Prologue Side R
春。

桜の舞う薄桃色の季節。

気候は穏やかで吹く風は暖かくて、出会いも別れも全て包んで見守ってくれるような、そんな時期だ。

環境が変わる人間も多く、新しい事にチャレンジするには持って来い。
ああ、良きかな。春。

良きかな。

なのだけど。


「ど、れ、に、し、よ、う、か、なっと。おし、これ!」

丸井ブン太にとっては新しいチャレンジとか、出会いとか別れとかは、まあ二の次三の次だ。

そんな事より春はお菓子。

苺味に桜味に、期間限定のフレーバーは山程出てきて、食べないと損損!なのであった。

「これとこれと、後これとこれと・・・」
「え、ええと、182円が1点、206円が1点・・・!」

どさどさとカウンターにお菓子を山積みしていく丸井。
これだけ食べても太らないのだから現役の学生は良いなあ、とコンビニの店員は思った。

「後これ、あ!これも!」

見逃していた。
1番くじコーナーの下に並んでいた苺のムースポッキー、最後の一箱。

「それもですね・・・ええと、合計で1646円になります。」

今日入学式で教科書が入っていないのを良い事に、スクールバッグにウキウキとお菓子を詰める丸井。
帰りには教科書貰っている筈だがどうするだって?
帰り迄お菓子が残っていると思うてか。

「有難う御座いましたー。」

店員の声を背に受けて、上機嫌でコンビニを出る丸井。

その直後、ほぼ入れ替わりに1人の少女がコンビニに駆け込んだ。

「はあっ!はあ、はあ、はあ、あの!」
「は、はい?」
「い、苺のムースポッキー!ありませんか・・・!」

切れ切れの息でそう尋ねる少女、五十嵐紀伊梨。

気の毒な事を言うようだが。

「先程売り切れてしまいまして・・・」
「なんですとおおおお!?」

うせやん!
と書いてあるような顔でショックを表す紀伊梨。

その後ろでコンビニの扉が再度開いた。
春日紫希と黒崎棗。
コンビニにダッシュした紀伊梨にぼちぼち歩いて追いついたのだ。

「どうでしたか、紀伊梨ちゃん?」
「よしよし、売り切れだったんだねー。」
「なんで分かるの!?」
「お前の顔見たら皆分かると思うよ。」

絵に描いたような悲しげな顔である。

「ムースポッキー如きで涙ぐむなよw」
「だってえ〜!紫希ぴょんと一緒に食べるの楽しみにしてたんだも〜ん!」
「まあまあ・・・きっと又見つかりますよ。そしたら一緒に食べましょう?」
「見つかるかなあ・・・?」
「見つかりますよ。だって春は始まったばかりじゃないですか。」

ね?と言ってへたり込む紀伊梨を助け起こす紫希。

「ほら、お前も何時迄も泣くなって。これから入学式なんだからさ。」
「・・・うん!」
「あ、あんまり擦ってはいけませんよ紀伊梨ちゃん!」
「ハンカチくらい持っとけよw」
「うるちゃいなー!」

わあわあ言いながらコンビニを後にする3人。

その後ろを、ひとひらの桜が風に吹かれて追っていった。
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