First region competition:First round 2
美味しい。
さっきから可憐は自分がそれしか言ってないのを自覚しているが、それでもやっぱり一口食べるごとに。
「美味しいっ・・・!」
「アーン?当然だろ。」
「こんな良いもの食べたのいつぶりかしら、初めてかも。」
「これは金払ってもなかなか食べられへんやろなあ。」
手料理感全開な手料理を食している立海勢と逆に、可憐達はとても家庭で出てくると思えないような高級なフレンチに舌鼓を打っていた。
可憐だって、家族のお祝い事とか母親の友人の披露宴に連れられて行ったりとかで良いフレンチは食べたことはあるが、それと比較してもこれは別格。
高級ホテルのディナーと比べて別格のフレンチがこんなあっさり出てくるってどうなんだとも思うが。
(あ、最初のオレンジジュースがもうないっ。)
「あ・・・あのうっ!ジュースのおかわり貰えますかっ!」
「かしこまりました、何に致しましょう?」
「えと、何がありますかっ?」
「大方の物は揃っております。なんでもお申し付けください。」
「え・・・」
つまり、何でもあるから自由に要求しろと言ってるわけだ。
自由度が高すぎると人は逆に困る、の良い例。
「ええと・・・えええと・・・」
「可憐ちゃん、こういう時は迷ったら家主のおすすめよ!」
「そらええな。跡部、何かピックアップしたり。」
「アーン?そうだな、こういう時は・・・・おい、今日のメニューを確認させろ。」
「かしこまりました、こちらになります。」
「あのっ、あのっ!そんな大袈裟にしないで、」
「まあまあ、可憐ちゃん♪」
「やってくれる言うんやし、任せとき。」
「・・・Voile du matinだ。」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ。」
(・・・なんて言ったのっ?)
(さあ?)
(「朝のヴェール」やって。フランス語やわ。)
一体一本幾らするんですか?とは怖くて聞けない。多分聞いたら最後、口をつける気が失せる。
「しかしいつもこんなもの食べてると、ジャンクフードとか家庭料理とか食べる気が失せるんじゃない、部長様?」
「そうでもねえよ。家庭料理には家庭料理の、ジャンクフードにはジャンクフードの良さってのがあるもんだ。高級な飯とどっちが美味いだとかそういう風に比べるもんじゃねえな。」
「まあそれこそ家庭料理は誰でも美味いわな。」
「跡部君のお母さんって、お料理するのっ?」
「多忙だからそう頻繁にとはいかねえが、偶にはな。」
「因みにお得意なお料理は何?」
「ヨークシャープディングだ。」
「・・・それなあにっ?」
「目の前にあるだろ、それだ。そのローストビーフに添えられてるそれがヨークシャープディングだ。まあ、本来これはイギリス料理だからフレンチに混じるもんでもねえんだが。」
元々イギリスに居た跡部の好物はやっぱりイギリス料理。
だから食べられるのは嬉しいものだが、それはそれとしてイギリス料理というのは基本的にはそんなに美味しくないことも跡部はよく知っていた。だからこうしてフレンチに混ぜる形で出させるのだ。
「うちのお母さんとは得意料理も違うなあ・・・」
「大丈夫よ、うちとも違うから。」
「可憐ちゃんとこ、得意料理は何なん?」
「うちはねー、ご飯じゃないんだけどクッキーが一番得意かなっ!」
「ああ良いわね〜。家庭的なお母さんって感じ。」
「茉奈花ちゃんのとこはっ?」
「うち?うちはホワイトシチューよ。ルーを使わないで作るの、もう美味しくって♪侑士君のところは?」
「うちはばら寿司やな。」
「「「ばら・・・?」」」
「・・・ああ。ちらし寿司の事や。」
「大阪弁か?」
「ちゅうよりは西日本弁やな。中国、四国辺りまでは通じると思うわ。」
(そっか・・・なんだかすっかり慣れちゃってたけど、忍足君って元々関東の人じゃないんだよねっ。)
最初こそ「わー関西弁だ、関西弁だ」みたいなノリで皆見ていたけれど、最近はもうすっかりそういう口癖のようなものみたいな感覚になっていた。そうだ。忍足はそもそもこの間まで東京の人間じゃなかったのだ。
「可憐ちゃん、京都とか大阪とか行ったことある?私まだ全然無いのよ、ね。」
「私も無いよっ!でも、いつか行ってみたいなっ!跡部君は?」
「それなりに行くな。大体仕事の都合だが。」
「まあ跡部はそうやろな。」
中学1年生で「仕事の都合」って何なんだよと思わなくもないが、本当にそうとしか言えないのだから仕方ない。
「そういえば、忍足君の従兄弟さんって四天宝寺のテニス部に居るんだよねっ?」
「ほう?西の常連校じゃねえの。」
「せやで。茉奈花ちゃんは知ってる・・・いうか、調べてて出てきたんちゃう?」
「じゃあ、本当に侑士君の親戚なの?忍足謙也君って。苗字が同じだわとは思ってたけど。」
「せやで。」
「会いに行ったりしないのっ?」
「言うて電話はしょっちゅうしてるしなあ。何をわざわざていうか、今更ていうか。」
それこそ遠恋の彼女でもなんでもあるまいに、男の従兄弟に用事も無いのにわざわざ会いに行くとか。別に嫌とは言わないが、取り立てて行く気も起こらない。どうせ盆や正月は嫌でも顔を合わせるのに。
「えー。」
「えー、てこの場合何なん?」
「侑士君が遊びに行くなら、一緒に行こうかと思ったのよ。一人はつまんないし、遊ぶにも何か目的が無いと遊びにくいし、ね。それに四天宝寺生の実力を見る良い機会だわ♪」
「い・・・良いんじゃないかなっ!連れて行ってあげたら、忍足君っ!」
「お前はなんなんだ、急に。」
「きゅ、急にじゃないよっ!ほら、部のためになるしっ!」
無論、方便である。
いや、行ったら行ったで有意義になるであろうことは確かなのだが、可憐にとっては完全に言い訳。
良いじゃないか、大阪デート。
それこそ周りに知ってる人居ないし、かなり2人きり感あってとても都合が良いと思う。
忍足も、それがわからないではあるまい。
ほら、約束の一つでも取り付けちゃいなよ。
とか目でけしかける可憐だが。
「・・・・悪いねんけど。」
「アーン?連れてってやれば良いだろ、タイミングはお前が決めれば良いんだ。」
「いや、単純に会わせたないねん。彼奴やかましいさかい。」
「え〜、ますます興味があるわ。お願い!」
「そんな会おうて頑張らんでも、全国まで出たら会えるやん。」
「嫌よ、忙しいもの!」
本当は、やかましいよりも大きな理由がある。
あの従兄弟は勘が良いのだ。
そこつついてこないでよ、な所をつついてくるのは家に居るあの姉だけでもう十二分。
「もう、侑士君ってケチね!ね、可憐ちゃん?」
「えっ?あ、う、うん。」
折角チャンスだったのに。
もう、勿体ない事しちゃって、という気持ちを持ちつつ、まさか言えるわけもないので美味しいフレンチとともにごっくんと飲み込みつつ。
でも心のどこかで、今ちょっとホッとした。
その事に可憐はまだ気づかない。
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