Set conditions
桃崎は結構派手に怪我してしまったし、手当無しで帰ると言うのは辛い。
でも、もう遅いし可憐を1人にして返せない。
出た結論として、3人はそのまま揃って忍足家に行く事になった。
今日は父親が居るから、応急手当して貰おう。そして車を出して貰って、可憐の家と駅に行けば良い。
「ほんまにごめんな忍足君、何から何まで・・・」
「ええて、気にしやんとき。」
「桐生さんも、こんなに遅うまで。」
「大丈夫だよっ!寧ろ、私も乗っけて貰う事になっちゃって・・・」
「謙也君にも迷惑・・・まあ、謙也君はええか?」
「ケンヤはええよ。しこたま迷惑かけたり。」
「えええっ!?」
身内とはいえ扱いが雑じゃないだろうか。
可憐は会った事も無い謙也をちょっと不憫に思った。
「あ、此処やで。俺の家。」
「へえ。ええとこ住んでんなあ。」
(え、ええとこのレベルかなこれ・・・!?)
財閥だとかなんだとかの人と比べると霞むというだけの話であって、忍足家は一般的に見ればそこそこ以上の金持ちである。
そこらの高級住宅が色あせて見えるでかい家に、可憐は恐れおののいた。
「ただいま・・・おかんと姉貴が居らへん。」
「出かけてるの?」
「かもな。まあええわ、好都合や。ちょっと上がって待っといて。親父呼んでくるわ。」
何故に好都合なのかと言われると、無論可憐が居るからである。
見つかったら煩い。絶対煩い。
まして、桃崎には彼女のようなものだと言ってしまってる。
「あだだだだだ・・・」
「ああっ!桃崎君大丈夫っ!?」
「大丈夫大丈夫。消毒液沁みそうやわあ。」
そう言って困ったように微笑む桃崎は、やはり性根は穏やかな人間なのだろうと思う。
「・・・ねえ、桃崎君。」
「うん?」
「あの・・・聞いても良いかな。」
何を。
と言わなくても、話なんて分かる。
「・・・なんで俺がこんな事してるか?」
「・・・うん。」
桃崎はうーん、と言うと苦笑して溜息を吐いた。
「ごめん、言われへんわ。」
「・・・そっか。」
「別に、言うたからどうっちゅうわけでもないんやけどな。何かこう・・・」
「?」
「めちゃめちゃ格好悪い話やねん。ほんまに。」
そう言う桃崎の語尾は微かに震えている。
「ほんまに・・・ほんまに恰好悪うて、恰好悪うて・・・情けのうてしゃあないねん、俺・・・」
誰にも言えない。
こんな情けなくてどうにもならない事、誰にも言えない。
必死に我慢していた涙が、血の滲む膝小僧にぽたりと落ちた。
「エントランスに居るのか?」
「おん。2人共、待たせて・・・」
「そんな事ないっ!」
可憐の声は、忍足家のエントランスに響いた。
「そんな事ないよっ!こんなに頑張ってるのに桃崎君が恰好悪いなんて、そんなのおかしいよ!」
「桐生さん・・・」
「桃崎君は情けなくない!恰好悪くもないよ!例え跡部君にだって、そんな事言わせないからっ!」
事情は知らない。
でも、桃崎がどんなに必死に頑張ったかは、さっきの試合での奮闘ぶりを見れば分かる。
拳を握って力いっぱい励ます可憐に、桃崎は又泣きそうになった。
「・・・って、あ!お、忍足君のお父さんっ!?」
「え?」
「や。こんばんは。初めまして。」
「ご、ごめんなさい!大声出して!」
「いやあの俺が、」
「ええからええから。それよか、手当の方だけさっさとやろか。こっちおいで、桃崎君。」
「あ、はい。」
「派手にやったなあ、痛かったやろ?」
「はい・・・」
「ただ、残念ながら痛いんはこっからやで。」
「い”い”い”っ!?お、お手柔らかに・・・」
忍足の父、瑛士は桃崎を伴って奥の部屋へ向かった。
「・・・何の話しとったん?」
「あ、さっきのっ?あのう・・・桃崎君は、結局何が目的なのかな、って話を・・・」
「言うた?」
「ううん・・・言っても良いんだけど、言えないって。情けない話だから、って・・・」
情けなくなんてないのに。
自らに向かって格好悪いと言って涙する桃崎の姿は、可憐の胸も締め付ける。
「・・・テニスコートで。」
「・・・?」
「彼奴、可憐ちゃんの事付き合うとるんかって聞いてきたやろ。」
「ああっ!そう、それ一体なんで・・・」
「変な目しとったからついな。」
「・・・変な目?」
「おん。なんやめっちゃ辛そうな目でこっちの事見とってん、あの時。」
彼女連れかよ、舐めやがって。良いご身分だな。とか、そういう軽いニュアンスの目つきではなかった。
もっと切実で、切なげな色が浮かんだのを、忍足は見逃さなかった。
「やから、もっとなんか分かるかもと思うて彼女やて言うてもうてんけど。」
「そういう事だったんだ・・・吃驚したよ。」
「堪忍な。」
「ううん、良いよっ。嫌とかそういうわけじゃなかったからっ。」
「・・・・・・」
「忍足君っ?」
「・・・あんまりそういう事は言わん方がええで?」
「へっ?」
「いや、他意は無いて分かってるし、そもそも俺が悪いんやけどな。そういう事言うてると、その気になる奴も居るいうか、誤解を招く言うか。」
「えっ!?あ、そ、そうっ!?そうかなっ!?そうかもっ!気をつけますっ!」
確かに冷静に考えると、貴方の恋人の立場になるのは別に嫌ではありませんというのはなかなか大胆な発言と取れなくもない。
意識させられるとなんだか急速に恥ずかしくなって、可憐はパタパタと手で熱くなった顔を仰いだ。
「は、話を戻すけどっ!今の事からすると、桃崎君の事情って・・・」
「せやなあ。恋愛絡みの何がしかっちゅうんは、今の所一番有力且つ無理の無い話やわ。」
「・・・桃崎君の好きな人が、跡部君を好き。とかかな?」
「大凡そんな所やろうな。そら、あの跡部にテニスで勝てるて言うたら、アピールとしては申し分あらへんけど・・・」
敢えて相手の土俵に立って勝つ。
確かにアピールとしては超強力であろうが、そうだとしてももうちょっと出来そうな事からすれば良いのにと思わざるを得ない。今日の様子を見ていると。
「まあ、推測でしかあらへんけどな。もしかしたら全然別な事情があるのかも分からへんから、なんとも言うてやれへんけど。」
「うん・・・でも、そうだとしたら勿体無いなあ。」
「勿体無い?」
「だって、桃崎君はあんなに頑張れる人なんだよっ。わざわざテニスを選ばなくっても、他の事なら跡部君に勝てるかもしれないのに。」
「それも尤もやな。ただ、相手の1番得意な事やないと、アピールにならへんて思うてる可能性もあるといえばあるけど。」
「ううん・・・」
「・・・もう一つ気になるんは。」
「?」
「あの焦りようやな。」
「あ・・・そうだねっ。かなり焦ってるよねっ。」
なんせ、テニスを初めて2週間で跡部に立ち向かおうという気の早さ。あのせっかちな従兄弟をして度が過ぎていると思わせるこの焦りぶり。
「でも、それはしょうがないんじゃないかなっ?うかうかしてると、跡部君に取られちゃうって思ってるとしたら・・・」
「勿論、それもあるやろけど。でもそれにしても焦り過ぎちゃうかと思うねんけど。」
勿論、恋愛に関しては行動が早いに越した事はない。
それはそうだが、それを差し引いたとしても桃崎の焦りようはちょっと異常ではないだろうか。
そう、まるで。
締切か期日が最初から決まっているかのような。
「・・・どっちにしろ、ほんまの事は聞かな分からへんけどな。」
「そうだねっ。いつか、話して貰えると良いけど・・・」
「お待たせや、終わったで。」
瑛士が扉を開けて、部屋の奥から両膝に包帯を巻かれた桃崎が出てきた。
「有難うございます。」
「ええて。車出して来るから、待っとき。」
「桃崎君、大丈夫っ?大阪まで帰れるっ?」
「平気や、平気!」
「風呂とか気つけや。ちゃんとガードしとかな、却って雑菌の元やで。」
「せやな!汗にも気つけとかんと。」
「「汗?」」
「そら勿論!明日からも頑張ってテニスして、跡部に勝つんやさかい!」
ニッ!と笑う桃崎に、可憐と忍足は苦笑いしながら顔を見合わせるのだった。
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