Solicitation:Break time 2

「春日さん、ずばり聞きます。」
「?」
「お前さん、どっちに入りたいと思うとるんじゃ?」
「えっ!?んくっ・・・!」

紫希は弁当のミニトマトを喉に詰めそうになった。いきなりそんな事言われても困る。

「ど、どっちと言われましても、私はどっちが良いとかそういうのは・・・」
「そういう良い子ちゃんな答えは今要らんぜよ。」
「そんな、」
「どちらかありませんか?僅かでも、出来ればこちらが良いというような、希望みたいなものが。」
「・・・ううん・・・」
「言うておくが、幸村が居る方とかそういう気遣いはご法度じゃ。」
「そんな・・・」

読まれてる。
完全に先回りされている。
次々に退路を絶って行く仁王と柳生の手腕に、良いコンビだなと紫希は現実逃避気味な事を思った。

「幸村君が居る方?ってなんだよ?」
「幸村は強いから、足を引っ張る自分が同じチームに居て丁度良いって事じゃろう。」
「だって・・・!」
「気の毒ですが春日さん、それでなくても今の所春日さんはずっと幸村君と同じチームです。確率的にも、そろそろ分かれますよ。」
「う・・・」
「分かったら、ちゃきちゃき意見を良いんしゃい。」

(それが苦手なんだって、此奴)

いや、仁王も柳生も苦手なのが分かってないわけではないのだ。
でも答えて欲しい。
これからの作戦の為に。

「ええと、」
「はい。」
「そのう・・・」
「遠慮せんでええぜよ。」
「おい、そんな迫ってやるなよい。」

そんな風に追い詰めたら、出る意見も出なかろう。

もっと搦め手でいけば良いのに、と丸井は思うが、実は仁王も柳生もそこまで分かっている。
でも、敢えてやる。
正面からガツガツ切り込んだ時に紫希はどう反応するのか、その反応を頭に入れておきたいのだった。

こいうところ、やはり似ていると言わざるを得ない。

「・・・では。」
「おう。」
「はい。」
「・・・に、仁王君の方で・・・」
「え、そっち?」

丸井は素でびっくりした。

「す、すみません!ごめんなさいあの、別に仁王君の足を引っ張りたいわけでは、ああそれに柳生君の事が嫌いだとかそういうわけでも、」
「いや、そんな風には思っとらんナリ。安心しんしゃい。」
「ええ、私もそのような考えはしていませんよ。ですが・・・よろしければ参考迄に、理由をお聞きしても?」
「おう。俺もそれ気になる。春日は絶対柳生の方選ぶと思ってた。」
「おや?そうですか?」
「だって、紳士とかいうだけあって女子には優しいじゃん?柳生って。落ち着いてるしさ。」
「それは暗に俺が優しくないっちゅう意味か?」
「お前は女子だろうと誰だろうと容赦ねえだろい。」

寧ろライブの作戦の時とかさっきのペイントの時とか、今のメンバーの中で随一に「大人しい」「女子」である紫希に向かって、仁王は一切の遠慮なくああしろこうしろと指示を飛ばす。
彼の前では大人しかろうとそうでなかろうと、男子だろうと女子だろうと、皆等しくイリュージョンの構成要素である。

「あの、私・・・本当に、どちらでも構わないですし、どっちがより好きとか嫌いとか、そういうわけではないんですけど・・・」
「けど?」
「・・・私、仁王君の考えている事が、未だに掴めない所が多くて。柳生君もそうですけれど、柳生君はまだこうしてお話するようになって日が浅いですし、仕方ないかなと思うんですけれど、仁王君はこう・・・過ごしている時間に対して知っている事が少なすぎるというか・・・」
「「「あー・・・」」」

例え十分とは言えなくても、付き合いを続けていればある程度の所で「大体のキャラ」と言う奴が掴めるものだが、仁王はその「大体のキャラ」という奴が未だに見えてこない。

「ですので、より理解を深めたいと思って・・・」
「春日さん・・・それはとても春日さんらしい、お優しい発想で結構な事だとは思いますが。」
「無理じゃねえ?此奴、自分の事知られないように知られないようにしてんじゃん。」
「プリッ。」

そう。
他の者ならいざ知らず、仁王に関してそういうのは望めない。
この男は、そもそも自分を人に分かって貰おうという気がないのだ。
そんな事したらイリュージョンに差し障るから。

「俺としては、掴めない奴くらいの認識をしておいて貰えればそれで良いんじゃがの。」
「ええ、貴方はそう言うでしょうね。」
「で、ですけど、私仁王君に関して知っている事と言ったら、優しい事と悪戯が好きな事と、直向な事くらいで・・・」
「なあ、それどこの世界線の仁王の話?」

悪戯好きはまあ良いとして、優しいとか直向とか何処を見たらそんな感想が出て来るのだろうか。
何処か憎めない空気はあるにはあるが、やってる事って殆ど褒められた事じゃない事ばっかりだぞ。

「しかし、興味深い話題です。」
「はい・・・?」
「春日さん、参考までに仁王君の何処に対して優しい、直向であるとお考えなのですか?チームがどうのと言うより、純粋に質問なのですが。」

「丸井、なんじゃこの肩ポンは。」
「まあまあ、直ぐ分かるって。」

チーム云々はさておき、という一言はかなり効果的だった。
紫希はホッと胸を撫で下ろし、幾分かリラックスした状態で話し始めた。

「ライブの件でのお話は柳生君もご存じだと思いますけれど、仁王君はああいう事も含めて良く此方の頼みを引き受けて下さいます。誰がどう思うか良くお考えですし、先日も紀伊梨ちゃんに「ご飯が食べたい」と振られて連れて行って下さったみたいで、恩着せがましくなくさらっと助けてくれて、そういうのが仁王君の優しさではないかと思っています。」
「・・・・・・」
「へー!それでそれで?」

それで、と促しながら丸井はにやにや笑いで仁王を横目に流し見ている。

まずい。
これは旗色が悪い、というより苦手。

「仁王君、何処へ行かれるのです?」
「トイレに、」
「まあまあ、も少し聞いてけよい。春日、続きは?」
「ええと、そうそう、直向な所でしたね。仁王君は、授業を抜けたりなどもしていらっしゃるみたいですけれど、自分にとっても正直だと思います。こうして柳生君の勧誘を諦めることなく続けているのも、引いては自分のしたいテニスの為で、さっきみたいに少し手段を顧みない所もありますけれど・・・あそこまで目標に向かって形振り構わない態度で居られると言うのは、とても直向で健気な努力家である印だと私は思って、」
「春日。」
「はい?」
「お前さん、なんぞ俺に怒っとるんか?」
「えっ!?」
「何かしたなら謝るき、許して欲しいぜよ。」
「え、ま、待って下さい私別に何も怒ってなんて、」

「ふっ・・・・くくくく・・・」
「楽しそうですね丸井君。」
「人の事が言えんのかよ?」
「いえいえ、滅相もありませんそんなつもりは。正直今、愉快で愉快で仕方がないので。」

仁王のやり込め方として、これはかなり新しい部類に入ると言えよう。
人から褒められる事よりは小言を貰う方が多い仁王のようなタイプにとって、ただ只管に褒められると言うのは心臓がこそばゆくて仕方がないのだ。

くすぐったがる仁王なんて滅多に見られないぞ、超面白い。
柳生の緩んだ口元は、如実にそう物語っている。

「俺、柳生のそういう所好きだぜ♪」
「ええ、私も丸井君のこういう茶目っ気のある所は好ましく思っていますよ。さて・・・仁王君。」
「・・・なんじゃ。」
「春日さんはそちらを希望との事ですので、暫定的には其方のチームという事になりますが、良いですか?」
「お前さんは本当に良い性格をしとるぜよ。」

この流れで紫希が自分のチームを希望してくれた所で、諸手を挙げて喜べない。
いや、2人欲しいのは本当だからそういう意味では良い事だけれど、このくすぐったさは当分尾を引くだろう。

「おや、不服ですか?それなら私のチームという事でも・・・」
「待て、不服とは誰も言うとらん。春日はこっちに来たがっとるんじゃ。」
「おや?とても歓迎するような態度には見えないのですが、気の所為ですか?」
「気の所為じゃ。歓迎しとるき、潔く譲れ。」
「疑わしいですね。」

「・・・・・」
「ん?どうした?」
「私、何か怒ってると思われるような事を言ったでしょうか・・・」
「へ?」
「仁王君に対して怒っている事なんて、私何もないんですけれど・・・丸井君?」
「ふくくくっ・・・!」

いけないと思いつつ笑ってしまう丸井。
大真面目な顔してると思ったら、そんな事考えていたとは。
コントかよ。

「いや、別に仁王も怒られてると本気で思ってるわけじゃねえよ。」
「そうですか?でも、冗談を言う時の仁王君なら、もう少し可笑しそうな顔をしてる筈・・・」
「いや、冗談っていうのもちょっとニュアンス違うんだけど。」

強いて言うなら、必死なのである。
もうその話を続けないで欲しいと言う、懇願の表れだ。
仁王にしては極めて珍しい表情と言えよう。

「兎に角、別に気に障ったとかそういう話でもねえからさ!そんな気にすんなよ。な?」
「そうでしょうか・・・?」
「そうそう。何も悪い事言ってねえんだし、もし後から何か怒られたら言い返しといてやるって。」

「・・・・・・・」

ニッと明るく笑う丸井の笑顔を見て、紫希の頭にふい・・・とした疑問が過った。
過ったが。

「わ、きゃ!」
「そんな心配すんなよ、大丈夫!」

尚も考え込んでいるように見えた丸井に頭をくしゃくしゃされて、紫希の疑問は後回しにされてしまった。




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