Rest 2

「お茶はどこへやったかねえ、こっちは日本茶だし・・・」
「健太もやる!」
「ばあちゃん、こっちこっち。ほら健太、茶葉入れろい。」
「兄ちゃん、フォーク無いよー。」

(すっごく賑やかです・・・)

祖母が居て兄弟がもう一人居ると、こんなに賑やかなのか。
紫希は通されたリビングに座りながら(座らされながらというか)、目まぐるしく動く丸井家の4人を見ていた。

これは、丸井は一番上で大変だなあ・・・なんて思っていると、次男の準太が皿とフォークをよろよろと持ってきてくれた。

「おねーちゃん、どうぞ!」
「ど、どうもありがとうございます・・・」
「健太が!健太がやるの!」
「駄目だよ、お前落とすだろ!」
「健太がああ〜〜〜〜!やるの〜〜〜〜!」
「喧嘩しねえの。ほら、健太。」
「あい!おねえちゃんどうぞ!」
「ふふっ。有難うございます。」

以前健太は2才だと聞いた事があるが、なるほどなかなかの暴君ぶりである。
気に入らないとすぐ泣く。一瞬で機嫌を損ねる。

そのかわり、機嫌が直るのもまた一瞬。
今だって、フォークを渡す役をもらっただけで、もう泣き止んでいる。

「おねえちゃん。」
「はい?」
「抱っこ!」
「え?」
「抱っこして!」
「こらまた!わがまま言うな!」
「やーだ!」
「健太、先におやつだろい?」
「おやつ食べる!」

(丸井君、凄いです・・・・)

なんと鮮やか。
次から次にやってくる「あれやりたい!」の主張を、怒るでもなく叶えるでもなく、さらりと躱す。
良いお兄ちゃんだとはずっと思っていたけれど、実際見てみるとますますそう思う。

「あ、よっこいしょ。ええと、紫希ちゃんだったかね?」
「あ、はい!」
「すまないねえ、せわしなくって。あげちゃって、かえって悪かったかね?」
「い、いえ!悪いなんて事は、ただその、お世話になってしまうのが気になるだけで・・・」
「それこそ、そんなの良いんだよ。こっちが先にお世話になったんだし。」
「いえでも、そんな大したことはーーー」

「それに、ブンちゃんが嬉しそうだから。」

「え?」
「紫希ちゃんが来てくれて、一番喜んでるのはブンちゃんだからねえ。連れてきて正解だったよ。」

ニッ。と笑うその顔は、丸井にとってもよく似ていた。

紫希の視線はそれを受けて、おずおず・・・とキッチンで作業を続ける丸井の方へ向かう。

兄ちゃん、兄ちゃん、と言われてエプロンを引っ張られて、それでも笑顔を絶やさない丸井の様子は、いつも通りにしか見えないのだけど。

「でもまあ、孫可愛さを優先して、他所のお嬢さんの時間を奪ってることには変わりないかねえ。」
「そ、そんなこと!あの、私、その、私・・・」

人見知りの気のある紫希には、さっき知り合ったばかりの老人に向かって自己主張が結構辛い。
でも言わないと。これは絶対に誤解されたくない。

「あ、あの、私・・・」
「うん?」

「私も、丸井君に会えて嬉しい、です。」

祖母の純は目をパチクリした。

「・・・・・」
「ええと、あの、ですから、時間を取られてるなんてそんな事はなくて・・・私、丸井君と居られるなら自分の時間くらい喜ん、でっ?」

コン、と固い何かが、ごくごく軽い力で紫希の椅子の足にぶつかる。
振り向くと、丸井がトレーを両手で持って、足で椅子を小突いていた。

「なあ・・・」
「え?」
「お前さあ、人の両手が塞がってる時にそういう事言うの止めねえ?」

丸井は、恥ずかしくってしょうがない。
頼むから止めて欲しいけど、紅茶とかケーキとか運んでる時に力づくで止める事も出来ない。

いや、嬉しいよ。嬉しいけどさ。
こうも正面から会えて嬉しい、貴方と居られるなら時間なんて良いのと言われると。

「あ!ご、ごめんなさい配膳までお任せしっぱなしで、」
「ちーがーう!そうじゃねえよ、それは良いの!」
「ふっふっふ。良いんだよ紫希ちゃん、ブンちゃんに任せておけば良いのさ。」
「でも、」
「お兄ちゃん、おねちゅ!」
「えっ!ブン兄ちゃん、病気?」
「そー。そこのお姉ちゃん、兄ちゃんを病気にさせる天才だから。」
「ええええ!?」
「こらブンちゃん。」

祖母から言われて、丸井はまだちょっと赤い顔で口を尖らせた。

これは自分が悪いのか。流石に悪いのあっちだろ。

いや、悪いわけじゃないけど。
そうじゃないけど。
悪くはないから恥ずかしいんだけど。

「兄ちゃん、おやつ!」
「わかった、わかったから引っ張んなって!」

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