Camp school:Refreshing morning


「飯っておかわりどっちだっけ?」

「水ついでに俺のも頼むわ。」

「あ、ごめん醤油取ってー。」


わいわいした賑やかな空気の中、ホテルで朝食を摂る生徒たち。

「・・・ねー、郁ー。」
「なんだい。」
「結局昨日はそのまま寝ちゃったの?」
「・・・またその話か。寝たよ、言っただろう。」
「えー、マジで?」

昨日郁は、林から丸井に礼を言うように勧められたのだ。
例え好かないとしても、お世話になったのは純然たる事実なのだからちゃんとしたお礼の一つくらい言ってもばちは当たらないじゃないかと。

でもやっぱり気が進まなくて行かなかった。

「・・・・・・」
「・・・そんなじろじろ見られたって、僕は行かないぜ。そもそも僕は断ったんだから。」
「あ、ううん。そういう意味じゃなくて。はあ・・・」

(うーんどうしよう?どうしたら良いわけ・・・?)

林は朝食の焼き鮭を解しながら思案した。
郁とテニス部との関係について悩んでいるのは、林も同じなのである。
出来る限り仲を取り持とうとしてはいるものの、あまり上手くいっていないというか、正直何をどうしたら良いか分からない。

実は今、郁の態度がほんのちょっぴり変わる兆しが見えかけている所なのである。これでも。一番近い友達である自分にしか分からないだろうけど。
しかし林は分からないというか、一体何が理由で郁に良い影響を及ぼしているのかさっぱりなのだ。何かが作用している事は確かなのだが、それが何なのか林はハッキリとは掴めていない。
どうすれば効果的なのか分からない。下手を打つと逆効果になるし。

「僕は先に戻るよ。昨日鞄の整理をしきれなかったからね。」
「あ、うん!」

郁の背中を見送る林。
その後ろ姿が見えなくなったところで、斜め前に居たクラスメイトが残された林に話しかけてきた。

「・・・ねえ、鈴奈。」
「ん?」
「余計なお世話なんだけどさ、鈴奈はムカつかないの?」
「ムカつく?」
「ほら、郁ってテニス部嫌いじゃん?まあ好き嫌いはそれぞれだからそれは良いけど、あのテニス部への認識はどうかと思うっていうか、鈴奈は良いのかなって。鈴奈はほら、テニス部好きじゃん。だからつまり、今って友達が自分の好きな物を悪く言ってるって状態でしょ?」
「ああ!ううん、それは全然?」
「そなの?」
「うん。だってそもそもの話、郁があんな風に思うようになっちゃったのは私の所為みたいなとこあるし。まさか郁をマネジに誘う事になるなんて思ってなかったからさー、私も大袈裟に話しちゃったとこあるっていうか。何何君かっこ良い!とか、そこらのアイドルより断然推せる〜♡みたいな事毎日言ってたから、郁のテニス部のイメージってこう・・・私が育てちゃったみたいな?」
「ああ、まあそうかー。」

ある意味では盛大な自業自得とも言えるのである。
林がもっと別の褒め方を最初からしていれば、少なくとも今よりは色々もっとマシだっただろう。

「それに、嫌って言ってる郁を放っておかないで勧誘してるのはこっち側なんだし。私別に、郁が悪いとは思ってないんだ。」
「確かにねー。そう言われたらそうかも。」
「まあ、それ言ったらテニス部が悪いわけでも無いから、余計微妙なとこあるんだけどね?」
「難しいねー。」

本当に難しい。
林はため息を吐いて、又朝食を片付け始めた。




「・・・・・はあ。」

一方、部屋に戻った郁は、1人鞄を広げていた。そしてやっぱりため息を吐いていた。

「・・・・・・」

視線の先にあるのはスマホ。
そう、あの落としたスマホ。

結果としてだが、郁のスマホは奇跡的にほぼ無事であった。
画面の端はちょっと割れたし、変なぶつかり方をしたのかイヤホンの穴が歪んで差さらなくなってしまったが、今の所それだけ。
中のデータ、機能、全て無事である。少なくとも使用に支障は見つからない。

隣に置いてあるのは紫希のタオルハンカチ。
郁はそれを手に取って見つめた。

「・・・・・・」

これは紫希のだ。
丸井も紫希もそう言っていたし、この薄ピンクの縁取りレースの品が丸井のだとは考えられない。

でも何故だろう。
これを見ていると、これそのものの持ち主の紫希より渡してくれた丸井の方の顔が思い浮かぶ。

いや、当たり前だよ。
渡してくれたのは丸井なんだから、絵面として丸井の方が印象に残ってるだけだ。ただそれだけ。

「・・・あー、嫌だ嫌だ。」

やっぱり碌な事が無い。
関わるのは止めようと郁は心中で呟いた。

その呟き声がちょっとトーンダウンしている事には気づかないフリをして。





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