Daily conduct 3
さて。
パトカー2台を見送って、紫希とジャンケンに勝った丸井はその場に残されたわけだが。
「さ!屋台行くか!」
「はい。あ・・・!」
じん!と足に走る痛み。
そうだった。
忘れてた。
「・・・あの、丸井君。ごめんなさい、少しやる事があるので先に行って頂ければ・・・」
「?何、トイレ?飲み物?待ってるぜ?」
「あ、違うんです。そのう、これ・・・」
「これ・・・・!?」
丸井は目をかっ開いた。
ロングのフレアスカートをたくし上げた紫希の右足は、暗くて分かりにくいがかなり派手に出血している。
「おまっ・・・!どうしたんだよこれ!」
「大した事ないんです!靴擦れです靴擦れ、私サンダルのまま走ってしまったので・・・」
「言えよ!」
「忘れてたんです!探さなきゃって必死になって、今痛み出すまで怪我してた事すら忘れてて・・・!」
言いながら紫希は、絆創膏を貼る為に一先ず靴を脱ぐ。
(うーわ・・・!)
思わず眉間に皺の寄る丸井。
絆創膏が貼られていく患部は、皮なんてとっくのとうに破れて中の肉が見えている。
「春日、鞄!」
「あ!ありが・・・」
「後、靴。」
「え?」
「手はこっち!松葉杖使った事ある?」
「あ、ありますけど、」
「オッケー。じゃあ俺が杖の代わりで、あっちのベンチまでな?」
「あの、あの、」
サッと鞄と靴を取り上げると、片足立ちになってよろめく紫希の右手を捕まえて、丸井はベンチを目指した。
座れる場所が近くにあって良かった。
「ケンケンしないでちゃんと歩けよ?体重かけて良いぜ。」
「で、でも、」
正直手を取られている事への驚きと戸惑いが先行して、体重をかけるなんてとんでもない!と思ってまうのだが、
丸井は全然気にしてない。
(気にする方がおかしいんでしょうか?友達だから、丸井君からすると当たり前なのかも・・・)
それなら、ちょっとだけ甘えても良いだろうか。
正直、ケンケンで進むと転んで二次災害が起きそうなのだ。
「・・・じゃあ、お言葉に甘えて。」
「良いよ。」
「ご迷惑おかけしてごめんなさ「んー?」
何か言いたげな声音で返事する丸井。
「・・・有難う、ございます。」
「ん!よろしい。」
それそれ。
満足である。
握った手に入る力も強まるというもの。
ラッキーな事に、ベンチは隣に外灯があって明るかった。
2人で腰を下ろして腰を下ろして改めて紫希の右足を見ると、ちょっと血が出てるねどころの話じゃない。
「はー・・・良く忘れていられたな。痛いだろい、此処まで派手にやってたら。」
「ええ、今痛いです。さっきまでどうって事なかったんですけど。」
人間、必死になると痛い事を脳が忘れるという現象が起こる。
事故に遭って骨折などしても、しばしば直後は痛くない場合があるというが、今回の紫希のこれはそういう類の話である。
ちょっと左助を探すのに必死になり過ぎた。
「・・・ジャンケンに勝ったのが丸井君で良かったです。」
「ん?」
「残ったのが紀伊梨ちゃんだったら、泣かせてしまってた所でした。お化けとか血とか、凄く苦手なので。」
「マジ?」
「ええ。得意な人もそんなに多くないと思いますけれど、紀伊梨ちゃんは普通より怖がります。」
「その割に良く転んだりしてねえ?」
「ええ・・・その為に応急セットを持ってるんですけれど、自分に使う事になるとは思ってませんでした。」
大きい絆創膏を出して、覆うように患部に貼る。
これは風呂の時間違いなく泣きをみるだろう。
「・・・よし。すみません、お待たせしました!」
「歩けるのか?痛くねえ?」
「はい、もう大丈夫です。有難うございます。」
「そっか。よし!じゃあ屋台行けるな?」
「はい!」
何時になく元気に返事する紫希に、丸井は思わず笑みが零れた。
「そんなに食べたかった?」
「はい。最近屋台で食べられてなくて、今日は苺飴食べたいってずっと思ってたんです。」
「あー、あるなそういうの。俺も今日は屋台の焼きそばすっげえ食べたくて・・・」
「君達、2人残ってるっていう真田君のお友達かな?」
無慈悲なお知らせ。
2人がおそるおそる振り向くと、そこには青い服を着た警察官が。
そう、警察官が。
「待たせちゃって悪いね!ミニパトが空いたから・・・どうかしたかい?」
「いえ・・・」
「どうもしません・・・」
ちょっとこれから屋台行って、焼きそばと苺飴買いたいので待っててくれませんかね?
とかまさか言える筈もなく。
先に後部座席に乗っておいて、と促されて、紫希と丸井は顔を見合わせた。
「・・・はあ。」
「ごめんなさい・・・!本当に、なんてお詫びしたらいいか、」
「いや、詫びを貰うんなら春日じゃなくて真田の方だろい。」
残念だけど仕方がない。
「ま、リベンジは夏祭りにって事で!そんな気にすんなよ。」
「夏祭り・・・」
そうか。
そういえば、今年の夏祭りはこの新しい友人達と行くという選択肢が増えるのだ。
「お前ら行くだろい?つっても、五十嵐が引っ張って行くだろうけど。」
「ええ、行きます。毎年の事ですから。逆にテニス部は皆、来られるんですか?部活の方は・・・」
「んー、休みは多分重ならねえな。だから部活の帰りになるけど。」
「大丈夫なんですか?お疲れじゃないですか?」
「平気平気!練習終わったら草臥れるけど、楽しい事は別腹だろい。」
楽しい事どころか、お菓子もテニスも全部全部丸井にとっては別腹である。
別腹って便利な言葉だ。
「焼きそばだけじゃなくて、どうせなら五十嵐じゃねえけどたこ焼きも食いてえな。」
「ふふ。美味しいですよね、たこ焼き。」
「おう。お好み焼きも悪くないけど。」
「私、箸巻好きです。」
「あれ美味いよな!俺も好きだぜ。」
「屋台でしか殆ど見かけませんしね。」
「プレミア感あるよな。後、普段食えねえ奴って言ったら、ベビーカステラとリンゴ飴と、」
「焼きトウモロコシとか・・・あ、綿あめも自分では作れませんね。」
「わたあめ!俺の夢だろい!」
「夢、なんですか?」
「そう!いつかさ、顔よりでけえわたあめ食べてみたいんだ!むしろ、あの作る機械が家に欲しいんだよなー。どうにかなんねえかな・・・」
「わあ・・・素敵ですね。大きいわたあめ。」
「だよな!ジャッカルなんか、そんなでかいの食べたら途中で飽きるとかいうんだぜ?」
「でも、わたあめって、大きく見えても飽きる程量はありませんよね?口の中で溶けるので。」
「そうそう!でかすぎる位がジャストサイズだろい。」
「ふふふ。良いなあ、なんだか今から楽しみです。」
にこにこ笑う紫希。
(・・・俺も。)
楽しみだ。今から。
「春日。」
「はい?」
「絶対リベンジしようぜ?」
パチン、とウインクを一つ飛ばされて、紫希はますます嬉しくなった。
「・・・はい!」
楽しみが。約束が。2人しか知らない事が。
又増える。
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