Camp school:Moonlight night


「ふう・・・」

ひとしきり話し終えて、じゃあ今日はこれで解散という流れになり、紫希は小さく溜息を吐いた。

疲れた。
こんなに動き回ることになろうとは思ってもみなかった。

「紫希もお疲れ。」
「あ、千百合ちゃん・・・千百合ちゃんもお疲れ様です。」
「ごめん・・・紫希にも悪いことした・・・」
「い、いえ棗君のせいじゃないですよ!私が悪いというか・・・自業自得なんです。体力も動く意味もないのに、じっとしてられなくて走り回ってしまって・・・幸村君も、大人しくしておいた方が良いと勧めてくれたのに・・・」
「ふふ。まあ春日はああいう時こそじっとしていないから、聞かないだろうなとは思っていたよ。」
「コンビニでももうちょいですれ違う所だったしな。」
「丸井君・・・」
「よ、お疲れ。」

座っていたソファの背もたれの後ろから丸井が顔を出した。
途端に渋い顔をするのは千百合である。

「一人で動くのもしょうがねえ時はあるけど。ああいう時は一緒に行ってやるから、取りあえず行くまで大人しくしてろい。オッケー?」
「え・・・・・」
「返事は?」
「・・・・・・・」
「なあ。」
「・・・・努力します。」
「はあ・・・」

「あのさ。」

「え、何・・・え?待て、何?何だよ?」

何気なく返事した丸井だが、ふと視線を向けるととても憮然とした千百合の顔がこっちを見ていてたじろいでしまう。
なんだ。なんなんだ、何怒ってる。

「あんたさ、昨日の夜此処で言ってた事はなんだったわけ?」
「は?夜?言ってたこと・・・」
「ここで鉢合わせた時喋ったろ。」
「いや、喋ったけど。え?俺何か言ってたっけ?」
「無理してないって言っただろうが!いけそうならいくっていうのが一番だって誰のセリフよ!」
「????え、マジでなんなんだよ?今それ関係なくねえ?」
「〜〜〜〜〜〜〜!」

関係ないのがおかしいんだよ。
自分でそれに気が付かないのかこの男。

言ったじゃん。お前言ったじゃん。
理由をつけて特定の女の子に近づくのは誤解の元だから止めたら、って自分が言った時返してきたじゃん。
こういうのは無理しないから大丈夫って。チャンスを追うんじゃなくて、来た時だけ捕まえれば良いんだって。

「あんたが今回やったそれって、無理じゃないわけ?」
「いやだから、昨日言ったことと今日のことがなんで繋がるんだよ?昨日の話は昨日の話で、今日のこれは今日のこれだろい?」
「逆に聞き返したいわ、なんで繋がらないんだよ。」
「ごめんちょっと聞いていい?wお前らさっきから何の話してんの、分かるように教えてw」
「春日は話についていけてるかい?」
「いえ、全然・・・」
「・・・昨日、丸井と此処で偶々会って。話して。」
「ほうほうw」
「その時に一条の話になって。」
「うん?」
「無理して関わり持つのって色々面倒があるんじゃないのって言ったら、無理までしないから良いんだって此奴が言うから。」
「ぶっはwwww」
「っ!」

同時に噴き出す幸村と棗。
幸村は笑っちゃいけないと思いさっと俯くが、棗はもう遠慮なく笑う。

「????え?俺なんで笑われてるんだよ、マジで。」
「ふっ、ごめんね丸井、違うんだ。馬鹿にしてるとかそういう事じゃなくて・・・」
「どう突っ込むのがこの場合最適なのかねw」

(一条さんと関わるのには無理をしない・・・でも、今日は私のために無理を・・・)

・・・そうか。
なんとなく、薄々気が付いてはいたけれど、これはやっぱりそういう事なんだろう。

「・・・ごめんなさい、丸井君。本当にごめんなさい。」
「えええ・・・おいお前まで何言い出すんだよ。何を謝ってんの?」
「丸井君は、今日・・・今日だけじゃなくて今まで何度もですけど、私のために無理してくれる事が多いと思うんです。一条さんにはしないで・・・」
「・・・いや、まあ。うん・・・・」


「・・・・それってやっぱり、私がしっかりしてなくて頼りないからですよね。」


よーーーく身に染みて分かってることだが、自分は本当にフィジカルが弱い。
ついでにメンタルも弱い。これと言ってスペックで誇れるところが無いと、紫希は本気で思っている。
勉強は多少できるけど反面運動は出来ないし、自分に自信がないしいつもおどおどしているし。

だから丸井の目には、自分は「降りかかる火の粉を自分で払えない女の子」として写っているのだ。そしてそれ故に放っておけず、ついててやらないとと思ってしまうのだろう。

「ごめんなさい本当に・・・一条さんみたいにテキパキしないといけないって自分でも分かってるんですけd「もう止めてwwwこれ以上は俺の腹筋が千切れちゃうwww」
「すげえ。我儘って優しさに昇華出来るもんなんだ。」
「まあ、必ずしも矛盾するものじゃないから。」

「・・・いやあのな?なんつうかこう、神社でも言いかけたけど。」

そうだ、神社でも言いかけた。
言いかけたところであの女性(というか幽霊というか)が出てきて、話を遮られたのだ。

「別にっていうか、お前がどうのっていうのと微妙に違うっつうか、」
「でも、確か神社では1人は危ないと思ったし、私が迷っていたからって・・・」
「そうなんだけど。そうなんだけどそうじゃなくて、えーと、だから・・・・」

(言い訳乙なのあれはw)
(いや、言い訳とは言えないよ。どうしてもこう、言い方が言い訳みたくなってしまうだけで。)

「・・・・・・」


「ほら!だから、迷ってたのがお前じゃなくて他の奴だったらそんな気になったかどうか分からねえってとこが正直あって、」
「ですよね、私だからですよね・・・」
「だからそうじゃなくて、」
「でも、」
「お前だからってのはそうなんだけど、お前が「駄目だから」とかそういう事じゃねえの。危なっかしいとか頼りにならないとか思ってるわけじゃねえよ。」
「じゃあどうしてですか?」

そう、それ。
そこが突き詰めると話の肝なのは、丸井本人を含めてこの場の全員が分かってる事だ。

紫希は端からその点を自分の負の部分に起因しているに違いない、と思い込んでいて、違うからなと否定されてもいまいちどこか信じ切れていない。気を使われていると思い込んでいる。

だからこそ、ここでちゃんと言わねばならないのだが。


「・・・・・さあ?」


「わかった。」

極めて正直な丸井にとうとう千百合がしびれをきらした。

「わかった、もう良い。解散解散。紫希行こ。」
「え?いえ、あの、」

手を引いて半ば無理やり座っていた紫希を立ち上がらせる千百合。
ああ腹立つ。真面目に聞くんじゃなかった。

「私もう眠いから寝る。おやすみ。」
「おい、」
「ほら、行こ。」
「ま、待ってください千百合ちゃん!丸井君、今日は本当に有難う御座いました、おやすみなさい、お疲れ様です、又明日、」
「おやすみw」
「おやすみ、2人とも。」

紫希を引きずるようにして部屋に向かう千百合に、幸村は苦笑、棗は大爆笑。
丸井は何とも言えない釈然としない顔だが。

「ちぇー。」
「いや今のはブンブン君が悪いよw」
「俺が悪いのは分かってるって。だから引き止めなかっただろい?」
「でも丸井、やっぱり「さあ」とだけ言うのは良くないよ。春日は多分、今頃悲しんでいると思うし。」
「は!?なんで!?」
「そりゃそうでしょw性格と文脈考えてやってよw」
「春日はそもそも自分に自信がなくて、自分が駄目なばっかりにって思っていたんだよ。それに対して違うっていうのは言いけれど、どう違うのかを説明する時にそれは分からないって言われても信じられないというか・・・気を使って嘘を言ってるんだって思っても仕方がないさ。」
「マジ?まあ・・・そっか。そうかも。」
「ていうか、大体さあって何よさあってw分かんないの?w」
「うん。」
「なんでだよw」
「んな事言われたってわかんねえよ。別にさっきだって嘘言ったわけじゃねえからな?春日が駄目だから特別心配だとかそんな理由じゃなくて・・・」
「じゃなくて?」

でも。
でも。

ちゃんと考えないとと思って、ちゃんと考えるけど考えれば考えるほど。


「・・・春日だから、って以外に理由が別にねえんだよな。」


最終的にそこに落ち着いてしまう。
何回考えてもそう。だから困るのだ。

「やべえw正直すぎて逆に嘘つきみたいなことになってるw」
「そうなんだよなー・・・」

丸井だって、言われる側の気持ちに立ってみたらなんじゃいそりゃあと思ってもしょうがないと思う。
でもだからって嘘を言うわけにはいかないし。

という心理がわかるから、幸村はあまり責める気になれないのである。

「・・・それこそ、丸井は機会があれば春日と言葉の勉強をした方が良いかもしれないな。」
「え?」
「成績の話じゃなくてね。人間、誰しも多かれ少なかれ言葉にし辛い何とも言えない気持ちっていうものがあるとは思うけど、それに対していつも「上手く言えないけど」「なんとなく」って言い続けられても相手は困るから。正確じゃなくても良いから、限りなく自分の気持ちに近い言葉や言い方を探ってみるのも良いと思うよ。」
「ふうん・・・」

(そういう問題なのこの場合w)
(違うけど、考えるきっかけにはなると思うからね。)
(まあそれはそうかも知らんけどw)

(・・・それに、こっちの話もあるし。)

こっちの話。
というのは、江野も知っているあの丸井と一条に関する噂話である。

別に恋愛は自由だけどそれを部に絡ませないでいようね、を方針として掲げている身としては、その後の行動はどうあれ、そもそも自分で結論を出せてないというのでは困るのだ。

紫希が好きなら好きで良いし、そういう気が無いなら無いで良い。
一条や他の女子相手でも同じ事。
誰を好きでも良いんだけど、そもそも誰かが好きなのかどうかの自覚位は早めにしといて、という話。

しかも紫希はビードロズ所属だからまだ良いようなものの、丸井は部員だし一条も引き入れたいと思っている生徒なので余計困る。そうでないなら急かさないで見守ってやれるのだが。

「・・・・・・・」

言葉に。
この気持ちを言葉に。

そんな言葉、本当にどこかにあるんだろうか?なんて珍しく考え事をしながら、丸井の夜は更けていくのだった。

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