First region competition:First round 2




「・・・・・・」

その日の晩。
紀伊梨は自室のベッドに寝っ転がってスマホを眺めていた。

「・・・・よし、とうっ!」

通話ボタンを押す。
大丈夫、まだ起きてる筈だ。ギリギリだけど。


rrrrr・・・
rrrrr・・・


『はい、もしもし?』
「あっ、ゆっきー!起きてるー?」
『ああ、まだ起きてるよ。もうそろそろ寝ようかと思ってたけれど。』

因みに現在時刻、22:30。神の子は早寝。

『それで?どうしたんだい?』
「・・・・・」
『五十嵐?』
「・・・最近さー。」
『うん。』

「何か皆、ちょっと変わったよね?」

ん?と幸村が電話の向こうで零したのが聞こえた。

『皆って誰が?』
「紫希ぴょんと千百合っちとなっちん!ゆっきーはそんなに変わってないかなーと思ったから、ゆっきーに電話したんだけどー。」
『それはそれで少し気になるね。』

皆変わったけど、お前は変わってないな!と言われるとそれはそれで微妙。退化はしてないかもしれないが進化もしていないということなので。

『それで?変わったって?』
「うん。」
『別に変わったって構わないんじゃないかと思うけど。悪い方向に変化してる様子はなさそうだし。』
「うーん・・・・」
『あはっ。納得言ってない、って声だね。』
「だってさー!何か皆、急に知らない人みたいに見えちゃうんだもん!時々だけど!」

それは幸村も思わんでもない。
中学に入って今紀伊梨が挙げた3人はちょっとづつ変わってると思う。流石人生のステージが大きく変わっただけのことはある。

逆に、確かに紀伊梨は変わってないとも思う。

「おかーさんもさー。もう中学生になったんだからとか言うけどさー。そんな事言われたって紀伊梨ちゃんは困るわけですよー!」
『別に、皆知らない人になったわけでもないよ。五十嵐のお母さんだって、別人になれって言ってるわけでもないし。成長してるだけさ、直に慣れるよ。』
「そーかなー?」
『知らない人になったんじゃなくて、知らない一面が作られたり出てきたりしてるだけだよ。大丈夫。』
「そーなの?」
『そうだよ。知らない一面が見えたら、新しいその人に会ったつもりでもう一度仲良くなれば良い。得意だろう?そういうの、五十嵐は。』

確かにそれは得意。
ただそういう風に言われると今度は別の問題が。

「・・・それってさー、紀伊梨ちゃんはそーゆー部分がないって事だよね?紀伊梨ちゃん、あんまり自分が変わったって思ってないしー。」
『まあ。』
「それも嫌ー!何か置いてかれてる感すごいんですけどー!」
『まあね。少なくとも成長はしていないよね。』
「ひどーい!もー!」
『良いじゃないか、これから変われば。そもそも、別に無理して変わる必要もないと思うけど。』
「うーん・・・・ねーねーゆっきー、変わるってどーやったら良いのー?」
『どうと言われても困るなあ。』

そもそも、変化というのは基本的に意図的でない事が多いのだからして。

『五十嵐、何か今の自分に対して良くない所はあるかい?直さないといけないところとか。』
「えー?朝早く起きるとか?」
『そうじゃなくて、性格の話だよ。』
「・・・・別にないかな!」

紀伊梨は自分のスペックを呪うことはあっても、性格を呪うことは無い。
そこが紀伊梨の長所であり、同時に紫希や千百合ではありえない所でもある。

『ならもう、外的要因に委ねるしかないかな。』
「がい?」
『誰かが変えてくれるのを待つんだよ。』
「誰かー・・・?」

誰かって誰だろう。
紀伊梨はちょっと考えてみた。

「・・・ねーゆっきー、それってさー。」
『うん。』

「好きな人のこと?」

うん、間違いじゃない。間違いじゃないけど。

『そうと限ってるわけじゃないよ。』
「そなの?紫希ぴょんが最近良い感じなのってブンブンのせいかなーって思ってたんだけどー。」
『ちょっと待ってくれるかな、どこから説明したらいいかわからないから。』

今の一言の中に突っ込みどころは数知れず。
紀伊梨は昔からそう。無意識にぐいぐいと切り込んでいく。

『まず、春日は別に丸井が好きって限ってるわけじゃないだろう?』
「うん。でもそーなのかなーって。」
『そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれないよ。勝手に決めるのは良くない、良いね?』
「おお!うんうん、そーですな!聞いてもないのに勝手に考えるのはダメ!うんうん!」
『うん。ただ、それはそれとして丸井の影響が大きいのは合ってると俺も思うよ。』
「えー・・・」
『嫌そうだね?』
「だってー・・・ブンブンばっかり紫希ぴょんと仲良くしてずるいよ!」
『五十嵐だって仲良くしてるじゃないか。』
「そーなんだけどー!なんていうかこう・・・あのー、ほら!なんかさ、特別感みたいのあるじゃん!ゆっきー思ったことない?」
『ないじゃないけど、皆それぞれ特別だよ。例えば俺にとって千百合は勿論恋人で、特別で、とびきり大切だけど、五十嵐だって特別だよ。一番古い友達なんだから。』
「うーん・・・」
『春日だって特別だよ。彼女は俺にとって、ある意味一番純粋な、混じりけのない友達なんだ。友達と以外表現のしようがない存在という意味で特別だよ。』
「むー・・・」
『棗だって特別さ。友達であると同時に、恋人の兄弟なんだから。もしかしたら家族になるかもしれないし。』
「・・・そっかー。」
『そう。話を戻すけど、だから、春日にとっては何がしかの理由で丸井は特別で、変わる切っ掛けになってるんだ。でも、だからって五十嵐が特別じゃなくなるとかそういう事じゃないよ。』
「そっかなー・・・」
『信じられない?でも、それこそ千百合だって俺と付き合いだしてからも、別に五十嵐の事を疎かにしたり別人かっていうくらい変わったりしてなかっただろう?』
「えーーー!嘘だー!」
『いや、嘘じゃ』

「だって千百合っち変わったよ!ゆっきーと付き合いだしてから絶対変わったよ!前より可愛くなったし、ちょっと優しくなったし!ゆっきーどーしてわかんないの!?」

紀伊梨からしたら今のは信じられない発言である。
あんなに一番近くでずっと見てるのに、何故わからないんだろうか。
確実に変わってるぞ、千百合は。幸村と恋人になりだした時から、ゆるやかかつ確実に。

『・・・・・』
「信じらんないよ、もー!ゆっきー、そんな事では駄目ですぞ!ゆっきーは彼氏なんだから、千百合っちのこともっとちゃんと見てないと!」
『・・・・・・』
「ちょっとー!お返事はー!」
『・・・ああ、ごめんちょっと。言葉にならなくて・・・』
「???」

紀伊梨にとっては火を見るより明らかなことを言葉にしてやっただけだが、幸村的には今のは向こう一週間ご機嫌で居られるくらい嬉しい情報である。

そうなのか。
そうか。
いや、ちょっとそうかも、そうだったら良いなとは思ってたけど、流石に自惚れが過ぎる気がして信じないようにしてた。

電話で良かった。
こんな緩んだ顔、紀伊梨だからとかじゃなくて誰にも見せられない。

『・・・・ごめんね。教えてくれて有難う。』
「うむ!どーいたしまして!」
『ふふっ。まあ兎に角、人間っていうのは人間と関わる中で変わっていくものだから。そんな特別に考えないで。普通の事だよ。』
「うーん・・・」
『千百合も棗も変わったって言ってるけど、それはそうだと思う。中学に上がって、濃い付き合いの友達が一気に増えたからね。五十嵐だってその内どこかで少しづつ変わるさ、きっと。』
「・・・そっかー。」
『ふふふっ。まあ、その内きっと、いやでも分かるよ。』
「そーかなー?」
『そうだよ。』

君はとびきり感受性が強くて。そして不用意な子だから。

だからきっと、いつか。







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