Help 2
購買で買ったサンドイッチを抱えて、仁王の指示で紫希は1号館の屋上へ向かっていた。

1号館の屋上とサラッと言うが、生徒に解放されているのは2、3号館の屋上のみで、1号館は普通締め切られている。
開けておくダニ、安心しんしゃいと言われたが、余計安心出来なくなった事を紫希は言わないでおいた。

「お邪魔します・・・」

扉を開けると風が入ってきて、紫希の髪をワッと巻き上げる。
反射的に目を瞑ってしまいそうになるのを堪えて屋上を見渡すと、探していた銀髪。

の、代わりに赤い髪。

「・・・丸井君?」
「おーす!」
「こんにちは・・・」

何故。

疑問を抱きながら、紫希はノロノロと近くに寄って座った。

「どうしていらっしゃるんですか・・・?あ、いえ、居てはいけないと言う事では無いんですけれど、」
「ん?仁王に呼ばれたから。」
「え?」
「春日と3人で打ち合わせするから来いよーって。あれ?聞いてねえ?」
「はい、聞いてません。仁王君に呼ばれたのは私もそうなので、てっきり仁王君がいらっしゃるとばかり・・・」

しかしこの流れで丸井が居るという事は、つまり。

「あの・・・丸井君、ライブの事は・・・」
「ああ、聞いた聞いた!なんか大変な事になってんな。」

やっぱり知っていた。

「すみません、ご迷惑をおかけして・・・!」
「いや、別に?迷惑とか思ってねえよい。仁王から断っても良いって言われたし。」
「え?そうなんですか?」
「おう。でもなんというか・・・」
「はい。」
「・・・やりた、かったから?みたいな?」

ちょっと言うのが恥ずかしくて、なんとなく目線を外してしまう。

が、紫希はキョトンとするより他ない。
丸井が何を指示されて居るのか、全然聞いていないからだ。

「・・・何をやりたかったんですか?」
「え!?」
「え?」
「・・・あれ、お前俺が何頼まれてんのか、知らねえの?」
「はい。聞いてません。」

しまった。

「忘れろい。」
「へ?」
「良いから。今言った事頼むから忘れ・・・」

「覚えて置くのを勧めるぜよ、春日。」

上を見上げると、機械室の屋根に登った仁王が2人を見下ろしていた。

「お前居たのかよ!」
「どうやって登ったんです・・・」
「何、コツを掴んだらこの程度は簡単じゃ。」

仁王は慣れた調子で降りてきた。
ずっと彼処に居たのだろうか。
サボりでは無いだろうか。

「呼んで悪かったのう。」
「いえそれは構いませんが。」
「居るんなら居るって言えよい。」
「黙っとった方が面白いもんが見れるかもしれんじゃろ?」
「あのなあ・・・」

ジト目になる丸井だが、実際そうなのだから仕方がない。
今も見た所だ。

「さて、じゃあ早速食いながら本題に入るかの。」
「はい。」
「おう。」

食べて良いよ、と許可が出るや否や特大の弁当を広げる丸井。

「・・・その箱、重箱だったんですか。」
「おう!良いだろ、沢山入るんだぜ?」
「よう食えるの。」
「お前は食細過ぎだろい。」

(足して2で割ると丁度良いのに・・・)

いや、足して2で割っても+に振れるかもしれない。
そのくらい丸井の弁当は多かった。これを何時も早弁しているのだろうか。

「ライブの話じゃが。」
「おう。」
「はい。」
「先ず、当日春日にやってもらう事の説明の前に更に言うておく事があるナリ、先にそっちを話すぜよ。丸井も聞いといてくれ、これは朝言うとらんきにの。」
「分かった。」
「分かりました。」
「良し。じゃあ先ず大前提じゃが、今回の問題はライブするに当たって演出を回し切るだけの人間が居らん。ちゅうのが焦点じゃ。」

そう、人間が居れば何も問題は無い。
しかし実際は生徒会の人間は忙しいから割けないと言われ、かといって手伝いを呼ぶのも止めろと言われ。だから演出を変えるか削るか、さもなきゃ止めるか?という話になっているのである。

「で、俺のプランじゃが・・・


生徒会の人間を徹底的に使う。此れに尽きる。」


仁王は至極真剣に言った。

「・・・でも出来ねえんだろい?」
「正面から頼むから断られるんじゃ。何事も段取りぜよ。ま、それは俺の仕事じゃき、気にしなさんな。」
「そんな事言われても・・・」
「気になるよなー。」

ニッと笑う仁王の表情が「話す気は無い」と言うので、実際に掘り下げる気はないが。

「続けるぜよ。今生徒会の人間を使うっちゅうたが、これは成功率は高いと踏んどる。・・・が、生徒会は全員で20人。これだけ居ると、頭の回る奴が1人は必ず居る。絶対邪魔してくる。」
「まあ、そんだけ居ればそうだろうな。」
「で、其奴を春日になんとかして貰うっちゅうのが俺の考えじゃ。」
「ええ!?」

そんな事自分に出来るのか。
なんとかとかいうが、具体的にどうしたものだろう。

「焦らんでも良い。具体的に何して貰うかは俺がもう決めとるダニ、お前さんはその通りにしてくれるだけで良か。」
「あ、そうなんですか・・・」
「ああ。で、何して貰うかじゃがーーー」





ーーーーー





「1人でやります。」
「そう言うと思うたから話を付けておいたんじゃ。」
「おう。」
「いえ、1人でやります。絶対に1人でやります。丸井君は何もなさらないで結構です。」
「やっぱり強情じゃき。」
「私そんなつもりで丸井君の名前挙げたわけじゃありません!!」

仲が良い男子、と聞かれたから丸井と言ったのだ。
そんな事して貰う為と分かっていたら、死んでも指名なんてしなかっただろう。

「しかしのう、引き受けた以上は俺にも責任があるきに、お前さんが断るのなら作戦は破綻するぜよ。」
「破綻はさせません、1人でやります。」
「1人にさせるわけに行かねえだろい?」
「1人で良いですから!」
「どうして其処まで突っ張るんじゃ。」


「当たり前じゃないですか!丸井君も仁王君もテニス部なんですよ!」


(・・・あー。)
(成る程、そっちがあったか。)

勿論、テニス部じゃないなら良いのかという話にはなるだろう。
でも、テニス部だから輪をかけてこう言い張っているのは否めない。

「確率は低いと仰いましたけど、もし本当に何かあったら「分かった、分かった。」

仁王は両手を軽く上げた。

「どうすんだよ?」
「お前さんが説得しんしゃい、丸井。」
「はあ!?」
「俺にはこれ以上言い聞かせられん。無理に言う事を聞かせても、チームワークが悪ければ綻びは出やすいからの。」

言うだけ言うと、仁王はサッサッと昼食の片付けをして立ち上がった。

「おい、ちょっと、」
「なるべく昼の間に結論出してくれんか。準備もあるきに。」
「あ、仁王君。お聞きしたい事があるんですが企画書の方は・・・」
「ああ、あれは適当に書きんしゃい。最終的には無視するだけじゃ。」

声音は爽やかだが、言ってる内容は乱暴そのものである。

「じゃあの。俺は此れで失礼するぜよ。」
「おい、マジかよ!」
「なあに、お前さんなら出来るナリ。

・・・友達、なんじゃろ?」

(な・・・・!)

パタン、と屋上扉が無情な音を立てて閉まった。

(・・・彼奴何気に根に持ってねえか?)

友達云々発言がショックだったのだろうか。
ああ見えて、結構人懐っこい奴なのかもしれない、と丸井は思った。

「・・・丸井君。」
「ん?」
「私、1人でやりますからね。」
「・・・はあ。」

溜息を禁じ得ない。

「あのな?そう言うけど、例えばお前じゃなくて、五十嵐とか黒崎だったらどうするんだよ?」
「でも今は私です。私はどうでも良いです。」
「良くない。」
「良いです。」

(埒があかねえな。)

なら戦法を変えるしかない。

「・・・分かった。そんなら勝手にしろい。」
「はい。」

「その代わり、俺も勝手にするからな。」

ピキリ、と紫希の顔が固まった。対して、丸井の顔は悪戯が成功した子供のように笑っている。

分からなかったのだろうか。
自分勝手な事をしていると、他人にも勝手な事をされるのは当たり前の話だ。

「・・・さ、させませんよ!」
「どーやって?お前は仁王の指示聞いてないといけないんだぜ?」
「う・・・・」
「余計な事すると、作戦に穴が開くかもなー。」
「ううう・・・」

困ってる。
目に見えて困ってる。

「大体、お前心配し過ぎだって。な?」
「でも怖いです・・・」
「怖いんなら尚更、」
「自分の事より丸井君の方が怖いですよ!想像しただけで心臓がドキドキします・・・!」

心配性の紫希は、万一の為、とか言われるとどうしてもその万一の方に気が行ってしまう。それが自分達のライブの為なら尚更、要らぬとばっちりを与えてしまうのではと気が気では無い。

その気持ちは丸井にも分かるが。

「・・・そう言うけど。」
「はい・・・」
「その台詞そっくりそのまんま、キッチリ返すぜ。」
「はい・・・?」

「俺だって自分の事よりお前の事の方が怖いだろい。」

お互い様。
全てが、お互い様だ。

寧ろ怖い云々言うのなら、丸井の方がよっぽど怖い。ただでさえ目を離すのが怖いのに。

「な?俺って友達じゃなかったのかよ?」
「う・・・・」
「それに、春日がやるのが一番何事も無い確率高いって言ってたじゃんか。」
「ううう・・・・」
「オッケー?」
「・・・ごめ「おっと、それはナシ。」

重箱の蓋を紫希の口に当てる。

「俺達友達だろい?こういう時は?」
「・・・あ、りがとう、御座います。」
「おし!」

丸井はそれは満足げに笑った。




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