Why is that 1
「お疲れ!」
「おー。」
ベンチでは、跡部が出る準備を早くも終えている。
「・・・勝ったよ。」
「アーン?当然だろ、俺様は出来ねえ事は指示しねえよ。」
「・・・はははっ!」
さあ。
シングルス1が始まる。
「き、緊張してきちゃった・・・!」
「まあ、負ける事は無さそーだけどよ。」
「跡部の試合・・・!」
(普段からこれだけちゃんと起きてりゃ良いのに・・・)
「相手の土方いうやつ、データある?」
「ふふん、お任せあれ♪」
網代がノートをひらん、と振って見せた。
「えーと、土方乃亜君ね。彼は小さい頃からテニスを習っていたわ。大会で優勝した事もあるんだけれど、去年の冬に急に岐阜からの転校が決まった所為で、東京で彼を知っている人はあまり居ないわね。」
「転校してきたんだねっ。」
「岐阜か、遠いなー。・・・おい、ジロー聞いてろよ!」
「え?何が?」
「はあ・・・まあそれは兎も角、流石に他県のスクールの事までは殆ど分かんねえからな。情報が少なくても無理ねえか。」
「それにあの性格やったら、ある程度優秀でも埋もれてまいそうやしな。」
「そうなの。彼はテニスが好きだけど、それだけなのよ。優勝したいとか、そういう意識に乏しい傾向があるわ。宇津木西を選んだのも、家から近かったのが理由らしくて、名門からのスカウトも蹴ったんですって。・・・なあに、侑士君?」
忍足は、隣で訥々と解説する網代を見ていた。
「いや、流石やなあと思うて。」
「うふふっ♪それほどでも?」
「ううんっ!凄いよ茉奈花ちゃん!」
「あら、そう?有難う。」
(本当に凄い・・・茉奈花ちゃんは偉いなあ。)
自分も頑張らないと。いや、頑張るだけでは駄目だ、結果を出していかないと。
可憐が意気込むとほぼ同時に、審判の声が響いた。
「それではこれより、宇津木西対氷帝学園、シングルス1の対決を始めます!」
「あ、あの・・・よろしく・・・お願いします・・・・」
「ああ。」
普段だったら煽りの1つや2つ言う所だが、土方には挑発する意味があまりないからしなくてよろしい、と網代から聞いていた。
(・・・どうやら、網代の調査は本当だったらしいな。)
テニスが好き。
好き故に上達するが、反面大人しすぎる位大人しく、上昇志向に乏しい。
だが、跡部は此処にこそ土方の恐ろしいポイントがあると思っていた。
「勝つのは氷帝!勝つのは氷帝!」
「負けるの宇津木!負けるの宇津木!」
(彼奴のあの目。コールをものともしてねえ。)
このアウェイ感の中で、土方はプレッシャーを通常の試合と同じ程度にしか感じていない。
勝っても良い。負けても良い。相手が強くても弱くてもどうでも良い。
ただ、テニスが出来れば良い。
土方の直向な瞳はそう物語っている。
「・・・フン。」
跡部は微笑んだ。
面白い。嫌いではないぞ、そういうの。
「・・・はあっ!」
跡部のサーブ。
美しく、恐ろしいほど早く、土方の元に真っ直ぐ向かう。
「やっ!」
(やはり返すか。)
追いつく土方。
そうこなくては。
「そら!」
「ふっ!」
「ハッ!」
「えい!」
「・・・やるな。」
「うん・・・」
跡部は本気を出していない。
本気というか、今はまだ少し相手の様子を見る為に自分を調節している。
対する土方は、跡部と比べて結構必死になっている。がっちり集中していないと抜かれてしまう事を分かっているのだ。
だが、そうだとしてもあの跡部とラリーが続いていると言うのはなかなかと言わざるを得ない。
(・・・成程、大体分かってきた。)
分かってきた上で、思う事。
(此処だ!)
跡部はジャンプした。
土方は後ろに下がった。スマッシュが来ると思っているのだろう。
それは正解だ。だが。
「甘いんだよ!」
「・・・っあ!?」
跡部のスマッシュに、土方のラケットがあえなく弾かれた。
(しまった、ラケットが!このままじゃ・・・!)
もう遅い。
跡部はにやりと笑って、二度目の跳躍をもう行っていた。
「俺様の美技に酔いな!」
呆然とする土方の2m程横を、跡部のスマッシュが鮮やかに通った。
「15-0!」
わあ!と上がる氷帝勢の歓声。
その中で、土方はラケットを拾おうと座り込んだ状態のまま跡部を見上げていた。
「・・・・あの。」
「アーン?」
「・・・今のは、その・・・わざと、やったのか?つまり、その・・・僕がラケットを落とす事まで・・・計算してやったのか、って・・・事だけど。」
「当然だろ。」
「・・・!」
土方は衝撃を受けた。
対人関係の不得手な土方にとって、ネットが必ず間に入るテニスは、好きなスポーツであると同時に、安心出来るスポーツでもあった。
相手は決してネットのこちら側には来ない。そう思っていた。
だが、今。
(現実に、ネットを越えてきたわけではないけれど・・・)
でも、確かに感じた。
自分からラケットを取り上げ、返せない状態にしてポイントを取った。跡部の力を、存在を、ハッキリと。
「怖いか。」
「え?」
「俺の相手が怖いか。又同じ事をされたらどうしよう、と思ってるか?アーン?」
(怖い・・・)
そりゃあ普通はそう感じるだろう。
ラケットを弾き飛ばされるなんて、普通にプレイしていたら1試合の間にそう何度も起こる事じゃない。
でも。
「・・・怖くは、ないよ・・・」
「・・・・」
「今は・・・どうやったら返せるかって、それを・・・ずっと、考えて、それで・・・それから・・・それで・・・」
それで。それで。
「悔しいんだな。」
土方はバッと顔を上げた。
跡部は満足そうに微笑んだ。
「思う存分打って来い、土方。遠慮はいらねえ。」
そう言うと、背を向けてサーブ位置に跡部は戻る。
思った通りだ。
土方には今迄、強くて大人しいが故に、テニスが対人競技だと言う意識が欠けていたのだ。
あの性格ではダブルスなども組んで来なかっただろう。
だが、其処を焚き付けないと土方は伸びない。伸びなければ面白くない。
破滅へのロンドを放った末に、「怖い」と「悔しい」のどちらが上回るかは賭けだったが。
(・・・良い目になったじゃねえか。)
サーブ位置で振り返った土方は、光の宿った目をしている。
それだ。その眼が見たかった。勝負はこうでないとやりがいも無い。
「まあ、勝つのは俺様だがな。」
「・・・ま、ま、負けないよ!」
「ああ、火ぃ点いてもうたわ。」
「クソクソ、跡部の奴!敵に塩送ってどーすんだよ!」
「まあ良いじゃねえか。俺はああいうの、嫌いじゃないぜ!」
「跡部かっこE〜!」
「ふふふっ。全く困った部長様、ね?」
「あはは!でも、跡部君らしいよねっ!」
皆困った、とかなんとか言いながら嬉しいのだ。
良かった。王が楽しそうで何より。
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