Camp school:Cowardly spirit 3

「・・・・うん。成程、分かったよ。」

『今さっと考えただけなので、理屈に穴が多分沢山あるんですけど・・・』

「いや、俺はそうは思わなかったよ。それに、俺は俺でちょっと考えていた事があるんだ。」
「そうなの?」
「うん。」

千百合は幸村と一緒に行動している。
Aグループは「いきなり完全にバラバラはまずいかもしれない」と考え、幸村と千百合、丸井と柳生の2つに分かれたのだった。

「春日の考えは裏付けになってるから、多分正解じゃないかと思う。春日は今、何をしてるんだい?」

『どうにか警察か新海先生のところに行こうとしてるんですけれど・・・今話した調子なので全然辿り着かなくて・・・でも他に出来ることもないから向かってはいるんですけど、でも、』

「わかった。落ち着くんだ春日、焦っちゃ駄目だよ。焦ってもどうにもならないからね。なんなら、少しどこかで休むと良い。こういう場合、闇雲に頑張っても無意味になるから。」

『はい・・・・』

(いや、無理でしょ。)

この状況で紫希に向かって焦るな休めというのは、とても難しい。
紫希は追い詰められれば追いつめられるほど諦められない。休んでいられない。
頑固ゆえに意志の力が強すぎて、「もう駄目だ」と足を止める事が出来ないのだ。最後の最後まで。

幸村も付き合いが長いからそこは分かっては居る。
分かってるけど、一応言ってはおこうくらいのものだ。

「俺は棗に連絡するよ。少し話し合いたい事があるから。纏まったら全員に連絡するから、携帯は手放さないで。」

『はい・・・あ。そうだ幸村君、千百合ちゃんはそっちのグループでしたよね?』

「そうだよ。」

『今、其処に居るんですよね?』

「うん。用事かい?替わろうか。」

『いえ、良いんです!安心したかっただけです・・・幸村君が一緒に居てくれるなら大丈夫って、思えますから。良かった・・・』

「・・・・・・」

幸村は眉を下げて、繋いでいた千百合の手をぎゅっと握りなおした。

「・・・何?」
「いや。兎に角、一度切るよ。」

『はい。』

ぷつ、と途切れる音声。

通話終了の文字を眺めて、幸村は思案顔である。

「どうしたの。何の話よ。」
「春日がまずい。」
「は?」

予想外の話に、千百合は目を見開いた。

「なんで?紫希は狐が居るから安全じゃ、」
「安全だよ。でも、自滅しかけてる。」
「・・・歩きすぎ?」
「それもあるけれど、春日は俺たちと違うんだ。当てなく探してるこっちと違って、春日は目的地がちゃんとあって、そこに向かって進もうとしてる。でも躱される。どんなに頑張って進んでも強制的に余所見をさせられ続けて居るんだ、一人でね。平静を装っていたけど相当参ってる筈だ。」

言うなれば紫希は今、リアル不思議の国のアリス状態。
右も左も信用ならず、自分が実際どこに位置してるのかも分からない。

混乱する筈だ。

「どうすんのよ。」
「だからこそ、止まるのが一番合理的なんだけれど。」
「紫希はしないわよ、そんな事。」
「そうだろうね。俺もそう思うよ。」

だから困るのだ。

幸村は尚も千百合の手を握りなおした。

「何。」
「千百合。」
「だから何よ。」
「俺から絶対に離れないで。」
「いや、そんな事言ってる場合じゃ、」
「駄目だ。約束してもらう。」

幸村はどこまでも真剣である。
こんな場合だから言わなくちゃいけない。

「・・・でも、分かれた方が良い状況になるかもじゃない。」
「例えそうなっても一緒に居て欲しいんだ。側に居てくれないと守れない。」
「・・・・・」
「そんなの要らない、とは言わせないよ。今は非常事態だからね。」

今や状況は、完全に一同の誰も予想していなかった方へ転がっていっている。
だから千百合もおいそれと反対を表明できない。いつも言っていた「心配し過ぎ」「大丈夫だから」が使えないのだ。言う千百合側にだって根拠が無いから。

「・・・でもさ。」
「分かってる。そこを譲らなかったことで、他の誰かが何か害を請け負うことになるかもしれない。勿論できる限りそうならないようにしたいけど、保証は出来ない。」
「なら、」


「それでも俺には出来ない。俺は千百合を手放したくないんだ、何があっても。」


幸村は穏やかだが、優柔不断とはとても遠い性格をしていた。
寧ろ逆である。いついかなる時でも優先順位が実にハッキリしているから、決断が極めて早く、そして迷いがない。だからこそ真田と親友出来ているのである。

「良いね。しっかり繋いでいて。離さないで。」
「・・・・・」
「・・・ふふ。」
「今笑う所?」
「千百合が解せないって顔をしてるから。」

当たりだ。
幸村の言う事はある意味では筋が通ってるというか、千百合としても納得がいく。
合理的ではないけれど、合理性を取ると自分の我儘が通らなくなるから合理性の方を捨てたんですよ。と言われたら、千百合だってああそうなの、と思う。

言うのが幸村で、一緒にいるのが自分じゃなければだが。

(よくもまあ、此処まで徹底出来るもんだわ・・・)

自分にとって一番なのは千百合とテニス。
常日頃からそう公言して憚らない幸村だが、言うだけじゃなくてこういう時実際にそれに即して行動する。

千百合は幸村のこういう所が、とっても好きだ。

それは自分に対してそうしてくれるからというだけじゃない。何に対しても言う事とやる事と思ってる事が全部いつも一貫していて、全くブレのない所が一個人として素直に凄いな好きだなと思うのだ。

ただ反面、それを発揮する対象に良く自分を選べるなあとも思う。

誰なら納得するのと言われても困るが、少なくとも彼女だからというただそれだけの理由でここまで優先されてて良いんだろうかというか。お前よくそんな事出来るなと純粋に疑問。

「俺としては解せないことなんて何も無いけどね。」
「まあ精市はそうだろうけど。」
「俺に限った話じゃないさ。誰だってそうするよ。」
「しねえよ。」

「するさ。好きな人の為なんだから。」

やっぱり解せない。



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