Local 2

網代は映画を見るのなら、なるべく早めにシネマに行っておきたい方である。
何故か。

「そっち派なんやな。」
「うん。私、この流れで鑑賞するのが凄く好きなのよね♪」

待合のコーナーで座る2人。
其処で網代がるんるんと手に持っているのはパンフレットである。
見る前にパンフを買って、目を通した直後に映画を見る。これが網代のお気に入りシネマスタイルである。

「見る前に読み込んでまうん?」
「そうよ?」
「ネタバレにならへん?」
「パンフレットにオチ迄は書いて無いし、大丈夫よ。それに、見所を書いててくれた方が、着目点が分かって見逃しがなくなるじゃない?」
「そらそうやけど。」

ページをめくると、映画の筋の「起」の部分のあらすじと共に、カットが印刷されている。
ヒロイン役の女優。ヒーロー役の俳優。
周りを取り巻く人々や、世界観の設定など。

「・・・ねえ、侑士君?参考迄に聞きたいんだけれど。」
「ん?」
「恋愛映画が好き、っていうのは知ってるけど。どうしてその中で、此れを選んだの?」

何故その疑問が頭に浮かんだのか。
それはパンフを読むに連れ、段々この「ヤマトナデシコさん北へ」という映画の傾向が掴めてきたからである。

舞台は現代日本。
主人公の女子高生、撫子は正に「大和撫子」と呼ぶに相応しい、綺麗で控えめな女の子。
だが、撫子の片思いの相手であり学校でも人気者のクラスメイト、大和は突如学校に来なくなってしまう。
大和の田舎である北海道にその秘密があるらしい、という噂を学校中が聞きつけ、大和の謎を探りそのハートを射止めるべく、皆先を争って北海道を目指す。
土産は木彫りの熊が良いという家族に送られて、撫子も又他の皆と同じ様に北へと急ぐのだった。

そういうストーリーである。

明らかにドタバタラブコメディ系で、シリアス要素は、有ってもシリアスの「シ」の字くらいしかあるまい。

「嫌いやった?」
「嫌いとかじゃないけど、侑士君はもっとこう、しっとり大人な恋愛の方が好きかなって。」
「それも好きやで。」
「でも、これも好きなのね?」
「おん。安心して見られるやん?如何にもハッピーエンドで。」
「悲恋は嫌い?」
「嫌いて言うほどでもないけど。俺が恋愛系のストーリーに求めてるんは、恋人になる2人がお互いに思い合って、それが通じ合って、良かったな・・・っちゅう流れやから。」
「へえ・・・」

正統派過ぎて逆に驚く網代。

「そんな意外?」
「そうね。複雑な愛憎模様とかの方が好きだって、勝手に思ってたから。」
「それもそれでええけどな。」
「それも?恋愛系ならなんでも好きなの?」
「ハッピーエンドなら、の間違いやな。」

恋というのは、相手に心を奪われる事。
離れていてもその人を思ってしまう。
目がその人を追ってしまう。
耳がその人を追ってしまう。

なんでもない日常の中に、その人という存在が入り込んで、膨らんで、無視出来ないようになって。
そうしてこれはまずいと思った時にはもう、失くしてしまったらどうしようもないくらい、心に大きな穴が出来そうな感覚。

そんなにそんなに、そんなに思っているのに、悲しい結末で終わるなんて。
そんなの堪らない。

でも、そうは言っても現実は仕方ない事はわかってる。
だからこそ。

「・・・せめて、お話の中でくらい悲しい結末は避けたいやんか。」

そう言う忍足の横顔に、網代は色んな物を見た。

諦念。
優しさ。
怯え。
夢。
憧れ。

そして現実。

その全てが、一瞬。
ほんの一瞬だけ、ピリ、と網代の網膜に焼き付いた。

「そう思わへん?」
「・・・ううん、思うわ。」

忍足の顔には、もうそんな複雑な表情は浮かんでいない。
網代以外の者が見ていたら、さっきの顔は見間違いだったのか、と思ったかもしれない。

でも、網代はそんな事は思わない。

だって、知ってる。
自分と同じだ。


「お待たせ致しましたー。14:30分より上映開始の、『ヤマトナデシコさん北へ』の入場を開始しまーす。」


「行こっか!」
「ええん?まだ時間あるし、パンフレット読み切れると思うで。」
「良いの。其処まで拘ってるわけじゃないし、侑士君が居るもの。」
「気使わんでええのに。」
「ふふふっ。じゃあこう言えば良いのかしら?」
「?」

「パンフレットじゃなくて、侑士君を見ていたいの!折角デートなんだから、ね?」

そう言ってウインクを飛ばすと、網代はポカンとしている忍足の左手を両手で攫った。

「ほらほら!真ん中の席取ったんだもの、早く行かないと端の人に迷惑よ?」
「・・・はいはい、お姫様。」

フッと笑って、忍足ははしゃぐ網代に手を引かれのだった。

上映迄、後15分。



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