Meeting 2

「ところで皆、良かったらもう一つお願いがあるんだけど・・・」
「ほいほいっ!なんでしょー!」
「実はね、ちょっと来てほしい所があって。」


というわけで、一行はあの公園にやってきた。

あの公園。
跡部との家出で来た、あのステージのある公園だ。

「あのステージですか?」
「うん!どう思うかなっ?」

結局可憐は、跡部の名前は伏せる事にした。
ただ、友達の家出に付き合った事と、このステージを見た感想を求められた事。自分以外の意見を聞きたい事だけ伝えて、ビードロズを連れて此処まで来たのだった。

「悪いけど、私別にって感じ。」

千百合はキッパリと言った。

「別に・・・!?」
「見ても何とも思わないもん。ああ、使われてないんだってだけ。私、感想とかそういうの出てこないタイプだから。」
「千百合っちこういうの苦手だよねー!」

千百合は、典型的な「感想文」が苦手なタイプである。
単に言葉にするのが苦手なわけじゃない。土台、何も思わないのだ。

思い入れが何かあるなら話は別だが、さして良く知らない物を出されて「どう思う?」と言われると、千百合的には「どうも。」
としか返せないのだった。

しかし可憐としてはこれはちょっと肩透かしである。
跡部が欲しいと言っていたのは、千百合の意見だったから。

「お前wそれはないだろって言うか、それを言い出すと元も子もないだろw」
「しょうがないじゃん、実際問題何も思わないんだから。無い物を出せって言ったって無理よ。」
「ま、まあ、感想が無いのが感想とも言いますから、そういう事もあるかと・・・」
「うん・・・気にしないで千百合ちゃんっ!」

でもやっぱり、ちょっとしょんぼり感。
いや、跡部と過ごしたあの時あの場に千百合が居れば、又違う意見が出てきたのかもしれないけど。

「っていうか、そういうあんたはどうなのよ。」
「俺は勿体無いなーって思うよ。」
「勿体無いっ?」
「分かるー!此処あっちの木で隠れてるもんねー!」
「高低差の所為で、入口から見えづらいですよね。植木が思っていたより大きく育ってしまった結果だと思うんですけれど。」
「ああ・・・!そうだね、そう言えばっ!」

ステージというのは人目に付くのが前提の物なので、人目に付きにくい所にわざわざステージを作る意味は無い。
所が、此処のステージは入口から植木に遮られて見えない。
狙ってやったとは考えづらいので、おそらく紫希の言う通り植樹設計のミスであろう。

「まあね。あるって教えられないと、自力では見つけないかも。」
「確かに・・・私も連れてきて貰うまで分からなかったなあ。凄いね棗君っ!」
「大した感想じゃないよw」
「そんな事ないよっ!やっぱり、普段からステージに関わってると違うねっ!」

先ず、見え方から入るという発想がそもそも、普段ステージだなんだを知らない人間には浮かびづらい。

(跡部君は知ってるのかなあっ?でも多分知ってるよねっ。跡部君って知識が広いもん。)

特に育ち柄、経済の事や教養の事、芸術の事に関しては跡部は本当に色々良く知っている。
普段でも跡部と話していると、知らなかった事がポンポン出て来るので、話しているだけで勉強になるレベル。

「紫希ちゃんはどうっ?」
「私は・・・ああ、足りないな、と思いました。」
「足りないっ?」
「はい。こう・・・」

紫希は座席代わりにされているベンチに座った。

「あ、紀伊梨ちゃんも座るー!」
「ふふふ、どうぞ。」
「じゃあ私も座る。」
「じゃあ俺も「お前立ってろや。可憐、こっち座りなよ。」酷くない?」
「座るのっ?ええと、こう?」

5人並んで腰かける。

そういえば、家出の時は座らなかった。
この椅子の、もっと後ろからぼんやり見ていた。

「これで、ステージの半分は完成していますよね。」
「えっ?」

何処が、と思い紫希を見る可憐だが、紀伊梨は楽しそうに大きく頷いている。

「うんうん!ステージっていうのは、お客さんが居ないと駄目ですからなあ!」
「客が居ないステージって逆になんて言うんだろ。」
「それは只のリハーサル場だろw」
「そう、なんだ?」
「私はそう思うんです。ステージと言うからには、誰か見てくれてる人が居ないと、って。」

小学校の頃から何度かビードロズは発表をしていたわけだが、基本ステージに立ちっぱなしの3人と違って、紫希は良く往復していた。
楽器の準備手伝いにステージに上り、終われば下りて観客席で見る。
その行き来の中で、紫希は色んなパターンを見た。
お客さんが居る光景も、居ない光景も。
逆に、演者が居ない光景も、居る光景も。

そしてどちらも埋まっている時に紫希はしみじみと思う。
ああ、此処は今。ステージなんだな、と。

「だよねー!分かる分かる!紀伊梨ちゃんも思ってたよ!」
「あんた本当に思ってんの?適当言ってない?」
「言ってないよー!紀伊梨ちゃんは!見た時から!可哀想って思ってました!」
「可哀想っ?」
「だって折角ステージなのに、誰も居ないんだよ?可哀想じゃん!誰かが立って、誰かが見るからステージなのにー!」

紀伊梨にとって、ステージと言うのは演者が其処に立ってこそのものである。
これは榊と同じような感覚の物で、使われるために生まれたのに使われてない物は死んでいる、という発想が紀伊梨の無意識下にあるのだ。

紀伊梨の目には、あのステージがとてもポツネンとして見える。
働きたいのに働けない、必要としてくれる人が長らく居ない、出番はまだかなーと待ち続けている状態。

「だから、」


「可憐さん?」


1/7


[*prev] [next#]

[page select]

[しおり一覧]

1年1学期編Topへ
1年夏休み編Topへ


-