First national convention:Player of S3
観客が。
見ている部員達が、ベンチ入りしているレギュラー陣が、相手校の人間が自校の人間が。
異様な事が起きているのは、全員が見て分かった。
どこからか、見知らぬギャラリーの誰かのやり取りが聞こえる。
「・・・今、どれくらいだ。」
「・・・・さ・・・・さん、じゅっぷん・・・」
何と、試合を再開してから、幸村と犬養はラリーを30分に渡って続けていた。
と言っても、顔を見れば幸村の側がそう仕向けているのは一目瞭然である。
「ふっ!」
「はあ・・・はあ・・・くそが!」
(くそ・・・くそ・・・くそ・・・くそぉ・・・・!)
犬養は叫びたいのを渾身の力で我慢していた。
腕が痛い。
利き腕が、痛い。
ひたすらフォアハンドで幸村の強力なショットを受け続けている副産物である。
幸村の作戦ーーーそれは付き合う事でも止めさせる事でもなかった。
根競べに持ち込む。これが幸村の切ったカード。
ひたすら強力なショットを、相手がフォアハンドでしか返せないような所に打ち込み続ける。
先に音をあげた方が負け。ただそれだけのシンプルなゲーム。
幸村は最初から、ただで付き合うなんてとんでもないと思っていた。
あっちはバックハンドを使えるのにこっちは使えないまま戦うなんて、そんな事に何故付き合わねばならないのか。
だからそっくり返してやる事にしたのだ。
一度甘い球を返したら、握力が尽きて体が悲鳴を上げたらそれで仕舞の、つかみ合いのような乱暴な対決。
ラリーが続けば続くほど相手の底知れぬ集中力と相対する事になり、自分が先に諦めたら一気に飲まれるというプレッシャーも大きくなっていく。
(クソ・・・畜生・・・どうして俺が・・・どうして・・・)
どうして自分がこんな風に追い詰められなければならないんだ。
犬養は粗野ではあったが馬鹿ではなかった。
故に気づいていた。仕掛けられているのは自分の方だ。
幸村は、この根競べに勝つ自信がある。
握力も、集中力も、お前を凌ぐ用意がこっちにはあるんだぜとプレイでもって語りかけてきている。
この喧嘩、買わなければ。
いや、買うだけでなく買って勝たなければいけない。売り返されて負けるなんて、そんなのプライドが許さない。
負けられない。
負けられない。
そう思えば思うほど、脳は痛みを感じることを拒否し。
「うらあ!」
次第にラケットを握る感覚も放棄し。
「くそがあ!」
周りの声が聞こえなくなり。
「ぐ!・・・・・!く、う・・・・」
心身の限界を超えてしまう。
「犬養!」
カランカラン、と犬養がラケットを取り落とす音と、磯切の部長の声がしたのは同時であった。
「タイム!タイム・・・いや、棄権だ!棄権をお願いします!」
「放せ!」
「犬養、」
「出来る!俺は・・・俺はまだ出来る・・・出来るんだ・・・あれ・・・?」
どこだ。
ラケットはどこだ。
「俺の・・・俺のラケット・・・」
「犬養、落ち着け!」
「もう無理だ、体力の限界なんだよ!」
「ラケットは拾っておいてやるから・・・・」
「どこだ・・・あれがないと・・・俺はまだ負けてない、まだ負けてない・・・」
「しっかりしろよ・・・・!」
頼むから大人しくしていて。お願いだから。
あまりに痛々しい犬養の姿に、磯切側のみならず立海も、観客でさえ黙って事の成り行きを見守る他なかった。
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