Well done 3

「はあ・・・」
「紫希ぴょんお疲れさまー!」
「有難うございます・・・」
「よ、お疲れ。」
「お疲れ。」
「有難うございます・・・あの、千百合ちゃんに丸井君。何かその、歌ってる間に揉めてませんでした?私の気のせいですか・・・?」
「いやこいつがさ「紫希は聞かない方が良い。」
「え?」
「何でだよ。」
「何でも。」
「何だよそれ。」
「説明の通じないやつに説明すんのはめんどくせえんだよ。紫希、気にしないで良いからマジで。」
「えええ・・・」

「さてw桑原いけるかw」
「ああ、良いぜ。」
「というか聞いてなかったんだけどさw」
「ん?」
「桑原ってカラオケどのくらい出来んの?」

何と言っても、桑原は元々日本語圏の人間じゃないのである。
もしかしてカラオケに馴染みないのでは、と思いながら誘い、おう行こうぜと言われたから普通に連れてきたのだが。

「いや、別に普通に・・・そもそもブン太に引っ張られてちょくちょく来てたしな。」
「ああなるへそw」
「それに、日本語の勉強がてら色々聞いてた時期もあったんだぜ?リスニングの勉強にもなるしな。」
「確かに、語学習に於いてその言葉の歌を覚えるのは効果的だ。桑原のやり方は正解だな。」
「しかし、無理に日本語の曲を歌わずともよろしいのでは?」
「む、それもそうだな。桑原、折角の機会なのだから母国の歌を歌っても良かろう。」
「あ、いや。それはちょっと・・・」

言いよどむ桑原。

「およよ?どったの?」
「まあ日本語の曲が良いっちゅうんなら好きにしんしゃい。誰も強制はせんぜよ。」
「じゃ、じゃなくてな、」
「歌えねえんだよ、ブラジルの曲は。カラオケに入ってねえから。」

あ。の口になる一同を前に、桑原は困った笑みを浮かべた。

「前に、一度探したことがあったんだけどな・・・」
「殆ど選べねえんだよな。英語なら兎も角、ポルトガル語だろい?」
「それは確かに難しそうだね。」
「無いわけではないのだろう?」
「ああ、確かに0ってわけじゃないけど・・・」
「それこそ折角カラオケなんだからさ。入ってる曲じゃなくて好きな曲を歌いてえだろい。」

「・・・・・・!」

キラン、と紀伊梨の目が輝いた。

「桑ちゃん!」
「ん?」
「もしブラジルの曲歌えたら嬉しいー?」
「ああ、そりゃまあ嬉しいけど・・・」
「あ、馬鹿。」
「え?」

千百合の制止も遅かりし。
にい!と笑う紀伊梨の顔には、我が意を得たりという色がもう隠されてもいない。

「オッケー!じゃーそのお願いは、ビードロズが叶えてしんぜよー!」
「え。え?」
「ビードロズしゅーごー!作戦会議だよ!桑ちゃんのボーカルと紀伊梨ちゃんのコーラスで、ブラジルミュージックを演奏しちゃうのだー!」
「え、ええええ!?」

どうしてそうなる。
戸惑う桑原だが、紀伊梨を良く知る者は正直こうなるかなとは思ってはいた。

「言うと思っていたよ。」
「マジか、良いじゃんジャッカル。すげえ贅沢だぜ?」

「いやあのな、」

「何曲くらいやるー?一曲だと寂しいよねー、取りあえず10くらい?」
「五十嵐さん、桑原君は五十嵐さんではないのですから。」
「およ?」
「慣れてない人間に10曲連続でボーカルやれ、ちゅうんはキツイと言うとるんじゃ。」
「ということです。もう少し少なくして差し上げなくては。」
「そーお?」

「なあちょっと、」

「ブラジルの曲ってどんなんだwサンバかw」
「ボサノバも有名ですよね。」
「普通にポップスじゃない、好きな曲って言うと。」
「しかし、五十嵐にポルトガル語の発音が出来るのか?」
「耳は良いからな。今回は手本があるわけだし、問題ないだろう。英語曲の発音も出来ているからな。」

「ーーーおい!」

その声に、紀伊梨はぴたりと動きを止めて向き直る。

「にゃーに?」
「あの・・・あのな。気持ちは嬉しいけどその、」
「その?」
「大変だからそこまでして貰わなくても・・・」
「えー、なんでー?桑ちゃんボーカル嫌ー?」
「いや、そういう話じゃなくて!お前らだって暇じゃないんだし・・・・」

「暇だからやるんじゃないよ、楽しそーだからやるんだよ!」

ぐ、と言葉に詰まる桑原。

紀伊梨は伊達や酔狂で話してるわけではない。
やる価値があると思うから言い出していることが目を見て分かった。

「残念だけど、うちのリーダーはwこの手のことを言い出したら聞かないからw」
「諦めなって。もう止めても無駄だから。」
「ブラジル曲はやったことがないので、きっと勉強にもなります。あんまりお気になさらないで下さい。」

でも、と尚も言いかけた桑原の肩を、親友の暖かい手がトンと叩いた。

「ブン・・・」
「良かったじゃん?」

自分のことでもないのに矢鱈嬉しそうな親友は、多分お見通しなのだ。
本当はちょっと泣きそうなくらい嬉しいことも。
本当にマジでそんなことやってくれるのか、とちょっと信じられないことも。

「じゃあじゃあ桑ちゃん、早速どの曲が良いか教えて教えてー!」
「なあ五十嵐。」
「うにゅ?」
「俺達って何か参加出来ねえ?こう、簡単な楽器とかで。」
「おい、話広げんなよ面倒くせえな。」
「だってどうせなら何かやりたくねえ?」
「良いじゃんやろーやろー!皆でやろー!ブンブン何が良いー?エレキ?」
「いや、何かもっと軽い練習要らなさそうな奴。」

「会場は何処にしましょうか?それから日時と、セットリストと配置と譜面と・・・」
「お、おいおい・・・そんな大袈裟な、」
「おい、お前の為の演奏なのだぞお前が怯むな!」
「そんな事言ったって!」

「しかし、確かに大きな催しになりそうですね。」
「そうだね。抑える箱によってはもっと大きくなるかもしれないな。」
「思い付きでここまでスムーズに話が広がると、言い出しっぺも面白いじゃろうな。」
「それに味を占めている所も大きいだろう。五十嵐は特にな。」

最早カラオケそっちのけで、紀伊梨の頭の中ではガンガンイメージが組み立てられてきてもう止まらない。
ボーカルは桑原。自分も何曲かは歌わせて貰えるかもしれない。
明るいスポットライト。陽気なトーンのブラジルポップ。ロックよりも楽しい感じで、皆で歌って騒ぐのだ。

良いじゃん。良いじゃん。ナイスな思い付きじゃん、私。

「どーしよう紀伊梨ちゃんギター弾きたくなってきたー!今!此処で!」
「出来ないから大人しくチロル食べてなよ。」
「もー食べちゃったもーん!」

「取り敢えずジャッカルは今歌っちまえよ、ほら。」
「え?あ、ああ・・・」
「棗君、お題を・・・棗君!」
「えw何w」
「黒崎、編曲の段取りは家に帰ってからにしろ。」 

「また予定が増えましたねえ。」
「こりゃあ夏休み中もその先も色々目白押しじゃの。」
「これ以上忙しくしてどうするつもりなのだあいつらは・・・」
「あははっ!まあ良いじゃないか。」

忙しいのは退屈するより万倍良いことだ。
幸村も他の者も、なんだかんだそのことは身に染みて知っていた。



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