First national convention:Wings
「ああ。ああ。そうか、ご苦労。そのまま送り届けてくれ。」

ふう、と軽く息を吐きながら跡部はスマホを消した。

「可憐ちゃんかしら?」
「ああ。」
「調子の方、どないや?」
「思った以上に持ち直したらしい。神奈川へやったのは正解だったな。」
「は〜・・・・」

いつものメンバーの間に広がる、ああやれやれ感。
大会の前からぐったりしちゃうぜ全く、な顔の向日とは対極に、根が真面目な宍戸はつい考え込んでしまう。

「良かったけど・・・結局彼奴、何に悩んでたんだ?吹っ切れたのか?」
「もうそこまで良いっつーの!取り敢えず全国だ、全国!」
「良くねえだろ!また戻るだろうが!」
「あのな、」
「そこまでにしろ!」

はあ、と息を吐きながら跡部はがしがしと頭をかいた。

「確かに根本の解決はしてねえだろうが、そこまで構ってやる暇はねえ・・・というより、構う義理はねえ。」
「なん・・・義理がねえだと!」
「当たり前だ。何に悩んでるんだか知らねえが、彼奴の悩みは彼奴の物だ。彼奴以外に誰も越えられねえんだよ。こっちもスケジュールは押してるからな。」

そう、くどいようだが今日は全国。
そもそも可憐が神奈川へ行ったのだって、元はと言えば今日に間に合わせるためである。
急がないのなら跡部だって放っておいた。

「まあ、今の私達に出来ることは、戻ってきたらなるべく普通に接してあげる事よ、ね。」
「せやな。あんまり仰々しく出迎えたりせえへん方がええと思うわ。」
「ほら亮!普通にしてろよ!」
「う・・・わかってるっての!」

苦手なんだよな、と宍戸が小さく呟いたのが忍足の耳に入った。

反面、忍足は得意である。
何でもないふり。気にしてないふり。何考えてるか分からない、平常心の挙動。

テニスの時でもやってる。
心を閉ざせば、こっちの思惑は相手に気取られない。

筈。

「・・・・・・」
「侑士!行くぞ!」
「ああ。」






一方、立海のレギュラー陣はオーダー票を頭を寄せ合って見ていた。

「・・・じゃあ、今回はこれって事で。」
「良いんだな、幸村。」
「はい、お願いします。」
「お前らも良いのか?」
「無論です。これは柳を含めた、俺達3人の総意でもありますから。」
「しっかしなあ・・・・」

副部長の東雲は、目を細めてオーダー票を見た。

「お疑いですか。」
「いや、お前達の実力も柳の頭も疑ってるわけじゃないけど・・・」
「いや、東雲の気持ちも分かるさ。俺だって、こう言われても俄かに本当かどうか信じづらい。これが本当にその通りだとするとまあ・・・言葉を選ばずに言うと、勝負って何か?みたいな話になっていくからな。」

幸村は苦笑した。
そこまで言うかなあ大げさなんだから、という気持ちと、まあ本当に柳の仮説が当たっていたらそう言われても仕方ない部分があるか、みたいな気持ちと。

「まあいずれにしろ、お前達が負けるとは思ってない。誰が相手でも勝つっていうなら、どうせなら有意義な試合にするべきだしな。」
「ああ、今日の・・・というよりも、原則全国のオーダーはこれで進めよう。

・・・・頼んだぞ。」

「「「はい!」」」





『それでは、お台場の湊さ〜ん!』
『は〜い!見てください、この晴れ間!まさにレジャー日和ですが、今日の気温も高くなります!熱中症や日焼けには十分注意して、楽しい夏の思い出をーーーー』


「・・・・・・・」


普段流し聞きしているお天気お姉さんの声がやたらに耳につくのは、自分が外出する気になってるからだろうか。
何とも言えない複雑な気持ちで、一条郁は朝食のトーストを齧る。

「おはよう・・・あれ、まだ居たのか。」

徐に入ってきた兄にびく!と肩を震わせる。
ああびっくりした。
もう8時だぞ、って大きなお世話だ。

「・・・・兄さん。」
「何だい。」
「・・・兄さんは今日の結果とか、」
「ああ、幸村君が教えてくれることになってるよ。」
「・・・見に行ったりとか、」
「行かない。人を言い訳にするのは止めなさい。見たければ。自分で。行け。」

わざわざ一言一言区切って言う兄は、流石兄というか郁の心情をきっちり見透かしている。

ああそうさ。
正直に言うと見に行きたいさ。

でもそうと自分から言い出せない。
自分からテニス見たいと言い出すという事は、つまりこっちが希望を出す側ーーーまあ要するに、郁のイメージの中で「下手に出た」感があるのだ。

カースト上位の人間から「え?お前俺達の事好きなの?」とか思われたら最後。
こっちがあっちを好きという気持ちに付けこまれ、ああだこうだ良いように振り回されて惨めな思いをするに決まってる、と郁は本気で思っている。
だから絶対、内心でどう思っていたとしても行動として好意を表すわけにはいかない。
あくまで、あっちがこっちに近づいてきている図を用意されないと信用出来ない。

そういう意味で、郁にとって紫希は実に便利な人間であった。
こっちの事をよくわかっていてくれて、その上で言い訳を用意してくれる。

今だってそう。
郁は内心で、ふんだ良いもん、と思った。
兄が来てくれなくても、こっちはもう紫希から誘いを受けているのだ。
彼女が来てくれと頼み込んでくるから、という方向で行こう。うん、そうしよう。

方針が決まるとちょっと食欲が湧いてきて、郁はトーストに大きく齧りついた。


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