Pre-tremolos 3
「ってわけでー!紀伊梨ちゃんは可愛い後輩の役に立ってた、というわけでありますよ!」

バラバラになっていたビードロズ達がぽつぽつと戻り出す頃、漸く他校含め4回戦が終わり、テニス部も正式に昼休みとなった。

昼食を広げながら、図らずも次期後輩(予定)との出会いを果たした紀伊梨は、その話を喋りたくて堪らなかったのだ。

「じゃあ、その女子は準決勝から観戦すんのね。」
「そうなりますね。まあそのお話からすると、観戦と言うより応援団の見学が目的でしょう。」
「しかし、チアガールに憧れてるからというて、わざわざ公式試合を見に来るとはのう。」
「うむ。見上げた向上心だな。受験の先にある目的を意識するのは、肝要な事だ。」
「いやw純粋に向上心のみとは言えないんでないのw」
「どういう事だ?」
「ああ、そっちじゃったか。」
「俺はそれあると思うよw」
「?何の話だ?」

紀伊梨から聞いた話では、野月は塾の友達と来るつもりだったと。
友達の「男子」と。結局来れなかったわけだが、まあ、其処に他意があるかもと言う推測は簡単に出来る。

「チアガールか・・・入部希望者は、やっぱり多いって聞くな。」
「そうですね。私達のクラスにも、何人か応援部の女の子が居ますし。」
「華やかで、パッと目立つしな。ああいうのに憧れるって気持ちは、分からなくもないだろい。」

「そーそー!かっこいいよねー!」
「ふふっ。そうだね。応援って言うのは、応援する人自身がエネルギッシュじゃないと成り立たないから。」
「その分、練習は過酷だとも聞くがな。」
「やっぱり、途中で退部する人も多いのかい?」
「そうだな。中途退部率は、他の部と比較しても高めだ。」

立海は体育特化型学校なので、運動系の部活はまあ、大凡キツい。

皆キツいと分かっていて入ってる筈なのに、それでも尚キツいから、応援部は侮りがたい練習量である事が窺い知れる。

「だ、大丈夫なんでしょうか、野月さん・・・」
「確かに、入った後大丈夫かなって心配はあるなw」

「だいじょーぶだよー!咲ちゃんは頑張り屋さんだもん!きっと、立海で一番のチアガールになるよ!」

受験勉強ちゃんとしているという所からして、紀伊梨からすれば既に偉い。
それに加えて塾も行ってる様だったし、こうして見学にも来ていたし。

こんなにやる気のある野月がついていけない、なんて。そんなわけないじゃないか。

「でも、実際辞めてる奴も多いんだろ・・・?」
「そうだな。データの上では、練習量が多い事、休みが拘束されがちな事。それから上下関係が厳しく、叱られたりする事に対して弱い性格だと辞めやすい、という結果が出ている。」
「ああ、真田みたいなのがわんさか居るのか。辞めるわ。」
「どういう意味だ!」

「紀伊梨には出来なさそうな部だなw」
「うう!た、確かに紀伊梨ちゃんにはちょっと厳しい・・・いや、でもでも!紀伊梨ちゃん、チアにはちょっとしかきょーみないから、入んないけど!」
「ちょっとはあんのかよい。」
「だって可愛いよ、チア!・・・じゃなくてー!一回でもれんしゅーじゃなくて本番でチア出来たら、その後はぜーったい辞めないよ!だから、それまで我慢すれば、きっとだいじょーぶ!」
「そうなんですか・・・?」

「うん!だって、皆の前でパフォーマンスするのって、すーーーっごく楽しいんだもん!」

あの感覚は、病み付きになる。
紀伊梨はそれをよーく知っている。

勿論、皆の前で発表とか苦手、と思ってる人がおかしいと思ってるわけでは無い。
そういう人だって沢山居ると思う。
でもチアに憧れている時点で、程度の差は有れどその人は、人からの注目を浴びる事が好きなのだろう。
嫌いでは無い筈だ、少なくとも。

皆の見てる前で、自分が注目されている中で、自分の武器を今迄磨いてきた成果を出し切る。
拍手。歓声。凄い!かっこいい!の言葉。

舞台に立った者しか分からない。
あの、最高にわくわくする時間。

其処にさえ一度辿りついてしまえば、後は大丈夫。
多少キツくっても、あの瞬間の為なら頑張れるだろう・・・と思う紀伊梨は、やっぱりちょっと考えが甘い所もあるのだが。
でも、そんなに突拍子もない意見と言うわけでもない。

「ニオニオも分かってくれるっしょー?イルージョニストだもんね!」
「イリュージョニストじゃ。」
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