Unearned win 1
トーナメント戦というのは、負けたらお終いである。
何回か戦って、総合評価で・・・という判断はされない。
今。目の前の試合に勝つか負けるか、それだけ。
レギュラー決めの時みたく、3回まで負けても良いよとはならないのだ。
その恐怖が今。
ビードロズ達にはさっぱり分からなかった。
「ゲームセットアンドマッチ!立海!6-0!よってD2の試合は、立海大附属側の勝利とします!」
「ゲームセットアンドマッチ!立海!6-0!よってD1の試合は、立海大附属側の勝利とします!」
「えええー・・・」
「おー!凄いぞー!」
「や、やった!勝ちましたね!」
「なんでだろ、勝った!って気がイマイチしないのは。」
余りにもあっさりと2連勝してしまって、やったー!勝ったぞー!という歓喜よりも、え?勝ったの?もう終わりなの?という戸惑いの方が大きくなってしまう。
レギュラー決めの時は、あの3人は別格としても立海の部員同士で試合をしていたから、まだ近いレベルの者同士、試合の体を成していたがこれは。
「えげつねえなーw」
「あっちお通夜通り越してポカンだもんね。」
「後1回勝てばこっちの勝ちっしょ?」
「ええ。」
次。
S3。
柳だ。
「勝つわw」
「勝つわね。」
「ええ、きっと。」
「勝つって信じてるけど、応援はしちゃうよー!やなぎー!ファイトー!」
「・・・始め!」
相手の、瀬良中の選手からのサーブ。
トスを上げ、ラケットを振りおろし、ボールが相手のコートへ。
そしてレシーバーの柳がラケットを振り、リターンを相手のコートへ・・・・
「・・・え?」
「え・・・」
「おお。」
「およ?」
今のは何?
と思うビードロズ達だが、審判とてもそれは同じだった。
「フ・・・15-0!」
「柳は仕上がっているようだな。」
「ふふ・・・そうだね。」
幸村はコートに立つ柳を見て、優しく目を細めた。
『技が無い?』
『ああ。自分でも、子供じみた考えだと分かってはいるから、聞き流して欲しいんだが。』
リフレインする。
先日部活の時に、柳が零した事。
『例えば、未完成ではあるが真田が完成に向けて努力している"風林火山"のような・・・そういう、所謂決めの一手となる様な物が、俺には無い。』
『・・・データは柳にとって、それには該当しないのかい?』
『しない。データは日々移り変わり行くものだし、処理するのは俺であっても、元となるデータは相手の物だ。相手に由来したものしか武器が無いと言うのは、少々心もとない。』
『・・・・・・』
「ゲーム柳!2-0!」
「はあ・・・はあ・・・どういう事だ・・・!?」
両膝に手を付いて、屈みこむ瀬良中側。
どういう事だ、は観客の多くも思っている事である。
「ねーねー!どーして相手の人返さないのー!?」
「いや、あれは返さないんじゃないんだってw」
「返せないんでしょ。」
「でも、何故あんな事に・・・」
『幸村、お前にも技は無い。だが、お前にはそれを補ってあまりある地力がある。』
『・・・・・・』
『俺にはそれも無い。それが・・・少し不安なんだ。』
『・・・そうだね。柳の言う事は当たっていると思うよ。』
『・・・やはり、そうか。』
『ああ。人間は成長するからそれに伴ってデータは上書きされていくものだし、強い相手程情報は取り辛い。データテニスは強力な武器ではあるけれど、他に選択肢が無くそれに依存しきりでは、いずれ行き詰まるだろう。技が見つからなくて不安と言うけれど、俺はそれは妥当な不安だと思うよ。誰しも得意な決め手は持っておきたい物だし、実際それは勝利を納める上でとても有用だ。』
『・・・・・』
『でもね。』
『・・・・?』
(くそ!何故だ、どうしてだ!)
瀬良中の選手は、必死に体勢を立て直そうとしていた。
しかし。
自分のペースを掴まなければ、何時ものテニスをしなければと思えば思う程。
(此処だ!次で左から返せれば、俺の得意なコースで・・・・!?)
自分の得意な姿勢から返そうとして。
そうして左にステップを踏んだと同時に、待ち構えていたように綺麗に右にボールが入る。
「ゲーム立海!4-0!」
「あそこまで行くと、逆をついていると表現するよりも・・・」
「相手がボールを避けてる様に見える。わざとやってないかって感じ。」
「ねー!あれってどーやってるのー?向こうの人が動いたら、空いた所に打ってるって事ー?」
「良く見ろしw柳が打つ方が相手が動くよりちょっとだけ早いからw」
ベンチでも同じ会話が繰り広げられていた。
「つまり、どういう事だ・・・?」
「あれは、柳の罠という事です。」
「柳の罠?」
「如何にも!柳はデータテニスを得意としています。相手の得意なコースや苦手なコース、クセや犯しやすいミス、好んでいる動きなどを網羅しています。」
「そして、態と相手の得意な流れに持ち込むんです。そうする事で柳には相手の次の動きが予測出来、コートのどこが空くかを掴めます。そうすれば、後は其処に打つだけ、というわけです。」
「成程・・・しかし、理屈は分かるが。」
「そう上手くいくかあ?」
「「簡単ではありません。」」
幸村と真田は揃って断言した。
「あれは、柳のデータに対する妥協なき姿勢。優れた頭脳と真摯な努力の表れです!」
「それに加えて、相手の得意な流れをラリーの中で意図的に作る力。空いている所に的確に打ち込む技術。それら全て、柳の・・・柳だから持ちうる力です。」
近くで見てきた。
3強と括られて、お互いの力を見せ合って。
レギュラーに選ばれる前も、選ばれてからも、柳がどんな風に努力してきたか、2人は知っていた。
だから。
『無理して技を作ろうとしたって、柳が欲しがっている本当の「決め技」足り得るショットにはならないよ。だから、あまりその事ばかり注視するのは良くない。』
『しかし、もう夏が始まってしまう、』
『柳。』
『俺はレギュラーだ。しかし、未だに何の取っ掛かりも無い状態で、こんな事では、』
『柳、落ち着いて。落ち着くんだ、大丈夫。俺の目を見て、深呼吸してご覧。』
『幸村・・・』
『柳。俺や弦一郎は、柳に対して「技を磨いた方が」だの、「得意なショットを見つけろ」だのと言った事は無いよね?それは何故か分かるかい?』
『・・・それは、言われずとも当然考えねばならない事であって・・・』
『そうだね、それは確かにそうだよ。でもそれは、あまり大きな要因じゃない。』
『なら・・・急ごしらえでそんな事を考えても、実践で使い物にならないから、か?』
『ふふ。ぶー、はずれ。それもある意味では正解だけど、やっぱり大きな原因じゃない。』
『では、何故・・・』
『お前を信頼しているからだ。』
『真田・・・?』
「40-0!立海柳、マッチポイント!」
(・・・マッチポイントか。)
審判のコールを聞きながら相手のサーブを待つ柳の背に、汗が伝う。
今も怖い。
負けてはいけない公式戦。自分が負けても、後ろの2人が勝ってくれる、なんて思えない。
皆きっと勝つから。だから自分も勝ちたいのだ。
今の自分。今の武器で。
(・・・くる!)
駆けだす柳。
『柳。俺も幸村も、お前が共にこのテニス部に居てくれて嬉しく思っている。頼れる男であると考えているし、俺達が成しきれない所を補ってくれる男であるとも。』
『・・・・・』
『過大評価は禁物だよ。でも、データマンなら過小評価も良くない事が分かるだろう?』
『過小、評価・・・』
『俺達はお前に、決め手の技に気を取られてデータを疎かに扱ったりなど、そんな事は望んでいない。』
『焦ってしまうと思うよ。でも、此処で焦る事の出来る柳だからこそ、俺達は焦って欲しくないんだ。』
『・・・・』
『急がないで、柳。テニス部の為にも、今の柳の持ち味を殺しちゃいけない。いつか、柳の納得のいく武器が出来るまで、データを使って戦えば良い。柳なら、それが出来るよ。』
『・・・そんな事が可能だと、思っているのか。』
『ふふふっ。言ったじゃあないか、柳。』
ーーーお前を、信じているって。
「・・・はっ!」
ドッ!と音がして、柳のスマッシュががら空きの左サイドに綺麗に入った。
「ゲームセットアンドマッチ!立海!6-0!よってこの試合、立海大附属の勝利とします!」
「「「「やったー!」」」」
ビードロズは周りが吃驚するくらいの声を上げた。
他の観客たちは、流石王者立海。危なげなく勝つな。なんだあの1年は、なんて考えているが、正直4人にとっては知った事じゃない。
あそこに居るのは柳蓮二。
データ処理が得意な自分達の友達。
大事な大事な友達の、公式試合初勝利である。
「凄い凄い!凄いぞやなぎー!」
「良いもの見たわ。」
「怖いもののような気もするけどw」
「おめでとうございます、柳君!」
「柳!お疲れ!」
「良くやったな!」
「はい、有難うございます・・・」
ベンチに戻る柳に、上級生からかけられるかけられるねぎらいの声。
そしてその向こうに。
「良い試合だった。」
「お疲れ様、柳。」
「・・・有難う。」
ああ、やっぱり。
貴方達に認められるのが一番嬉しい。
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