For dive 1




「付き合うって言ったけどさ。」
「あはは・・・思ってたより近場じゃなかったんですね。」

「うおーーーー!東京よ、紀伊梨ちゃんは帰って来たーーーー!」

sirena’sという、ここ最近めきめきと頭角を現してきた服飾ブランドがある。特に水着やリゾート用の服に力を入れているので紀伊梨は折角なら其処に行ってみたいと思っていたのだ。

しかし神奈川には店舗がなかった。そして東京にはあったから、東京に行こうと考えたのだ。

「これだけの為にわざわざ・・・」
「まあまあ。こうして紀伊梨ちゃんが言い出してくれませんと、なかなか東京にも来ませんから。」
「良いじゃん東京楽しいしー!それにほらほら!見て見てHP!こーんなにいっぱいあるんだし、お気に入りがきっと見つかりますぜ!」
「わあ、本当・・・凄い品ぞろえですね。」
(逆に選びにくくね。)

紀伊梨が見せるHPの店舗風景は、正に夥しい数の水着。
こりゃあ長くなりそうだ。

(ああ面倒くせ。)

やっぱり行き方が分かってなかった紀伊梨と一生懸命アクセスを調べる紫希を見つつ、千百合は肩を落とす。





(面倒くさいわ・・・)

「ん?侑ちゃん、なんか言うた?」
「何も。」

我が姉はエスパー持ちなんじゃないかな、と忍足は偶に思う事がある。

今日は貴重なオフ。
折角だしテニスショップでも覗きに行こうかなと思って、向日に声をかけつつ出かける準備をしていたら恵里奈にあっさり見つかってしまった。
それだけならいざ知らず、ちょうど自分も買い物に行きたかったから付き合えと言われて、溜息を飲み込みながら向日に謝罪の連絡を入れたのが2時間くらい前の話。

「さ!次はあそこに行こか♪」
「はいはい。」
「あれ?なんや素直やないの。水着ショップとか侑ちゃんは嫌がる思うてたんやけど。」
「ええねん、見てわかるさかい。」
「何が分かるのんよ、侑ちゃんのエッチ。」
「人聞きの悪い事言わんといて。」

見てわかるのは水着じゃなくて今の己の状態である。
見てごらん、この夥しい荷物。まだ午前10時なのに、既に袋の数は5つ。

この状態なら女性向けの水着ショップに言った所で変態だとか思われたりはしないだろう。
まず間違いなく荷物持ちだと分かって貰える筈だ。あれ?おかしいなあなんだか悲しくなってきた。

「ん?」
「うん?どないしたん?」

大型ショッピングモールの、案内板の前。
見慣れた顔が居る。


「あれー?シレーナズないよー?」
「ううん、でもこのモールだと書いてありましたから何処かには・・・」
「ていうか紀伊梨、店の名前日本語で覚える癖いい加減止めろよ。」

「春日さん達。」

「ん?」
「あー!おっしーだ、久しぶりー!」

こういう時、サッと荷物の半分をひったくる姉の外面の良さに、そういう所やでと忍足は思わなくもない。口に出すほど馬鹿じゃないけど。

「久しぶりやな。」
「ご無沙汰してます。」
「隣のおねーさん誰?彼女?」
「ちゃう。」
「はじめまして、侑士の姉です。いつも侑士がお世話になってます。」
「ああ、お姉さん。」
「へー!可愛いおねーさんだー!後おっしーと似てるー!」
「あら嫌やわ、可愛いやなんて♪」
(似てるんや・・・)

いや、似てないって。少なくとも中身は似てないって信じたい。

「忍足君もお買い物ですか?」
「ああ、まあ・・・そんなとこやで。」
「へー!あ!ねーねーそれならここ詳しい?紀伊梨ちゃん達水着買いに来たんだけど、何処行ったら良いのか分かんなくなっちゃった!」
「水着?sirena’sやろか?」
「ご存知ですか?」

恵里奈はにっこり笑って言った。

「今から行くとこやってん。一緒に行こか?」




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