるなどとは幼い頃には思わなかったものの、それもこれも幼馴染が超人界において特に繁栄したキン肉族の大王となったからだと彼女は感じた
結婚式には行けなかったが以前から来て欲しいという連絡を受けていたナマエは地球の旅からそろそろ宇宙に行くのもいいかと考えた
また近頃は幼馴染にも顔合わせをしていなかったと思い静かになってしまった美波里公園内にあるキン肉ハウスをみつめては寂しそうな笑みを浮かべた
「ずっと私たち二人で遊んでたのになぁ」
合鍵を使って誰もいない部屋に入ってはどことなく汗とニンニクの匂いで充満した部屋に苦笑いをして、彼一人ではなくなった生活だったのか、はたまた定期的な清掃に誰か来てくれているのか綺麗な部屋の中に自分はすることもないかと思いつつ慣れた手つきでインスタントコーヒーを入れてはほっと一息ついた
『あなたひとりなの?』
『うん』
『わたしナマエ、いっしょにあそぼうよ』
子供というのは純粋だ、それ故に傷つけることも分かり合うことも出来る生き物で自ら声をかけた友情がこんなに続くとはあの頃の彼女には思わなかったことだ
テレビの中で活躍する幼馴染を見る度にどこか遠くに行ってしまった存在に感じては少しだけ寂しく感じられた、人に蔑まれいじめられて泣いて走って滑って転んでいたあの頃の彼が少しだけ恋しいと思いつつも大好きな幼馴染の成長は嬉しいものだ
「結婚祝いもあげてないし、お嫁さんの顔も見てないんだから、ここはちゃあんとしていこう!」
待ってろ宇宙、待ってろキン肉星、そして幼馴染をお願いします綺麗なお嫁さん!
……と胸の内で叫んだナマエは少しばかりの宇宙旅行にいってしまうのだった。
◇◆◇
全く大王の仕事というのはとてつもなく忙しい上に大変なことばかりだとキン肉マンは頭を抱えた、それまでの生活とは一転した現在の生活はとても大切なものであり人々を導く為には必要不可欠だ
とはいえあまりにも堅苦しく多少の息抜きさえ許されない状況には思わずため息がこぼれてしまう、ふとやってきた従者の一人が「お手紙です」と声をかけて差し出してきたレターセットは見覚えのあるものであり思わず頬が緩む
「あらスグル様とても嬉しそうですね」
「あぁナマエちゃんからの手紙だ、今頃どこにいるんだかなぁ」
「私もご一緒にお読みしても?」
「勿論だ、早くビビンバにも会って欲しいきっとナマエちゃんのことを好きになる」
幼い頃から彼女を好きにならない人はいない、どれだけ気難しい者でも彼女の笑顔と全てを受け入れる心の広さに相手を包み込む優しい言葉と声、握りしめるあの小さな手はとても大きく安心感のあるものだ
「私は彼女に憧れているんだ、あんな人になりたい」
「まぁスグル様も立派ですよ、でもナマエさん…私もお会いしたいですわ」
隣に腰掛ける妻に目尻を下げて微笑んだキン肉マンは早速手紙の封を開けては普段よりもまた一段と分厚い紙の束に今回の旅は相当面白い経験があったのだなと感じては楽しみにしてしまう
彼女から送られてくる手紙は絵葉書も同封されておりまるで小さな読み物のようであり、昔から届いたものは全て大切な宝物として彼は取っていた、妻のビビンバに「早く見ましょう」と催促されるのは彼女もまた手紙を読んできた者であり、キン肉マンの幼馴染は彼女の中ではちょっとした作家のようなものだったからだ
「えー、なになに」
拝啓、キン肉スグル様。
お元気ですか?私はとっても元気です、先日魔界に行ってバッファローマンさんとお会いしたり、バルセロナにサグラダファミリアを見に行った際に出会ったジャスティスマンにお招きされて、あの伝説のモン・サン・パルフェに行ったりしました
「ほー、それはすごっ…え?」
思わず目を丸くして手紙を強く掴んで文字を読めばそこにはここ最近の彼女の状況がよく描かれており、悪魔将軍や悪魔超人軍に会ったことや、完璧始祖達や大叔父であるキン肉サダハルに会ったことなど嬉しそうに書いていたもののキン肉マンの表情は青白く変わることに隣の妻は心配そうに背中を摩った
「ぐっぐぅ〜!やはり私が居ないとナマエちゃんは変な連中に囲まれてる、心配じゃ」
「まっまぁナマエさんも大人ですから」
以前久方振りに再会した彼女を取り囲む仲間を思い出しては安心出来るものかと顔を青ざめさせるキン肉マンは幼馴染のナマエをそれはもう娘のように可愛がっていた
幼い頃から正義感ゆえにトラブルに首を突っ込む彼女はその持ち前のオーラで相手の戦意を消失させたり、相手を好意的に思わせる不思議な力を持っているもののそれは大人になった現在は余計な虫を付けるばかりだった
「ナマエちゃんは昔からストーカーやら不審者やらが本当に多かったんだ、高校生になればあっちやそっちから求婚や交際が殺到するわ、拉致されて立て篭りまでされた事もある」
それを心配せずにいられるか!というもののふと大王としての職務用の机に置かれた二人の写真を見る限りナマエは特別容姿が優れている訳では無い、綺麗ではあるが一般的な女性に見えた、けれど人の持つパワーというものが特別なものであることを目の前にいる夫を見て知っていたビビンバは困ったものだと感じた。
その幼馴染ではないとはいえこの男も案外モテるのに気付かないのだから、きっとこの二人は似た者同士だと思えたからだ。
そうして長い手紙を読み終えようとしたもののキン肉マンは最後の一文に目を丸くさせる
長くなりましたが私は元気にしています、近々結婚祝いと挨拶も兼ねてそっちに行くから待っててね、初の宇宙旅行頑張るぞ、おー!
と元気に書かれた文字にブルブルと震えたキン肉マンは思わず立ち上がり「迎えに行かねば!」と声を荒らげて走り出してしまう
一人職務室で残されたビビンバは目を丸くしつつ、あの噂の幼馴染に会えるのかと思い胸を高鳴らせるのだった。
宮殿の中を駆け抜ける新大王となったキン肉マンに全員が何事かと思うものの彼はそんなことは気にしていられずに入口に向かえば丁度ドアが開き誰かが、いや…その集団は入ってきていた
「ふふっ皆さん本当に面白い」
「おっ遅かった…じゃなくて、ナマエちゃん!なんでそこの連中と一緒にいるんじゃ!」
階段の上から声を張り上げれば気付いたらしい彼女は両手をブンブンと大きく振りながら呑気に「スグルちゃーん、来たよー!」と挨拶をした、そこまではまだいいものの彼女を取り囲む四人の男たち、それはあまりにも見覚えのある面々であることも当然であるが
キン肉マンがどれだけ呼びかけても集まらないような者達だった。
それは彼ら五人がこのキン肉星の王位を奪い合った者たちなのだ
勿論彼らとは完全な和解をしており、キン肉星に詳しくないキン肉マンはこの星がより良くなるために彼らに宮殿で働いてもらうように何度も交渉したもののそれは叶うことはなかった
時折食事にでもと誘うものの多忙なのはお互い様で同じ星にいても顔合わせすることは少なく同じ日同じ場所で産まれたもの同士の絆を感じる彼からしてみれば寂しいと思う程だ、そんな四人の男達はナマエを囲んではまるでキン肉マンのことも気にせず話をするのだから思わず彼は階段から落ちてしまう
「それにしてもナマエはとても興味深い話をしてくれるな」
「フェニックスこそとっても面白い話ばっかり」
彼女の隣に立つフェニックスは持ち前の頭脳を活かして知的な話をしてやり、その更に隣に立つマリポーサーもまた彼女の足元にある小さな段差で躓かないようにと優しくエスコートしてやっていた
その後ろのビッグボディもフェニックスとナマエの会話に嬉しそうに混じり、ゼブラもまた彼女の荷物を片手持ちつつも暖かい宮殿内故にコートを脱がなくていいのかと問いかけ、それはもう四人の男たちは王子顔負けに彼女をそつ無くエスコートするのだ
「なっなんじゃいお前たちは!ナマエちゃんと仲良くして」
「なんだキン肉マンいたのか、私達が彼女と仲良くしててもいいだろ」
「お前の幼馴染はオレ達の幼馴染みたいなものだ」
マリポーサとゼブラの言葉に謎のジャイアニズムを出されてしまい驚きつつも冷静に「いや違うのでは?」と返事をしてしまう
ナマエはゼブラに任せていた荷物を受け取っては久し振りに顔を合わせた幼馴染に向けて紙袋を差し出した
「はい、これお土産ね、来る道中に美味しいお店教えてもらったから買ってきたんだ」
「おぉーキン肉サブレかぁ、私も好きなんじゃ、聞きたいことも沢山あるからみんな取り敢えず上がってくれ」
キン肉マンの言葉に全員が顔を見合せてここがこの星を統治する者の宮殿ではなくまるでキン肉ハウスのようにいうのだなと思わず笑みをこぼして案内をされるがまま足を進めた
豪華絢爛な室内に流石は王様の城だとナマエは感心しつつも落ち着かずに座った面々を見つめるものの、隣に座るキン肉マンはナマエの肩を抱いては四人を指さした
「それでどうしてお前達がいる、ンー?さてはナマエちゃんをナンパでも?」
「そんなわけないだろう、たまたま彼女が一人だったところを声をかけただけだ」
それがナンパだろう!と声を荒らげるキン肉マンのことも気にせず出されたお茶を丁寧な所作で口にするマリポーサに呆れつつもビッグボディはちゃんと、たまたま用事で街に来たらマリポーサがいたことに気付き声を掛ければ見慣れないナマエがいたのだという
「それでたまたま偶然全員が合流したんだよ、まぁナマエとは奇跡的だな!」
「ふふっそうなの、ゼブラとフェニックスのお陰でいいお店で安く物が買えたりしたし、流石はスグルちゃんのお友達」
友達どころか同じ日同じ場所で同じように生まれた運命の五人はもういっそ兄弟かも。と笑う彼女になかなかまぁ悪い気分じゃないと思う五人は目の前の女の柔らかな雰囲気に心を休ませていたもののキン肉マンはハッとして四人を睨みつける
幾分かましとはいえやはりナマエにいつ手を出してもおかしくは無いのだから自分が彼女を守らねばと思う彼はそれはもう頑固親父以上のものだった
「そういえばビビンバさんやパパとかママは?」
「ん?あぁさっきビビンバが声をかけに行ったからそろそろ来るんじゃないか?」
その言葉と同時に客間のドアが開かれて「ナマエちゃーん」と聞こえたのは男の野太い声であり、椅子から立ち上がったナマエもまた嬉しそうに笑みを浮かべては「真弓パパ!スグルちゃんママ!」とまるで自分の親に再会したように熱い抱擁をする姿に胸がじんわりと暖かくなる
数度しかあったことの無いナマエだが、両親は一目見て彼女を心底惚れ込み娘がいたならば彼女のようなものだと感じてはそれは溺愛したものだった
「あなたがビビンバさん、ですか?」
「はい、スグル様からはナマエ様のことを沢山伺っております」
「ッッうっうれしい!男の子ばっかりだから女の子がそれもこんなに美人で可愛いお嫁さん、私ずっとビビンバさんに会いたかったんです」
ぎゅうっと強く抱き締めるナマエに驚き思わず視線をキン肉マンに向けるビビンバだが、彼は優しく笑みを浮かべて抱き締め返してやって欲しいとアイコンタクトをしてやれば、ビビンバの細い腕が優しく彼女の背中に回される
「沢山話したいことがあるからちょっとだけビビンバちゃん借りるね」
「あまり困らせないようにするんだぞ〜」
「子供じゃないから大丈夫だよ!」
パタパタと出ていってしまった四人は積もる話もあるのだろうと思いつつ鋭い視線に気付き思わず目の前を見れば四人の男たちはキン肉マンをみつめていた
それはもう嫉妬と愛憎を交えたようなものであり、かつての王位争奪戦の時のピリついた空気を感じるほどで思わず冷や汗がたらりと額からこぼれ落ち、なんだと彼は声を出した
「あんなにかわいいお嬢さんがいるとは知らなかったぞ」
「オレたちには内緒だったとはな」
「器量もいいし性格も満点どこに出しても恥ずかしくない女の子だよな」
「あぁ質素な生活も慣れているらしいし自由奔放なところもまた魅力的だ」
フェニックス・マリポーサ・ビッグボディ・ゼブラと続け様にいうナマエへの褒め言葉にこれは一体何が言いたいのかと思わずジトリとみつめれば四人の手が勢いよくテーブルを叩き、その勢いに任せて揺れたカップの中のお茶が軽く溢れてしまうのをキン肉マンは直ぐに近くのタオルで拭いた
「な…なにがいいたい」
思わず震えた声で返事をしたキン肉マンは嫌な予感がすると思えば彼らは立ち上がり腰を九十度に曲げて右手を差し出し声を揃えた
「「「「ナマエとの関係を認めてください」」」」
「誰が認めるか!」という台詞はキン肉マンからではなくドアを叩き開いた二人の男によって止められた、そこには前大王であるキン肉真弓、そしてあのキン肉マンソルジャーことキン肉アタルが立っていたのである
「お前達にはすまないが、ナマエは私と結婚するぞ」
アタルの言葉になにィ!?どういうことだ、説明しろ、どうせ勝手な話だろうと全員が首元を掴み合い始めればキン肉マンはやはりこうなるのか。と内心思いつつ幼馴染は誰にも嫁がせないぞと騒動の中心に入り込むのだった。
◇◆◇
「スグルちゃんがあんなに明るくなれたのはビビンバちゃんのおかげだね」
「そんな事ありませんよ、スグル様は以前からずっと明るくて優しくて私の手を引いてくださいました」
ビビンバの私室に招かれたナマエは彼女から渡されたアルバムを広げては2人の思い出を眺めて微笑ましくみつめた
泣き虫で少し怖がりでちょっと弱虫なあの頃の少年からもう随分と変わったのだと感じつつ、ビビンバの横に並ぶ幼馴染の姿はとても嬉しそうで胸が温かくなった
「ナマエ様のことをいつもよく聞かせてくださいました、最初はあまり嬉しくなくて嫉妬していたんです」
こんなに好きなのにスグル様の心にいる女性は私では無いのか。という彼女の言葉にナマエは苦笑いを浮かべる、ビビンバが出会った当初は彼に恋心を抱く女性は他にもいたがそれらを退けてようやく隣に座ったというのに彼はいつだって「ナマエちゃん」「私の幼馴染」の話をしたのだという
その言葉を聞いたナマエはいい気分には当然なれないことを理解して苦笑いを浮かべつつ謝罪の言葉をした
「でもお手紙を拝見して、写真を読んで貴女様を知るうちに私もまたスグル様のように貴女に心惹かれておりました」
真っ直ぐとしたその瞳にナマエは彼がこの女性に惹かれる理由を痛いほど理解した、あまりにも美しい女性であるからだ
照れ臭そうに反応を示す彼女の手を取りビビンバは笑みを浮かべた
「ずっとあの方の幼馴染としてそばに居てください」
「うん、約束する、ビビンバちゃんもスグルちゃんのことをお願いね」
彼は少しだけ泣き虫な男の子だから。と笑ったナマエはアルバムの中にある小さな頃の彼の写真を撫でるのだった。
◇◆◇
宮殿内が揺れてしまう程の揉め合いに発展した客間に戻ってきたナマエとビビンバは手を取り合いどうしたものかと目を丸くしていれば、キン肉マンのママが現れては「なにしているのこのバカチン達!」という怒声とゲンコツにより自体は収束を迎えた
全く騒がしいんだからと呆れつつ罰として用事を手伝うことを求められたキン肉マンを残した他の男達は連れていかれ、ビビンバも用事があるからと幼馴染二人の大切な時間を取らせるようにその場を後にした
「いたたっ、優しくしてくれナマエちゃん」
「仕方ないでしょ、男の子ってすぐ喧嘩して怪我するんだから」
「昔はナマエちゃんもだったのになぁ」
持ってこられた医療キットの中の消毒液をコットンに含ませて擦り傷を拭いてやるナマエはその言葉に苦笑いをした、出会った頃のナマエは世界旅行をする両親から祖母の家に預けられ一人何も知らない街で過ごしていた
そんな中で出会ったいじめられっ子の孤独な超人であるキン肉マンと友情を育み幼い時間を過ごした、男の子のようにやんちゃでそして誰とでも仲良くする彼女はあの公園のガキ大将に近い存在だというのにキン肉マンのことを誰よりも一番に想っていた
「いじめられていた私をずっと守ってくれた、ヒーローだ」
「今じゃあ逆だね」
「いや!私にとってナマエちゃんは今も私の太陽でありヒーローなんだ」
ずっとそうなりたくて頑張ってる。という彼の真っ直ぐな言葉に目頭が熱くなり思わず顔を俯かせればキン肉マンは困ったように笑みを浮かべては彼女を抱き締めた、それはずっと彼女が彼にしてきてやったことであり、両親のいない寂しい二人の心を暖かくするものだったのだ
「改めて結婚おめでとうスグルちゃん」
「ありがとうナマエちゃん」
そういって笑いあった二人を扉の隙間から覗くのは両親に兄に妻そして彼の友人である四人の男たちだった
優しい空気も一旦お開きに夕飯にしようかとドアを開けて声をかけるママの声に全員が嬉しそうに笑みを浮かべて今日は何かと話をするもののナマエは腕時計を見てはそろそろ出なくてはならないことを言う
「まだゆっくりしていればいいだろう、滅多に帰ってこない娘がすぐに出て行くとパパ寂しいじゃないか」
そういって彼女を抱き締めて額にキスを落とす真弓にナマエも多少の申し訳なさを感じつつも迎えに来てくれる相手がいるからダメなのだと言った
キン肉星に来る道中に出会った優しい超人がもし時間が合うならば地球まで送ってやると言ってくれた言葉に甘えているという彼女に全員の眉間にシワがよってしまう
「そんな見ず知らずのものは危なくないのか?」
冷静にそう問いかけるアタルにナマエは荷物を背中に背負いつつも優しい人だし悪い人じゃなかったと告げる、それはナマエにとってはこの世全ての生き物がいい存在だと感じるからだろうと思っていれば彼女はふとアタルを指さした
「そういえば彼、アタルさんと同じ服着てました」
傭兵として色んなところに言ってて面白い話してくれるんですよ。という言葉に全員が顔を見合せては小さく頷いた
「よしナマエちゃん私たちが送ろうな」
ハッハッハッと笑うスグルとアタルの声にナマエは二人とも送ってくれるだなんて心配性なんだからとクスクスと笑った。
◇◆◇
「すみません、ここからキン肉星ってどういけば?」
ふとタバコに火をつけて次の戦場に向かうかと思った矢先に聞こえた女の声に振り返ればそこにはかわいい女がいた、眩い笑顔は太陽のようで辺り一面は土と瓦礫ばかりだというのにまるで花が咲いたように彼女のいる空間は美しいもので慌てて彼は付けたタバコの火を消した
「ここからって宇宙船じゃないと行けないぞ」
「ですよね…乗る船を間違えたみたいでどうしよう」
大荷物を抱えた華奢な女はみるからに人間であり、無防備なTシャツと短パン姿に思わずゴクリと唾を飲み彼は特に急ぎの予定もないことを思いつつそんな彼女に「送ってやろうか?」といった
胸の傷が痛むもののそれは彼女に出会った恋の痛みかもしれない、キン肉星に向かう道中の会話は随分と弾んで少しだけ遠回りになり小さな彼の船で一泊することとなり狭いベッドで二人眠ることになったがまさに天国のようだった
「ソルジャーマンさんありがとうございます」
「あぁいいんだ、それより帰りはどうするんだ?地球行きのチケットはあるのか」
「まだ買ってないんですけど多分大丈夫かも」
「…良かったら送ってってやろうか?」
ついでだしな。と素っ気なく返せば女はとても嬉しそうに笑みを浮かべて彼の手を取り「嬉しいまた帰りも一緒にいられるんですね」と胸元に寄せられればこれはもう向こうも好意があるだろう…と考えてしまう。
そんな彼女との地球へ向かう道のりは凡そ2泊3日くらいにはなるだろうと思えばその間にあんなこと…こんなこと…が起きてもそれは自然なことだろうと緩む頬を抑えることも無くタバコを吸っていたソルジャーマンは遠くから自分の名前を呼ぶカワイイ声に「ったくおせぇんだよ」と振り向いた途端に後悔した
何故ならそこにはリングコスチュームを身にまとい殺意を隠す気のない男達がいたからで、件の女はそんな男達のことなど気付いてもいないのか両手を大きく振って笑顔を向けていたのだ
まさに天国と地獄だと震えて思わず素直に足が逃げ出そうとすればトンッ…と彼は何かにぶつかり顔を向けるとそこには人生においてもう二度とみたくない男がそこにいた
「ちょっとお兄さんと話をしようじゃないか、なぁソルジャーマン」
目を隠されたナマエは数分後ソルジャーマンと帰れなくなったことを残念がりつつも夕飯を共にしてはまるで大家族のように騒がしい食卓に頬が緩む
美味しいかと聞いてくれるスグルも、栄養バランスの話をするフェニックスも、もっと食べるといいと皿に盛ってくれるビッグボディも、女性の肌にはこれがいいと進めるマリポーサも、この肉が何処の品種の一流品なのかと説明してくれるゼブラも、食後のデザートは自分のものもあげようと甘く囁くアタルも、みんながみんな優しくて暖かいものだった
胸が温かくなり、家族の温もりあまり知らずに過ごしたナマエはいつかこんな風になりたいとみつめる
「ナマエちゃんがなんだか嬉しそうでよかったのぉ」
「うん、とっても幸せだと思ったの」
「いつでも帰ってきなさい、ここはナマエちゃんの家なんだからね」
スグルと真弓の言葉にナマエは嬉しそうにデザートのプリンを食べては頷いた
「うん、今度は彼氏連れてくるね」
その言葉にドシャァァンと大きな音がなり何事かと前を向けば全員が仰向けで倒れていることに、みんな同時に転けるだなんて面白こともあるのだな。と彼女は思いつつ隣のアタルのプリンに手を伸ばすのだったとさ
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