Camp school:Mountaineering 2
その少し前、更に上の道で何が起こっていたかというと。
「ねー、郁ー。」
「・・・・・・」
「郁ってばー。」
「・・・・・・」
「もー・・・」
「そんなペース上げてると途中でばてるぜ?」
「誰のせいだと思ってるんだ、誰のせいだと!」
郁は同クラで友人の林と・・・それから、丸井と一緒に登っていた。
丸井は歩いていたら偶々郁と林に追いついたのだ。
これ幸いと一緒に登ろうとしたわけだが、郁の方は当然断りの姿勢。
ただ土台丸井の方が体力があって足が速い為、合わせられると振りきる事もどうする事も出来ず、郁にとっては不本意ながら3人で歩く事になっているのだった。(因みに林は大喜びである)
せめてさっさと登りきって早く終わらせてしまおうと足早になる郁だが、段々しんどくなる自分と違って丸井は余裕綽々である。
(こういう所がまた鼻に着くんだよ・・・)
「あっ!郁、足元!」
「危ねえ!」
「え、」
郁は丸井を意識するあまり、山道で原則やってはいけない事ーーー足元を疎かにする、をやってしまったのである。ちょっと大きめの石ころをまともに踏んだというただそれだけなのだが、それだけの事が山道では命取り。ぐら、と大きく傾ぐ郁の腕を丸井は咄嗟に掴んだのだが。
「「「あ。」」」
転びはしなかった。
それは丸井のおかげで免れたが、郁は自分のポケットからスマホが滑り落ちる光景がいやにはっきり見えたのだった。
ゴロ、ゴロゴロ・・・と目の前で崖を転がり、バサバサと音を立てて真下の藪の中に消えて行った郁のスマホを3人はしっかり見た。
見ただけであっという間過ぎて手が出せなかったのだが。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・嘘だろ。」
その場にへたり込む郁。
中学生にとって、携帯を失うというのはある意味財布を失うよりも痛い。
中学生の財布なんて免許もクレジットカードも入ってないし、現金だって数万単位で入ってる事は少ないから、あーあ、で済む。
でも携帯は別だ。
家族・友人の連絡先に連絡手段。
写真。音楽。ゲームのデータ。
それらが全てぱあになる上、新しくするにも直ぐには無理な場合がある。
よりにもよって、親の居ないこの時に。
(詰んだ・・・)
もう駄目だ。
自分はこの林間合宿の間、もしかしたら帰って来てからも暫く携帯無しで過ごす事になる。
「い、郁・・・」
「・・・鈴奈。」
「郁?」
「この辺に携帯ショップがあるか探してみてくれないか?」
「しっかりして!無いよ!山の中に携帯ショップなんか!」
わからないぞワンチャンあるかもしれないじゃないか、とか思わず思ってしまう程度には郁は冷静さを失っている。
なんという認めたくない事態。
「郁、気持ちは分かるけど今は取り敢えず諦めよ?ね?それより登りきって、先生に言っておこうよ!もしかしたらGPSとかで探して貰えるかもだし・・・」
「お前ら、先に登っとけよい。俺が拾ってきてやっから。」
「「え?」」
丸井は大真面目な顔でさっきスマホが消えて行った先を見下ろしていた。
良くある。
小さい子供が周りに居たら、この手のトラブルは日常茶飯事だ。
「拾うって・・・」
「この下の方って、まだ山道だったろい?もしかしたらその辺に落ちてるかもしれねえし。ケースに入ってたんだったら、中身は結構生きてるかもじゃん?」
それはそうかもしれない。
そうかもしれないけど。
「・・・別に君が行かなくて良いだろう。僕の携帯だ、僕が行く。」
「俺のが足速えじゃん。」
「君に貸しを作るのはーーー」
「貸しだとかなんだとか言ってる場合じゃねえだろい、スマホ失くしといて。」
「・・・・・」
「大体、お前が戻って何かあったらその連絡は誰にどうやってするつもりだよ?」
そう、もし今郁が単独行動を起こして事故に巻き込まれると、スマホを持たない郁はそれこそ本当に詰んでしまうのだ。
「・・・・・・」
「・・・郁、甘えちゃお?丸井君、私郁と先に登って先生に話してるから。」
「おう。じゃあ後で・・・あ!待った!」
「え?」
「一条の連絡先教えといてくれよ。鳴らしながら探す方が早えだろい。」
「あ!そうだね、じゃあLINEのIDっと・・・」
「着信の音消してねえよな?」
「・・・今はバイブが鳴るようにしてある・・・」
「オッケー。」
そんなつもりじゃなかったが、思いがけず連絡先をゲット出来た。
これはラッキー、後は本体を見つけるだけだ。
「ついでに、郁との写真も送っとくね!郁のスマホが写ってるから、参考にして?」
「おし、サンキュ!準備はこんなもんだな。じゃ、行ってくっから。」
「あ・・・」
「ん?」
思わず呼び止める郁。いやでも、呼び止めてどうしたら良いんだろう。
いや、呼び止めて言うべき事は山ほどあるのだ。
悪いけどお願いする、とか。さっきは助けてくれて有難う、とか。見つからなかったら無理しないで良いからとか、色々いっぱいある筈。本来は。
でも言葉が出て来ない。
出したくないという郁の無意識が、喉に空気で蓋をする。
「・・・多分見つかるから。」
「え、」
「そんな顔すんなよ!な?」
「ーーーーーー」
違う。
「そんな顔」しているのは、携帯の事を考えてるからじゃなくて。
「じゃ!」
「丸井君、行ってらっしゃーい!」
軽快に手を振る林に見送られ、来た道を丸井は引き返していき、直ぐに見えなくなった。
「・・・・・」
「ね。」
「え・・・?」
「丸井君って、かっこいいよね。ね?」
「鈴奈・・・・」
そんな事無いよ。
とは流石に言えなかった。
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