Key note
それから草案の〆切迄の3日間、可憐は暇さえあればこのタスクにかかりきりだった。
行き帰りの電車の中、朝練の間、授業と授業の間の休憩、言わずもがな昼休みも。

今だって。

「・・・ねー、可憐。」
「うにゃ?」
「あんた、頭揺れてるけど大丈夫?」

昼休み。
食事をしながらも、抑えても滲み出るしんどいですオーラに、友人達は思わず声をかけてしまう。

可憐がやる気なのも、嫌々取り組んでいるわけでは無い事も知ってはいるが。

「ちょっと休憩したら〜?」
「ううん・・・」
「ううんって、」
「今日草案〆切なの・・・今日出さないといけないから。」

まだ本〆切じゃないから多少は良いじゃん・・・などと甘い事は言ってられない。
なんせ相手はあの、泣く子もひれ伏す跡部景吾である。
中途半端な物を出してしまったりなんかしたら、怒られるどころか退部だってあり得る。

「だからって、あんた!」
「もおちょっと、もおちょっとなの、だから・・・後此処だけ、だから・・・」

譲ろうとしない可憐。

友人達は皆顔を見合わせて、ひっそりと溜息を吐くのだった。

「・・・ほら、じゃあせめて食いな!これあげるから!」
「可憐ちゃん、ほらこれも。部活の時に。」
「ミントガムあるよ〜。あんまりコーヒーばっかり飲んでちゃ駄目だよ〜?」
「あ、有難う・・・」

草案〆切迄、後数時間。











(あ。)

忍足が廊下を歩いていると、少し離れた所で網代が女生徒と話して居るのを見かけた。

(マネージャー志望か?・・・それっぽいなあ。)

話が終わって手を振る網代に、何度もペコペコ頭を下げる女生徒。
おそらく、マネージャー志望の旨を網代に伝えに来たのだろう。

「茉奈花ちゃん。」
「あ、侑士君。」
「マネージャー候補さんか?」
「うん。面接は部活中にやっちゃうから、又放課後ね。」
「どないや、集まりの方は。」
「うん・・・思ってた以上に捗ってる、かな。」
「へえ。そら流石やな・・・」

忍足は言葉を途切らせた。
捗っている、という発言に似合わない、沈んだ顔を網代はしていた。

「・・・どないしたん。」
「ううん、実はね。私、楽させて貰っちゃってる、みたいな感じなの。今、ね。」
「楽?」

網代は整った綺麗な顔に真面目な表情を浮かべて、忍足を見上げた。

「侑士君。可憐ちゃんの方、どうかな?」

可憐。
何故可憐の話題が出てくるのだろうか。

「どうて・・・根詰めて頑張ってるわ。」
「ふーん。やっぱり、ね。」
「どういう事や?」
「実はね?可憐ちゃん、マネージャー志望の子達の中で今、かなり有名みたいなの。ふらふらになりながら、全力投球してるでしょ?そんな可憐ちゃんの事を見かけたり、話に聞いたり。それで、我等が部長様とお近付きになるのが主目的の人達は皆避けちゃう、ってわけ。幾らなんでも、あんなに頑張れないって思う子達が引いちゃってるのよ。」
「・・・フィルターみたいになってる、いうわけやな?」
「そ。おかげで思ってたより随分面接が楽よ。でもそれってつまり・・・」

それだけ可憐が無理しているという事だ。

「それは確かに、一概にええ事やとは言われへんな。」
「うん。だから、どうかなって。」
「せやなあ・・・」
「ま、でも今日で一段落なんでしょ?」
「まあそれはせやねんけど。」
「なら、何かご褒美あげてよ。ね?私も何か持ってくからさ。」
「ご褒美なあ。」
「なんでも良いんだよ?コンビニのエクレアとか、ね?」
「茉奈花ちゃん。それ、自分の好きな物なんとちゃう?」
「あ、バレた?」

悪戯っぽく舌を出して笑う茉奈花。

絵になる子だな、と忍足は思った。





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