Training camp - in Irupinet Hotel -:Disuguise 2



その後もガールズトーク(というには若干重めの話題ではあるが)は続いたが、千百合の話題に一度は一気に目が覚めた紀伊梨も、話が進むにつれて再度睡魔に勝てなくなりだした。
22時にはもうベッドで眠りこけていて、千百合と紫希は2人だけで更に少しだけ会話をしたが、やがて眠くなりだして後片付けをして、23時にはもう全員夢の中だった。

そして、真夜中。

「・・・・・ふああ、あふ・・・」

紫希は一人で起きた。
パジャマを脱いで変装して、紀伊梨と千百合が確かに眠っていることを確認して、部屋を出る。

そのままホテルの入口まで行くと、別室で休んでいたはずの棗と小口が待っている。

「やはw」
「お疲れさま、紫希ちゃん。」
「こんばんは。よろしくお願いします。」

さあ、深夜練習の始まりだ。





実はホールは24時間いつでも借りる事ができる。
ただ17時以降は夜料金に切り替わってしまうので、ビードロズ達は17時以降は練習しないと決めているだけ。お金さえ都合がつけば、こんな風に夜でも練習は可能だ。

小口は2人を降ろすと、3人でホテルのラウンジで飲む事と何かあったら連絡することを言い残しまたホテルに戻っていった。

「よし、ではやりますかw」
「はい・・・」
「あれ、自信なさそうねw腕が上がったんじゃなかったのw」
「あ、ご、ごめんなさい、別に腕が上がったわけじゃ・・・」
「あれ?そうなの?」
「はい、でも・・・」
「でも?」

「・・・前より、弾くのが楽しい、です。それは本当です。」

「・・・・・!」
「な、なので!もし途中で詰まっても、止めないで貰えると・・・って、棗君は最初からそうしてくれてましたよね。すみません・・・・」

そう。
棗は一緒に練習していても、決して躓いたからと言って演奏を止めたりしなかった。
止めていたのはいつも紫希の方だった。棗は最初から、楽しくいこうとずっと伝えてくれていたのに。

「・・・棗君?」
「ああ、いや・・・まあ取り敢えずやるかw百聞は一見に如かずってねw」
「はい!」
「よし、じゃあ頭から。1、2、3・・・4!」







「・・・・・」
「ど、どうでしょうか・・・」

通しでの演奏が終わった。

間違えた。やっぱり間違えた。前と同じところを。
でも、僅かだけど前よりは間違えた所が減ってるし、それに。

(楽しかった・・・)

以前丸井に歌って貰った時は、自分のメロディが土台側でその上に歌が乗った。

今度は逆。
ドラムの上に自分のキーボードが乗るのだ。

今までずーっと演奏してきたのに、そんな事もわかっていなかった。

(こういう所が私って本当に・・・気づくのが遅いというか、鈍くさいというか・・・)

「・・・あ!ええと、それで棗君。どうでしょうか・・・」
「・・・・・・」
「あの・・・やっぱり、ダメ、でしょうか・・・」
「・・・あ、いや。ダメってわけじゃ・・・良いんだけど。」
「はい。」
「・・・・何か俺、ちょっとビードロズメンバーとして自信をなくすわw」
「え!?」

自分達は。
棗は敢えてそう考えるようにしているが、割り切った話をきっぱり言うと「仲良しバンドグループ」なのである。
紀伊梨だけは例外だから置いといて、自分より上手いドラマーだって、千百合より上手いベーシストだって山ほどいる。況や、紫希をや。

でも、そういう問題じゃないのだ。
「このメンバーで」「全力を尽くす」のが醍醐味なのであって、別にプロミュージシャンとかメジャーデビュー目指しているわけでもなければ、上手くないと意味がないとか聞き苦しい演奏になるくらいならメンバー変えろとか、そういう話しているわけではない。

棗はそこの所を紫希にわかって欲しかった。
勿論演奏の腕があるに越した事はないし求めたいけれど、それはあくまでビードロズとしての演奏を楽しめているという土台があっての事だ。

(とはいっても性格上、技術がそれなりにないと楽しめないと思ってたんだけどなあ・・・)

さっきの紫希は楽しそうだった。
掛け値なしに、演奏に対して新鮮な驚きと音楽の喜びに満ちていた。

自分が何時間も何日もかけて教えられなかった事なのに、それをものの15分で解決する丸井という男は一体何者なんだろうか。
ウィザードウィザードって冗談めかして言ってたけど、ここまで来るともしかしてマジモンかもしれない、と棗は思う。

「ご、ごめんなさい・・・」
「え?」
「すいません、私こんなに長い間教えて頂いてるのに進歩がなくて、で、でも!ダメなのは生徒の私で、棗君は凄く良い先生ですから、」
「ああごめんごめん違うwそういう意味じゃないし、演奏は凄く良かったから、この調子なら全然OKw」
「!本当ですか、あ・・・でも、それなら自信を失くすっていうのは、」
「いや、ちょっと聞いてたら色々考えちゃってw完全に俺の都合でしかないからあんま気にしないでw」
「・・・?」
「マジで気にしないで良いからwそれより、俺的には今の良かったから、感覚忘れない内に今日何回かやって固めたいんだけど、どう?」
「あ、はい!やります!」
「オッケwじゃあガンガンやろう、1時には戻りたいしw」
「はい!」

神奈川の端っこにある音楽ホールに、ドラムのキーボードの音だけのメロディが楽しそうに響く。


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