Overnight party 5

今日、一同は学校へ行く。

テニス部はテニスへ。
ビードロズは、音楽室ーーーというか、練習できる環境を求めてである。

「へっへへー♪」
「機嫌が良いな。」
「勿論じゃーん!だってさだってさ、皆でがっこー行けるんだよ!」
「確かにな。俺達、普段朝練があるし。」
「っていうか、紀伊梨は月に2、3回は一人で遅刻してるでしょw」
「ああ、そうですね。生徒会でも知られていますよ、遅刻常習犯のリストにお名前が。」
「そ、そんなのがあるんですか・・・」
「一応聞いておくが、低血圧とかそういう理由じゃったりするんか。」
「いいや?五十嵐は健康優良児だよ。」
「寝坊寝坊。シンプルに寝坊。」
「たるんどる!朝はきちんと間に合うように起きんか!」
「だってー!」
「夜更かしとかもしねえんだろい?」
「うん!紀伊梨ちゃんいつも夜の9時には眠くなっちゃう!」
「十分寝てんじゃん。」

わいわい言いながら駅へ。

平時はいつもこの駅から学校へ向かう=混むの図式が出来上がっているが、夏休み中でしかももう昼過ぎとなると、流石に断然人がまばら。

「わー!何か周り皆私服だねー!当たり前だけどー!」
「ちらほらジャージも居んな。あれどこの学校?」
「方向的には、隣駅の平井西中学である可能性が高い。次点で山尾高等学校の学生だな。」
「そーいえば、テニス部ってジャージで登校とか下校とかしないのー?」
「そういやしねえんだっけ?」
「可能ではあるししても良いが、目立つからな。」

「ええと、定期入れが・・・」
「・・・ねえ、春日。」
「はい?」
「余計なお世話を承知で言うけれど、定期入れは兎も角、そのストラップはもういい加減捨てたらどうかな?」
「なんじゃ、思い入れがあるとかそういうもんか。」
「いや、俺がフランス旅行のお土産に、皆でお揃いのを買ってきたっていうだけの品だよ。」
「せ、折角頂いたので・・・」
「ふふふっ。でももう5年前だよ?十分使って貰ったさ。」
「う、うう・・・・」
「お前さん、帰ったら引出しにでもしまいこもうとか思ってそうじゃな。」
「・・・・・・」
「図星か。」

「駅涼し。朝からいつもこうなら良いのに。」
「確かに、ここ最近早朝は冷房が効いとらんな。」
「朝は人も多いしな・・・駅なんか、半分外みたいなもんだし。」
「そういえば、あんたも日本の夏は暑いわけ。」
「暑いぜ?寧ろ日本の方が暑いと思うことも結構あるしな。」
「ほう、意外だな。あちらの方が暑いものかと思っていたが。」
「気温はほんのちょっとあっちのが高いかもしれないけどな。何せ日本は湿気が多いもんだから・・・カラッとしてないよなこっちの夏って。」
「成程。湿度が高ければ、確かに暑さをより強く感じるからな。」
(なんでそうなるのかは知んないけど、なんでって言うとまた煩そうだから黙っとこ。)

「心なしか、昼の駅は雰囲気もどことなく穏やかですね。」
「ああ、朝って殺伐としてるよねw」
「ええ、お急ぎの方も多いでしょうし。」
「そうなんだよねー、もうさ、そんな中でなんか間違いして、改札鳴らしちゃったりしちゃったらもう大変ーーーーーー」


キンコン!キンコン!


「あー!定期切れてるー!」

そんな中じゃなくて良かったね。
と皆が思った。




結局紀伊梨は定期の買い直しという事になり、他のメンバーは皆改札の向こう。
付き添いは柳。

「えっとー?此処からー、湘南まででー、えーと三か月分の・・・」
「金はあるのか?」
「うん!いっつもねー、か・・・むぐ!」
「分かった、分かったからそういう事は口に出すな。」

不用心に「鞄にいつもお母さんが入れてくれてる、と言い出しかけた紀伊梨を柳は無理やり制止した。

「へへへー!定期ってさー、何か大人っぽいよねー!」
「まあ確かに、小学生以下で定期はあまり使わないな。」
「だよねだよね!定期入れ買ってもらえた時、ちょー嬉しかったよー!」

紀伊梨にとって、定期入れというのはほぼ「立海大附属に通うパスポート」と同義であった。
その成績上、お受験に凡そ縁のない紀伊梨は、おそらく立海に行こうと思わなければ普通に地元の公立中学校に行っただろう。
そして地元の公立中学校に、定期は必要ないのだ。そんな距離に公立中学校はないから。せいぜい自転車程度。

だから定期入れを買ってもらった時ーーー引いては定期が必要になったと実感出来た時、それはもう嬉しかった。

「やなぎーは?」
「何だ?」
「てーき嬉しかった?大人みたいだったよねー!ね!」
「・・・・・・・・」

柳は珍しく口ごもった。

「・・・そうだな、嬉しかった。」
「だよね!やっぱりーーー」

「それに、悲しかった。」

「・・・・え?」
「要らなくなったんだ。一度。小学校の頃に引越しをしてーーー引っ越す前はテニススクールに通うのに必要だったから、ずっと使っていたんだがな。」

柳が今持っている木製のパスケースは、小学校の時からの付き合いである。
でも、小学校に通うのに使われていたわけではない。
隣町のテニススクールに通う為に買い与えられたものだ。

だから、神奈川に引っ越してからは要らなくなってしまった。
引き出しの奥に仕舞い込んで見なくなったのは、単純に使わなくなったから以上の理由があったと思う。

見たくなかった。
懐かしんでも戻りたいと思っても、何も思い通りにならない事は分かっていた。

「・・・・・・」
「だが、今は使うからな。」
「・・・そう?それで良いの?」

「ああ。良いんだ。」

今は、もう良い。
そう思えるようになった理由も、柳はよく分かっている。

「それで?」
「おえ?」
「買ったか?」
「あ、うん!買いました!・・・って、あ!ちょい待ちちょい待ち!お釣りお釣り!


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