Solicitation:1st game 4

あ。

丸井の呟きは、あのパーパラッパッパー♪の音にかき消された。

「アタックチャンスだwブンブン君2回目だぞ、運強いなw」
「んー・・・」

柳がアタックチャンスで2枚落とし、両チームが並んだ。
その後まだまだ残るパネルを、柳生、桑原、紫希、仁王が落としていき、丸井に回ってきた時だった。

この時点で残りは5枚。
2、3、4、6、7が残っていた。
そして7を抜いたらアタックチャンスと相成ったわけだが。

(順番がズレるぞ・・・)

計算が狂った。
一概にリードできたラッキー、とは言えない。

「構いません、丸井君。」
「柳生?」
「どの道、此方は・・・はっきり言いますが、テニス部員でない私と春日さんが居る時点で、ジリ貧なのです。」
「まあそうだけどよ。」

紫希は勿論だが、柳生だって別段テニスが得意と言うわけではない。
持ち前の運動神経とセンスの良さでどうにか凌いでいるだけで、順調に今まで落とせているから、これから先も順調かと言われると、そんな自信は無い。

「ですから、これは素直にラッキーと考えましょう。我々はパネル1枚分得している、と。」
「でも・・・」

丸井は言いかけた。

でも止めた。
柳生は楽しそうに笑っていたから。

「・・・オッケー!リーダーがそう言うなら、異論はないだろい。」
「有難う御座います。ゲームの方も、しっかりお願いしますよ?」
「おう!任せとけ!」

「ほう・・・」
「うん、とっても良いね。」
「良い?というと、アタックチャンスの事ですか?」
「いや、柳生の事だ。」
「?」
「ふふ。直に分かるよ。」

「ああ・・・」
「何よ仁王。温泉入ったみたいな声出して。」
「割と近い心境じゃ。」
「は?」

「ねーねー桑ちゃん。どーしてブンブン嬉しくなさそーなの?チャンスだよ?」
「いや、確かにチャンスだけど、順番がな?」
「順番?」
「そう、順番だ。此処で丸井がパネルを落とした事により、誰が何枚目のパネルを担当するかにズレが生じる。」
「ほえー・・・」
「・・・分かってるか?」
「分かんない!」

何の恥ずかしげもなく答える紀伊梨だが、柳生は間違いなく分かっているだろう。
分かっていてああ言ったのだ。

(ちゃんとやらねえとな)

「良いかいブンブン君w」
「おう!なんでもきやがれ。」

やってやろうじゃないか、と気合十二分の丸井だったが。

【異性1人に向かって口説いて告白する】

「・・・おお。」

「こ、こんなのもあるんですね・・・」
「寧ろ棗の性格上は、本領発揮といった所だろうね。」
「・・・・・・」
「む?柳生、どうかしたのか?」
「ええ。あの表記はおかしいです。」
「おかしいだと?」
「良く見てご覧弦一郎。何処にも「任意」と書いていないだろう?」

今迄こういう、人を選ぶ系の物はチーム指定はあっても人物指定は無かった。
必ずどこかに「任意」と言う単語が入っていたが、今回はそれがない。

「じ、じゃあ今回選ばれるのは・・・」
「ええ。丸井君に決定権が無い、とみて良いでしょう。」

PCを操る棗は、くらーい顔である。

「おい、なんだよその顔。」
「ほんまごめん・・・」
「は?」
「まさかこうなるとは思ってなくて・・・本当にごめんブンブン君・・・」

【ただし、相手は相手チームのリーダーが選んだ者とする】

つまりこの場合。
相手チームのリーダー・・・仁王が女子を選ぶという事であるが、此処で誰を選ぶかなんてそんなの、決まりきっているではないか。

「黒崎じゃ。」

さよなら現世。

「・・・って、おい!冗談じゃねえぞ、死ぬならお前と兄貴の黒崎とで2人で勝手に死んでろい!」
「何を言うか、どうせ転ぶんなら人の足引っ張りながら転んだ方がお得ぜよ。」
「お前・・・!」

「棗君・・・」
「なっちんひどーい!」
「ちゃうねん・・・も少し和気藹々とした空気で出て来ると思うててん・・・」

別に今も和気藹々としてはいるのだが、タイミングが悪い。
本日既に一度、幸村はご機嫌を損ねているのである。

ようやっと機嫌が戻ってきたと思えばこれ。もうどうにもならない。

「おいこら、仁王。」
「黒崎、残念だが俺達はリーダーに逆らえない。」
「む・・・」
「ま、まあ、お前は大人しく、ブン太のセリフを聞いてるだけで良いんだ。な?」
「確かに、何もしないで良いって言うのは楽で良いけどさ。」

千百合は面倒だから当てられたくないなとは思っているが、何もしないで良いのなら其処まで嫌ではない。

というか、幸村以外の人に口説かれたところでなんとも思わない。
実際に好意があるわけでも無い、ゲームの中での成り行きでなんて尚更である。
嫌でもなければ嬉しくも無い。
心の底からどうでも良い。何も感じやしない。

そう、どうでも良いのだ。
千百合は。

構うのは周りである。

「あ、あ、あの、幸村君、」
「うん?」
「あの、丸井君は不可抗力でこれはその、クリアしないとアタックチャンスが、ごめんなさい私が下手だから、」
「落ち着いて下さい春日さん。あのですね幸村君、」
「幸村。春日の言う通り、これは不可抗力だ。お前の気持も分かるが、どうしようもない。勝つ為だ。」

皆、丸井を仁王の二の舞にさせまいと必死である。まだ最初のゲームなのにこんな、半ばとばっちりの形で怪我人を増やしたくない。

「ふふっ。もしかして皆、俺が丸井に怒ると思ってるかい?」
「・・・ああ。」
「嫌だな、怒らないよ。確かに愉快ではないけど、丸井が進んでやってるわけじゃない事は俺も分かってるしね。」
「本当か?」
「勿論さ。」

(((助かった・・・!)))

3人のドッキンドッキンと嫌な音を立てる心臓が、それを聞いて静まりかけた。

「・・・ただ。」

ただ。
ただ、だと。
ただ、なんだ。


「仁王には、後で少し言い聞かせておかないといけないかな。」


(【悲報】ゲームの主賓、死ぬ)

現実逃避気味に心の中で見出しを考える棗は、おふざけ半分でこんなゲームを入れた事を後悔した。

「どうぞ。いつでも良いわよ。」
「おう。でもちょっと待ってな。」

幾ら許されているとはいえ、それはあくまで現時点での話だ。
不用意な事を言うと自分も危ない。失敗は許されない。

「おい、黒崎兄貴。」
「はい・・・」
「これって、口説いて告白だよな?口説くのと告白と、両方するんだろい?」
「・・・・・・・うん。」

もうどっちか片っぽで良いよ、と言いかけたが、それをするとAチームに不利になる。
公平を期すためにもそれは出来ない。
まあ公平と人命とどっちが大事なんだよ、と言われると困るけど。

「言った後、黒崎のリアクションに寄って未クリアとかの場合は?」
「そういうのは無い・・・ブンブン君は言えば良いだけで、千百合の反応はノーカン・・・」
「おし。」

これで大分楽になる。
千百合のお眼鏡に叶う告白しろとか言われたら詰んでた。

(後は・・・告白は好きだって言えば良いけど、口説くのが問題だな。口説く・・・口説く?口説くってどうやって?)

生まれてこの方人の事口説いた事なんて無い。
どう言えば良いんだ。可愛いって言えば良いのか。

「なんかチョー悩んでるっぽいねー。」
「命かかってるからな・・・」
「やっぱり口説く、のくだりで詰まってるんかのう。」
「まあ、そうだろうな。口説き文句など、告白の言葉以上に千差万別だ。」
「せん「千差万別ってなーに、とお前は言うが、後にしろ。」

「ま、丸井君大丈夫でしょうか・・・」
「長考は仕方がない。失敗は出来ぬのだ。」
「ええ。単に褒めただけでは、口説いた事にならない、とみなされてしまいかねません。言い直しは避けたいでしょう。」
「ふふっ。丸井はなんて言うのかな?」

笑わないで、怖い。

「言わないの?」
「考え中。」
「そんな考えなくて良くない?」
「思いつかねえんだよ、口説き文句。」
「はあ?」
「あ?」

何を言ってるんだろうか、此奴は。

「いや、それは無理あるわよ。」
「何が?」
「思いつかないわけないじゃん。」
「思いつかねえって。」
「嘘でしょ。」

今日だけでもかなり、紫希にあれやこれや言ってた気がするのだが。
あれ全部丸井の中では、口説いてるに入らないのか。

「・・・なんかもう良いや。なんでも良いからサッサとやらない?」
「まあそうだな。悩んでも出てこねえもんはこねえしな。おし、やるか!」

ゴホン、と丸井は一つ咳払いをした。

そして千百合を見る。

真っ直ぐ。
真っ直ぐ。
がっちり目を合わせて見つめる。

(・・・へえ。)

全く逸れない紫の瞳に、思わず千百合も感心して見つめ返してしまっていると、徐に目元がふいっと緩んだ。

「お前可愛いな。どお?俺と付き合わねえ?」

そう言って、何時もやってるみたく、パチンとウインクを飛ばされた。

(・・・はーん)

「成る程ね。」
「成る程?」
「ちょっと分かった。」
「何がだよ?」

クラスでも丸井は結構、丸井君てかっこいいよねかっこいいよね、と言われているが。
何処がそんなに良いのだろうかと思っていたが、多分これだ。
この軽くて、そのくせ余裕のある感じをかっこいいと評する女子が多いのだろう。

ただ、老婆心ながら忠告するとしたら。

「前半忘れないようにね。」
「前半?」
「無言部分。」

あの、目を捉えてきた部分。
紫希はああいう、意思の強い瞳に弱いと思う。

「無言?ってどこだよ?」
「は?」

聞き返されたでござる。

「いや、ちょっと無言だったでしょ、言い出す前。」
「だからいつの話だよそれは。」
「・・・・・」
「?」

無意識か。
あのこっちを見つめてきたくだりは、完全に無意識か。

「あんたえげつない奴ね。」
「は!?」

無意識であんな風にひたと見つめられたら、そりゃあクラっとくる子も多かろう。
ただ、クラっときてしまった女子はライバルの数が右肩上がりで可哀想だ。

「ひっどー。かわいそー。同情するわ、割とマジで。」
「何がだよ。つか、結局良いのか?駄目?」
「良いから駄目。」
「どっちだ。」

(よ、良かった・・・)
(どうやら、切り抜けたな・・・)

あっぶねえ、セフセフ。
紫希と真田は思わず胸を撫で下ろした。

「なかなかストレートだね。ふふっ、丸井らしいや。」
「・・・お怒りではなさそうですね。」
「さっきも言ったけど怒らないよ。丸井には。」

丸井にはね、丸井には。
他の人は知らない。

「それに、自分の彼女が可愛いって言われてるのはちょっと良い気分だしね。」
「ああ、そのお気持ちは分かります。恋人が口説かれるのは少々面白くありませんが・・・」
「ね。褒められるのは悪くないよね。」

「ええのう、丸井は。命拾い出来て。」
「いや、今のはブン太に関係なく完全に自業自得だからな!?」
「あ!じごーじとくは知ってるお!自分で自分を苛める事だって、ゆっきーが言ってた!」
「しかし、実際幸村の機嫌を損ねているのは疑いようが無い。俺達も出来る限りは庇ってやるが、限界があるぞ。」
「プリッ。」

言外に、命を捨てるような真似ばかりするんじゃありませんと勧める柳。
だが、仁王は止める気はない。

そりゃあ怖いさ。
怖いけど、怯んでられるか。



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