First national convention:Bye&bye&bye 2


「よい、しょ・・・・」

紫希は水道でピンクグレーの、花のワンポイントが可愛らしいガーゼハンカチを濡らして絞った。

その後ろではさっきの少年がベンチに座っており、他3人に囲まれながらまだ痛む頬に手を当てていた。

「ねーねー、おにーさん立海の人っしょー?」
「せやで。よお知っとるな。ってまあ、このジャージ見りゃあ誰でも分かるか。」

ははは、と軽く笑う様子は、どうもさっきの事がまるで堪えていないように見える。
痛い事は気になるが、責められた事はとんと響いていない。

「・・・あんたみたいな奴があの部に居んのね。」
「なあw俺達そこそこテニス部見てるけど、初めて見る顔よねw」
「ああ・・・・んん・・・」
「あの・・・どうぞ。」
「ああ!ありがとうな。く〜・・・沁みるわ。」

紫希から受け取った冷たいハンカチを頬に当てて、彼は本当に気分よさそうに笑った。

「俺はな、毛利寿三郎、ちゅうんや。」
「森?じゅさ、ぶろう・・・?」
「あはは!森やのうて、毛利。毛利な。2年生やで。」
「え。じゃあ先輩じゃん。」
「俺ら1年だからなw」
「し、失礼しました、そうとは知らずに・・・」
「ははは!どんないどんない、別に先輩扱いされともないて。邪魔くさいやん?」

そういうもんだろうか。
というか、本人的にはそれで良くても、部的にはそれはOKなのか。

というか。というか。
なんとなーく言ってることは分かるから流しているが、この毛利とやらのさっきから話している言葉。

「もりのおにーちゃんってさー、大阪の人ー?」
「ん?」
「それ関西弁でしょー?えへん!紀伊梨ちゃん知ってるんですよっ!」
「おおー!正解やん!」
「やたー!」
「ははは。俺な、ちょっと前まで四天宝寺に行っとってんで。知らんか、四天宝寺。今日も出とる思うけど。」
「いや知ってますよw友達居るしw」
「ん。ちょっと前まで四天宝寺って事は・・・」
「・・・最近、転校されて来たんですか?」
「あー・・・いやまあ、最近ちゅうと具合わりなあ。中1春になってすぐ越してもたさかい、まあ実質転校ちゅうより、中学から立海生くらいのもんや?そのもーっとごっつ前は兵庫やったさかい、訛りはそっちやけど。」
「あ、兵庫弁になるんですか・・・」
「大阪弁じゃねーなあと思ったらそっちかw」
「まあ関西には違いないんだろうけどさ。」
「ほえー・・・ん?じゃあさじゃあさ、もりのおにーちゃんって、別に急にテニス部になったわけじゃないの?ずーっとテニス部なの?」
「せやで。」
「えー、でもじゃあ今までどこに居たの?紀伊梨ちゃん、顔も声も初めてだけどなー?」

紀伊梨のこの質問。
ビードロズは、とても気になっていたが、聞いていいものかどうか迷っていた、数あるうちの大きな一つであった。

案の定というか何というか、毛利は急に目を泳がせて、あ〜・・・んん・・・と言いにくそうな声を出した。

「かなんな・・・まあもう言い訳もへったくれもあらへんけど、うんまあ・・・早い話、俺入部はしよるけど部活は殆ど出よらんねわ。」
「・・・・え?」
「お?」
「っていうとつまりwおたくさんw」
「・・・その、お具合があんまりよろしくないとか、」
「ちゃうちゃう、サボりよるだけやさけえ・・・うん。ははは・・・」
「えー!いけないんだー!」
「いや、ちゃうで!俺かてそんな、それがええ事やとかそないけったいな事はよう言わんで、ほんまに。ただなあ・・・どうもなあ。」
「気が進まないっすかw」
「・・・まあ、はっきり言うて、俺にとってそないごっつ大事なもんでもあらへんしなあ。」
「・・・・ふーん。そなの?」
「今も言うたように、ええ事やちゅう気はあらへんで。打ち込んどる奴はえらい頑張るやっちゃでとも思うし。ただ自分でやれっちゅうとなあ・・・しとみないねんな。大会とかええ成績とかも興味あらへんし。」
「何で入部したのよ。」
「趣味っちゅうか。別に邪魔しとるやなし、居らへんだけやし、どっちょもないやろ思うてて・・・」
「で、そしたら雷落とされたんすかw」
「いやまあ、さっきのはまた別件で。ああ、ほれ!さっきの奴も言うとったやろ、われが居らんでも誰も困りゃあせんて。」
「そ、そういう意味で仰ったわけじゃないのでは・・・」

毛利は本当に正直にそう思っているのだろう事は、言動と態度の一致具合を見ていればすぐ分かった。
言うなれば毛利の感覚としてはマナー違反をしている、程度のもの。
凄い進んで皆そうすべきだ、と言われるような立派な振舞じゃない事は百も承知だが、そんな重大な犯罪犯してるわけでもないし、くらいの気持ち。

部活の方針と自分の向いてる方針が違うことは分かっているが、自分が変わる気はないし部の方に変われとも言わない。そもそも、合わせなくても別に構わないと思っている。
別に幽霊部員が一人居た所で、大会でポイント減らされるわけでもなければ、優勝できないわけでもない。

「え、じゃー何怒られてたにょ?」
「えー、んん・・・何ちゅう話んなると、も一つ言いにくいねんけどやなあ・・・」
「紀伊梨ちゃん、あまり深いところまで聞くのは・・・」
「良いじゃん、聞いとこ。そのくらいはして良いでしょ。」
「気になる事目の前で言われたのは事実だしなあw」
「ん?気になるて、サボってるっちゅう事がか?」

「違う、立海を優勝まで自動で連れて行ってくれる便利なマシンのとこよ。」

固有名詞こそ出なかったものの、話の流れでテニス部の三強ーーー幸村・真田・柳の友人トリオに絡んだ話をしているのでは、というのは紀伊梨を除く3人はすぐ察しがついた。
其の上で「お前彼奴らの事何だと思ってるんだ」などと言われてるという事は、凡そあまり良い事を思われているわけじゃない可能性が高い事もすぐ分かる。

「ああ、それなあ・・・自分ら、テニス部のファンやったら詳しいねんやろ?そったら分かるやろけど、今年の1年生にごっつい強い奴らが3人居ってなあ。」
「うん、知ってるよ!ゆーーーむ!」
「ちょっと、こっちの話後々。」
「すみません、続きを・・・」
「ん?そうけ?まあ、そういう奴らが居んねんけどな。それはそれとして、こういうたらあれやねんけど、俺。」

毛利は自分を指さして、ニッと笑った。

「こう見えて強いねんわ。その1年らのテニスも見たことあるが、まあーーー俺やったら多分勝ちよるわ。楽勝やとは言わへんけど。」
「マジすかw相当強いぞ彼奴らw」
「いやまあ、多分やで?実際試合した事はあらへんさけえ、ほんまにそうなんかは知らん。ただまあ、俺も今まで人に負けた事あらへんし、先輩・・・ええ、今の2、3年か。とは全員やった事あるけど、全員勝ちよったしな。」
「えー!凄いじゃーん!」
「せやろ〜!・・・んでもまあ、そのせいで去年まではまあ、やかましゅう言われとってなあ。やれ部活出えの大会出えの、そこら辺は自分で決めさせてくれっちゅうか。」
「だから、それならなんで部活に・・・ああ、趣味か。趣味ならそうか。」

趣味に対してどこまで入れ込むなんて、それこそ個人の任意でしかない。
結局のところ毛利にとって、テニスは兎も角部活はその程度のものでしかないのだろう。

「で、や。その状況で、ごっつう強い1年が入ったっちゅう話やろ?もう、俺からしたら渡りに船やん。」
「わたり・・・?」
「渡りに船です。都合が良い、という意味です。」
「どの辺が都合良いのよ。」
「やって、俺が居らんくても優勝近(ちこ)なるやろ?せやからこれで部活出えのコールも小そなると思うとったらまあ・・・あの通りや。数は確かに減ったけど?あたひつこいやっちゃでほんまに。」

つまり。
サボるの大好きでありながら在籍だけはしていた毛利は、幸村達が入る前、ずっと大会に出ろ出ろと言われ続けてきたのである。
しかし、強い1年が入ってきたので、これ幸いとそれを盾に、自分はもう出なくて良いでしょ?ね?ね?という態度で過ごしていた所、どうしてもそれを流せない一部の部員の内の一人に捕まったのだ。

「つまり、幸村達を大会から逃れる言い訳にしてるとw」
「いやまあ・・・言い訳ちゅうたらそらそやねんけど。ただ、それはそれとして実際そうやさけえ?見んせーね、今年の結果。ほぼずっと3戦3勝で進んできよるやん?」
「確かに、結果だけ見ればそうかもしれませんけれど、」
「ええねんて、結果だけ見といたら。元々そういう部活やさけえ、勝ちゃあええねん、勝ちゃあ。俺かて、強制退部にならへんのんは成績のおかげもあるし?」
「・・・・・」
「いやあ、おたくさんは・・・w」

確かに、強ければある程度の自由な振舞がなあなあで見過ごされているのは知っている。それは認める。だが。

「ちょっと度が過ぎてんじゃないすかw」
「もーりのおにーちゃん、真田っちに怒られにゃいのー?そーゆーの大嫌いじゃにゃいのかなー?」
「いや、怒られてんで。怒られ・・・うん、まあ・・・最近は正直、怒られる怒られんを通り越して、ちょっと・・・」
「見放されてんの?」
「・・・・・・・まあ。」

手に負えない先輩とはこの事だなあ、と3人(紀伊梨を除く)は思う。
なまじ強いもんだから、常勝立海を掲げている部活としては、切るに切れない存在なのだろう。

「・・・さてと。痛みも引いたし、俺そろそろいぬわ。ハンカチ、おおきにな。」
「あ、はい・・・・」
「もーりのおにーちゃん、午後も出にゃいのー?」
「んー?ああ、まあ気い乗らへんさけえ。」

ほんならまた、と言って軽く手を振って、毛利はコートと逆方向へゆったりと歩き去っていった。


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